年収ダウン

 「オファー年収は440万円です。」


 エージェントさんはそう言った。


 現職より150万円近くのダウンである。内定を獲得した嬉しさより、不安の方が大きくなってしまった。自分でも言うのもなんだが私は同年代の人たちより現在の年収は高い方だ。もちろんもっと貰っている人もいると思うけど。


 良いことではないとは思っていたが、これまであまり出費を気にして来なかったし、そんな生活スタイルでもある程度貯金はできていた。しかし年収がダウンするならその生活スタイルを見直さなければならない。


 これまでの生活スタイルを、ダウンする年収に見合うだけ落とすことができるだろうか。Amazonで欲しくなったものを気軽に購入することを我慢できるだろうか。材料費を気にして料理することができるだろうか。できるだろうか、という不安が増していく。


 「入社支度金で30万円初年度は追加されるそうです。」


 「そうなんですね。」


 それ以上の言葉が出てこなかった。


 内定辞退の文字が頭をよぎる。


 落ち着け。私の転職の目的、動機を思い出せ。今回の転職は年収が目的ではないはず。MR以外の業務経験を積みたかったからだ。キャリに幅をもたせたかったからだ。異業種での業務にチャレンジして、金銭的にキツかったらまたMRに戻ればいい。万が一MRに戻る場合のための保険はかけてあるからいつでも戻れる。


 「成長している部署なので上のポジションは空いているそうです。」


 そこを目指してがむしゃらで働いて結果を残し、評価されることを目指す。私の当面の目標が決まった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る