4話追跡(4)
ヒョウは、背丈や体格はがっしりとしているものの、ユキとは違い素手に武器すら持っていなかった。
マナは残り少ないが、魔法をうまく使えば抑え込めるかもしれない。
リクは魔石に力を込める。
すると、湖の水が、リクの右手の近くに集まり、一つの塊となった。
障害のせいで直接攻撃することはできないが、相手がそれを知らなければ問題ないだろう。
うまく注意を引いて、その隙に足を攻撃して動けなくする。
水の塊をヒョウへ向かって打ち出した。当てることはできないが、途中で破裂させれば目くらましになるはずだ。
目を腕でガードしている間に、木の枝ですねを攻撃する。そう考えていた。
しかし予想に反して、ヒョウは別の行動を取った。
破裂する前の水に自ら向かっていくと、それを拳で撃ち破る。そして、そのまま驚き立ち止まっているリクに向かって突進してきた。
反応が遅れたリクに向け、回し蹴りを腹部に鋭く打ち込む。
風によってガードしようとしたが、あまりの勢いにそれは簡単に貫かれ、紙切れのようにリクは吹き飛ばされた。
木に叩きつけられ、胃や肺が押しつぶされる。ほとんど反射的に、追撃が来ないよう風で飛び上がり距離を取った。
リクのいた場所に、鋭い足蹴りが突き刺さる。先ほどからの連戦に、足腰はすでにボロボロだ。リクは、膝をついて着地した。
「どうして、こうも人間は、殴る蹴るが好きなんだ…。野蛮人め」リクは苦々しい顔で吐き出すように言った。ヒョウは眉一つ動かさない。そんな挑発も意に介していないようだった。
「どうした、本気で来い」
ヒョウは静かに淡々と言った。
「5年前、お前は競技中のアクシデントで対戦相手の足を破壊して、歩けない姿にしたそうだな。それ以降、一切の競技出場はなく、お前自身が魔法をコントロールできなくなった」
リクは、呼吸を整えるのに精いっぱいだったが、ヒョウの声は野太く嫌でも耳に入ってくる。
「あの試合の一つ前。お前が戦って勝った男だが、次の年に大会で優勝し、今やプロ選手だそうだ。お前も、続けていればきっと強い選手になっていただろうにな」
「うるせえ」ようやく整った息を吐き出す。やっとの思いで出たのはその言葉だけだった。
「だがな、裏を返せば、そいつに勝ったお前はプロ並みの実力があったんじゃあないか?事故は勝敗の記録としては残っていないはずだが、試合では一度も負けたことが無い。もっと、本気を出せば、お前は強いんだろう?」
ヒョウは拳を顔の前まで上げると、ステップを踏んで戦う姿勢をとった。
リクはその姿にかつての試合を思い出す。
そして同時にむかむかと内臓の奥底から気持ちの悪い何かが沸騰しているのを感じる。
勝手なことばかり言いやがって、何も知らないで。
リクはいらだっていた。これを仕組んだのも、今のやり取りでだいたい想像がついた。
全く、なんてことを考える奴だ。
むかっ腹が立つ。
今やリクの怒りは頂点に達し、この場にあるものをなんでも使って、この男に勝ってやると固く誓った。
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