第4話 新たなギフト

『エネルギー操作』の新たな可能性に気づかされた僕だったが、その可能性はあっけなく打ち砕かれた。僕の魔力容量ではとてもじゃないが実用性に足る効果を発揮できなかったからだ。

 具体的に言うとその当時の僕の魔力容量はドべ2の同級生と比べても100倍以上差があった。

 タダでさえ魔力のない僕が、数あるギフトの中でもとりわけ不思議パワーをもたらすギフトを使うのだ。

 新しい可能性に気づいたところで、僕がそのギフトを満足に使える道理はなかった。


 ◇


「おい、起きんか。さもないと喰ってしまうぞ?」


 それでもいいと僕は思った。意識も朦朧とした中で僕の眼前に現れたのは、絶世の美女だったからだ。美人ぞろいで有名な僕が通っていた学校の誰もが、ジャンピング五体投地しかねない美しさをその女性は持っていた。

 それでも僕が何とか意識を保っていたのは、ダンジョンの中とは思えないほどの白く、凹凸の全くない部屋にいたからだ。

 よくよく見れば影すらない。なのに相手の姿はともかく僕の姿すらきちんと見ることができていた。そんな不思議空間にいることに気がつけばこれが夢だと思うのは当然だろう。


 余りに非現実な空間であるがゆえに、少しだけ落ち着いた僕が見るところ、彼女は裸だった。その彼女が醸し出す艶めかしい雰囲気に僕は再び気絶しかけながらも必死に僕は答えた。


「と、とりあえず服を…」

「ん?ああ、そうじゃったなお主らは服というものを着るんじゃったか。これは失敬失敬」


 取りあえず僕が失血死する危機は過ぎ去った。それでも悩殺されかねない状況なのだが、これ以上の状況は望みようもない。いや、これ以下の状況か?


「どうじゃ?中々いい服じゃろう」

「ええ、少なくとも僕が見た中では一番神々しいですよ」


 服を着たことで、もはやその姿は人が欲情を持てるレベルを優に越していた。

 黄金の髪に、真白の肌。それに合わさる深紅のドレスの映えること。そんな感想しか出てこないほどに彼女の美しさは常軌を逸していた。


「神々しいとな。中々どうしてお主は鋭いではないか。流石我が試練を潜り抜けただけのことはある」

「試練、ですか?」

「ああ、扉に書いてあったじゃろう?確かボールを壊さず穴に入れろと書いていたはずじゃが。ボールではなく穴を壊すというのがミソなのじゃが、お主はトンチも利くようじゃの」


 ん?トンチだと?確かに『壊さず』がボールにかかっているならばそう取れるのか。いやしかし、あのボールと穴はどう考えても壊せるものではなかった気がする。多くの冒険者を見てきた僕ではあるが、少なくとも僕の知り合いにそれを成せる奴は一人もいない。ギルドマスターであってもだ。


「いえ、別に壊したという訳ではありません」

「何じゃと?ではどうやったのじゃ」

「僕のギフトで移動させたのです」

「ほほう?それは興味深いな。おっと、丁度いいことに、ここにサンプルがある。ほれ、もう一度やって見せよ。お主の言葉が嘘ではないなら褒美をやらんでもない。久方ぶりの客人じゃ、もてなしぐらいはしてやっても良いじゃろう」


 そう言って虚無から先程同様の仕掛けを取り出す彼女。かなり引っかかる現象ではあったが、とうの昔に突っ込む気力は失っていた。


 未だに事態が呑み込めない僕ではあるが、どうやら先程と同じことをすればいいらしい。彼女の目を見る限りでは僕に拒否権はないようだ。好奇心に満ち溢れている目をしている。

 こんな僕ではあるが相手の力量差くらいは分かる。彼女にとって僕は地に這う虫けら同然ということは本能ですら理解できていた。


「では僭越ながら、エネルギー操作!」


 先程同様、魔力が流れ込むのを感じる。しかしながら、飲み込まれるほどではない。体が熱くなるということもないし、酔うということもない。魔力を自然回復する時に感じる程度の流れだった。


「これは?」


 堪らず僕は彼女にそう問いただす。

 こんなことはあり得なかった。確かに移動させた距離は先程より短いとは言え、それでもこの程度で済むとは考えられない。何かがあるとすれば、それは彼女しかなかった。


「なあに、単純なことじゃ。お主、何か感じることはないか?」

「感じること、ですか?」

「そうじゃ、何か他の力に目覚めたような感じはないか?」


 確かに、気を失わなかったのを新たな力と言えばそうなのだろうが、しかし実感がない。ギフトをもらうときに感じた所謂全能感と言うものは微塵も感じなかったのだ。


「そうですね。魔力酔いをしませんでしたが、それが新たな力なのでしょうか?」

「正解、とまではいかんが、まあ外れてはおらんな」

「はぁ」


 いまいち要領を得ない。魔力酔いをしなかったこと以外に正解があるのだろうか?当たらずとも遠からずなんて言葉を返されては、はぁ、としか返すほかはなかった。


「そうじゃな、そろそろ時間切れなようじゃし、お主に一つだけアドバイスしてやろう。この先冒険を続ければまた儂と会うこともあるということじゃ。儂とまた話がしたいならば冒険を続けることじゃな」

「具体的には何処で?」

「それはお主自身で探すがよい。全部言っては面白みに欠けるからの。儂は娯楽に飢えておるのじゃ」


 身勝手すぎる。勝手に僕を呼んでおいて、散々謎を言いまくり、挙句の果てに知りたいならば自分で探せと仰る始末だ。


「ではまた会おうぞ人間。次に会う機会があれば名乗らせる名誉をお主に与えようぞ」


 それを最後に僕の意識は再び暗転した。

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