3話ありえない
リクはこれまでの流れを思い出し、状況を観察して考えた。
あいつはすぐに攻撃してくる様子はない。先程の上空での攻撃といい、一つ考えられることがある。
ここは無茶かもしれないが、賭けに出るしかない。
リクは軋む体を何とか起き上がらせると、ヨウタを庇うようにグレンとの間に立ち向かい合った。
「お前、馬鹿か。そんな奴庇ったところで、どうせ死ぬ。無駄なことしてないで、置いて逃げたらどうだ?」
ベンケイのバカにしたような言い方に、リクは恐怖を超えて腹が立ってきた。
噛みつくように、にらみつける。
「…おいおい、待てよ。それは、俺が負けるって前提の話だろ?」
その簡単な挑発に、グレンはすぐに反応した。右手の魔道具は、熱を帯びて蒸気を発している。
「ほぉ、お前…いい度胸してるじゃねえか」ベンケイの表情に力が入る。リクの予測通り、頭はそれほど良くはなさそうだ。
「…度胸だけかは、試してみろよ」
ベンケイは、こみ上げた怒りに任せて叫び出すと同時に、左手を突き出した。
雷のような青白い閃光がいくつも周囲に湧き出る。ビルのガラスを破り、街灯が弾けた。
リクはバイクを浮かせると、右から急旋回してグレンの攻撃を避けた。
移動しながら、建物の破片を壁にし、炎で視界を遮った。ベンケイの攻撃は怒りに任せた単調なもので、間一髪のところを逃げ続けていく。
リクは避けながらも魔道具を分析していた。
左手の攻撃は範囲も威力も遠距離向きではない。だからこそこうして躱すだけなら難しくないのだ。これなら、逃げられるかもしれない。
そして、案の定こいつは左手で攻撃してきた。
勘の部分もあったが、大体予想通りだ。
左手の攻撃範囲は狭く、まだ右手で攻撃してくる様子はまだない。
疑問に思っていた。なぜ、2回もチャンスがあったのに、まだ自分が殺されていないのか。
最初の爆発では、店を吹き飛ばすくらいの火力を持っていた。にもかかわらず、上空で攻撃してきたときは足の魔道具で落としただけ。
そもそもあれは移動用で、殺傷能力はかなり低いみたいだ。
そして、間近で見た時の右手の魔道具の熱気。ゆっくりと近づいてくる奴の様子。
おそらく、右手の魔道具最初の店を爆破したときのもの。
上空では、攻撃はしないのではなくできなかったが正しいのだろう。右手は、一度使った後に一定時間の冷却が必要らしい。
そして、左手の魔道具は距離があっては使えない近距離タイプなのではないだろうか。
左手の魔道具については、わからなかったので賭けではあった。
とはいえ、動きを見る限り賭けには勝ったようだ。
しかし、移動し続けるにはもう体力が足りない。
電撃の一部が足に当たり、リクは路上に倒れ込んだ。
焦ったように体を動かすが、足が動かない。そこで気付いた、左手の攻撃は拘束のための物か。
ヨウタはこれにやられて動けなかったというわけだ。
そして、ベンケイの右手魔道具から出る熱気は、ほとんど収まりつつあった。
この状況は、まずい。
必死で頭を回せ、考えろ。この状況で、生き残る方法を。リクにできるのは、時間を稼ぐことくらいだった。
「…俺は、理解できない。なんで、お前らは…他人を平気で、傷付けられるんだ?」
リクの問いに、ベンケイは足を止める。
「あぁ?そりゃあ、仕方ねぇ話だ。この世は、力がある奴が上に立つって決まってんだよ。お前ら魔法使いが、そのいい例だろうが」ベンケイは続けて言った。
「それとも、他人を傷付けちゃならねえのは人間限定か?」
悔しいことに、ベンケイの言うことにも一理ある。人間に対する魔法使いの扱いを考えれば、当然の主張だ。
「確かに、あんたのいう通り。魔法使いは人にひどい扱いをする奴もいる。だが、それだって無差別に人を殺すような話じゃない。差はあっても、魔法使いは…人間との共存を、目指してる…はずだ」
「なーに言ってんだよ、お前は魔法使いの『裏』を知らねえからそんなことが言える。そんなことより『無差別』ってのはいいねぇ!俺にピッタリな言葉だぜ!」勝ちを悟ったのか、ベンケイは饒舌になった。仰々しく手を広げる姿は宗教家や思想家のようだ。
「みんなやれ平等だなんだ、っていう奴も居るが、そんなのは間違ってる。差は、常にあるもんだ。身長、体格、親、血筋。生まれた時のグラム数から、全てが差の始まりだ。平等ってのは死ぬことくらいさ、そうは思わねえか?」話半分にしか聞いていなかったが、ベンケイの言葉には、妙な説得力を感じていた。
こんな奴でも、組織のトップだ。人間としてこの世界で生まれた男が、こんな力を身に付けるまでに、一体何があったのだろうか。
リクは、見えないようにそっと足の感触を確かめる。
足のしびれは、落ち着いてきた。
「お前は、何がしたいんだ。自分以外、みんな殺して、王様にでもなるつもりか?」
「俺はな、武力がこの世界をどう変えられるか、それが見てみたいんだよ」そう言うと、ベンケイは肩を鳴らし、さて、と身体を攻撃の姿勢へと移した。
「おしゃべりは終わりだ。安心しろ、ちゃんと殺してやる、『無差別』にな」
ベンケイは右手を後ろに引いた。とどめの一撃とばかりに、攻撃の姿勢を見せる。
拳を大きく振りかぶり、リクとヨウタの元へ、突き出そうとした。
しかしその時、警察の到着を知らせるサイレンがベンケイの後ろで鳴り響く。
くるりと顔を後ろへ向け、一瞬気を取られたその隙に、リクはバイクへ乗り込んだ。
そして、ベンケイへ向かってバイクごと、全速力でぶち当たる。
「これでも食らえっ」
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