第12話 ランクアップ試験その一
「母さんはな、あんな風だがお前が心配なんだ。この前倒れたのだってそのせいだと思う。次の日には普通に仕事していたしな、体力がどうのこうのってわけじゃないようだ」
なるほど。まああの体力お化けが倒れるなんてあり得ない事だとは思っていたが、まさかそこまで気に病んでいるとは思わなかった。
「だけど、僕を呼んだ所で意味なくない?結局はまた学校に戻るんだから」
「そこなんだよな。ちょくちょく顔を出すことは無理だよな?」
「勿論だよ。これだって休学届を出して無理をおしてやってきたんだから。これ以上休学すると留年しちゃうよ」
「だよなぁ。何かいい手はないもんか」
ポリポリと頭を掻く父。腕っぷしは確かに強いとは言い難いが、感は鋭い方だ。まあ一緒に生活してかなりの年が経つのだから母親の機微を読めないというのはよほどニブチンでもなければあり得ないが。
「学校を辞めてもいいんだけどね。あまり身になってるわけじゃないし」
確かに学校生活は楽しくなりつつあるものの、それが僕の為になってるかを考えると頷くわけにはいかない。確かに入学してから魔力容量は増えてはいるものの、それは学校でなくても可能なことだ。
「別にそれはお前の人生だから好きにしなと言いたいところだが、母さんがなぁ。自分の為に息子が学校を辞めたなんて知ったらなんて言うか。多分父さんは五体満足じゃいられないだろうなぁ。お前が誑かしたんだろ!なんて言ってなあ」
あの母さんがそんなことを言うとは思わないが。
「それはないんじゃない?少なくとも話は聞いてくれると思うよ」
「父さんが殴られるのは変わらないのね」
目から何か光るものを覗かせる父親。辞めてくれ。父親の涙なんてお金を積まれたって見たいもんじゃない。
「まあ学校を辞めるにはまだ早いと思うし、まだ頑張っては見るけどね。ただ、父さんは覚悟を決めていた方がいいかもよ?」
「はいはい。父さんはいつだってそうですよーだ」
すぐいじける。男勝りの母親に、女々しい父親という性別が逆転したのではと思うほどの両親ではあるが、だからこそこうやって結ばれたのかもしれないとつくづく思う。
「まあもし辞める時は、父さんが盾になってやるから、気にしないで好きにするといい。もしこっちに戻って来るなら歓迎するがな。仕事も少なくなるし。腕の一本に比べたら安いもんよ」
とまあ、計算高いのも父親の良いところでもある。
◇
次の日、僕はゴールドランクに上がるため試験を申し込みに来ていた。
「はいリーナ。書類と、受験料の100リア」
「確かに受け取りました。試験は一時間後になりますがよろしかったのですか?」
「だからこうやって申し込んでるんじゃないか。なんだい?それとも僕の心配でもしてくれてるのかな?」
「そんな訳ないじゃないですか。生憎ほとんど裸で街を練り歩くような変態さんにかける心配はないです。私もそこまで暇じゃないんですから」
「君が一言言ってくれれば僕は変態にならずにすんだんだけど?」
「まあ、私のせいにするんですか?」
「いや、そうは言ってないんだけど」
「まさかそんな浅はかな人だとは思いませんでした。私たちの関係もこれっきりということですね」
話の飛躍が過ぎる。僕は何も言っていないじゃないか。ただ一言言ってくれればよかったよね、と分析結果を伝えただけのことなのだ。
「何か邪なことを考えていますね?まさか、これをダシに私に迫るおつもりで?よろしいならばギルドマスターを呼びましょう。その上でまだその口を叩けるというなら考えてあげないこともないですよ?さあどうしますか」
「別にそんなつもりも度胸もないよ。それにむしろダシにされるのは僕の方だ」
「それもそうですね」
なんとも、切り替えの早いこと。これも一種の職業病というやつなのだろうか。受付嬢である彼女は日に何十人という冒険者の仕事を斡旋し、確認するのだからその能力は必要なのかもしれない。
だが、普通の会話でそれを出されるとこちらが困惑してしまう。
「それで、肝心の場所は何処なんだい?一応心の準備はしておきたいんだけど」
「肝心の場所を教えてくれなんて、私をどこに連れ込むおつもりですか?しかも心の準備って、いよいよ確信犯じゃないですか!おっと、そういえばギルドマスターに用があったんでした、ここに呼んでもいいですか?」
「……」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。切り替えが早いのは確かにいいことなのかもしれないが、テンションまで急激に上げられては流石について行けない。
「よし、分かった。他の受付嬢に聞くから君はもう下がっていいよ。僕が見たところ君は心のお医者さんにかかるべきなようだ。早めに仕事を終えるといいよ」
「あら、これからゴールドランクに上がろうという人が、これぐらいで我慢の限界なんて笑っちゃいますね。もう一度ブロンズからやり直してはどうですか?因みにオススメはテルゾダンジョンです。後30分もすれば今日は閉まるらしいですし、早めに行かれてはどうですか?」
「オーケー、テルゾね。ありがとう!」
これ以上駄弁っている暇はない。後30分で試験が始まってしまうのだ。しかも、テルゾまでは駆け足でも20分はかかる距離。かといって、空を飛んでいくわけにはいかない。
「行ってらっしゃいませ」
僕は、軽く手を上げてギルドを後にする。ゴールドのランクはすぐそこだ。
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