架空の長編の3話くらいのエピソード

「どういうことだ?」


 暗雲に覆われ白き月が姿を隠している夜。三羽遼平みわりょうへいの顔には疑問の色が浮かんでいた。この地区に存在する境界士ジオナンサーは己のみ。当然、出没する魔影マギエットを倒せるのも自分一人──のはずなのだが。反応を察知して駆け付けたところ、転がっていたのは既に撃破された魔影マギエット。それだけでも十分おかしいのだが、輪をかけて奇怪なことに魔影マギエット影核オルコアは回収されていなかった。


「……意味が分からない」

 

 影核オルコアを取り込むことで境界士ジオナンサーは強さを増幅させることができ、場合によっては更なる能力の獲得に繋がることもある。また、影核オルコアはその筋の店で売ればそれなりの金になるため境界士ジオナンサーでなくとも拾っておいて損はないものなのだ。にも拘わらず、魔影マギエット影核オルコアは放置されている。三羽は険しい顔で思考を巡らせ、思いついた可能性を口にした。


「一、魔影マギエット同士の争い。二、何者かの示威行為。三、どこかの誰かが偶然境界士ジオナンサーに覚醒した」


 脳の回転の果てに出力された結果を一つずつ考察していく。


魔影マギエット同士で衝突する事例は何度かあったが、もしそうなら影核オルコアが残っているのはおかしい。境界士ジオナンサーだけでなく魔影マギエット影核オルコアを取り込んで強くなっていくものだ。実際、過去の全ての事例で倒された魔影マギエット影核オルコアは消えていた」


 この線は薄い、と三羽は判断する。


「何者かの示威行為……これも可能性は低いだろう。最近あちこちの地区で機械の鎧を纏った怪人のパフォーマンスが確認されているみたいだが、こんな片田舎に出張るより境界士ジオナンサーが集まっている地区でやった方が効果的だ。現にアレは境界士ジオナンサーが三人以上いる地区にしか現れていないみたいだしな」


 となると、消去法で答えは決定する。


「どこかの誰かが偶然境界士ジオナンサーに覚醒した……まあ、これが一番可能性が高いか。ひとまず、明日以降の仕事は境界士ジオナンサーに覚醒した輩の探索で決まりだ。こちらに協力的ならばありがたいが、もしそうでないのなら──」


 月光が差さない町はくらく、そして男の顔も同様にくらい。 


「──殺す」


 三羽は影核オルコアを回収すると、夜の闇に消えていった。

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