5話ヒトマル(3)


「ソラ、すべて説明してもらうぞ」


顔をずいっと近づけて威圧するも、ソラは一切気にするそぶりもない。


「なんでも答えてあげるよ。だた、まあ。座ったらどうだい?」


ソラは手をひらりと椅子へ向ける。悪びれる様子のなさに拍子抜けした。


仕方なく、リクは椅子に座って改めて二人と正面で向かい合うことにする。


経理部の女の子は、目が合うのを避けるようにテーブルを見つめて動かない。ただ、ソラの方を気にしている様子に感じた。


そんな様子から、まさかソラとこの子はそういう関係なんじゃないかと考えを走らせる。


女の子はヨウタのお墨付きな美人で、ソラの顔も悪くないのでお似合いな様子がなおさら腹立たしい。


ただ、こんな女の子が危なっかしい人間のいる組織の一員とは思えない。どちらかというと、図書館や自宅にじっと引きこもるタイプに見えた。


そもそも、どう見ても魔法使いなのになぜこの二人はこんな組織にいるのだろうか。


「あ、これ晩飯な。大したものじゃなくて悪いね」


ソラはテーブルに置かれた丸皿をリクの元へと押し出した。皿には三角にカットされたサンドイッチが3つ置かれている。


さすがにここまで来て毒なんてないだろう、疑うことなくリクは大きくサンドイッチをほおばった。


ハムとチーズにレタスと卵、ボリュームはそこそこあっても空腹のリクは飲むように食べていく。


「何から聞いていいか迷うとこだと思うから、先に話しておくけど。まずはこの子。彼女は、俺の戸籍上の妹アオだ」


アオと呼ばれた女の子がペコリとお辞儀したので、リクもつい釣られてお辞儀で返した。


「…どうも、クジョウ・アオです」


「はぁ、どうも。ヒジカタ・リクです」


我に返ってソラの方を見て問い詰める。


「っていうか、妹がいるなんて全然知らなかったぞ。それに、戸籍上のってのはどういう意味だ?そもそも、何でお前やそんな子がこの組織にいるんだよ?」


ソラは、まあまあ、となだめるように両手を持ち上げる。


「いっぺんに何個も聞きすぎだよ。ちょっと長い話になる」そこからの話は、本当に長かった。ソラは淡々と語っていった。


「まずなんで、俺がこの組織にいるかって話なんだが。そもそも俺は人間の父親と貴族の母親との間に生まれた子供みたいなんだ。みたいってのは、俺自身聞いた話でしかないから。しかも、人間と魔法使いの子供には、魔法の力は受け継がれないって言われるだろ?でも俺の髪は見ての通り、魔法使いと変わらないし魔法も使える」加えて俺は優秀だろ?と自慢げに銀髪をサラリとなびかせて言うソラのボケはリクのツッコミ待ちだったが、気に入らないのであえて無視する事にした。


残念そうに顔をしょぼくらせ、ソラは続けた。


「どうやら、俺は生まれてすぐ父親の知り合いだった魔法使いの家に預けられたらしい。大方、俺の存在が自分の活動に邪魔だったせいだろうな。それで、アオが3年後に生まれたんだ」


リクはここまでに聞いた事を頭の中で話をまとめることにした。


ソラの父親は、このヒトマルという組織の前身である『セイフ』という組織のリーダだった。


セイフは人間と魔法使いの平等を訴える組織で、なぜそんなリーダーが貴族の魔法使いなんかと子供を作ることになったのか、それはソラにもわからないらしい。


頭をフル回転させながら聞いてはみたものの、とてもじゃないが納得できない。


人間と魔法使いの間の子供は、人間と同じ真黒な髪に魔法の力のない人間として生まれてくるというのが常識だ。


もちろん、人間の扱いを知っている魔法使いでそんなことを望む者はいない。ソラの存在が本当かを確かめるすべはないので、話を信じるしかなかった。


「その事実を俺が知ったのは、もう5年くらい前のことだ。俺に1本のペンが届いてさ。それは特殊な魔道具らしくて、使い方も送り主もわからなかったんで今の両親に聞いてみたんだ。驚いたよ、そのペンは俺の本当の父親のものだって言うんだから。「えっ誰それ、俺息子じゃないの?」って話になって。そんで、さっき話したような事を教えてくれた」


ソラが胸ポケットから取り出したの、不思議な装飾の豪華なペンだった。

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