1話マホウツカイノクニ(4)
当たる直前リクは炎の弾を横にはじく。すると炎は目の前で左右へと広がった。
先程の炎の壁と同様、相手に直接向けなければ魔法は正常に使える。
数十発をすべてはじききると、花火のように飛び散った炎でリクの姿は一瞬男の視界から消え去った。その隙にリクは部屋の中ほどまで一気に飛び込む。
突然炎から現れたリクに、男はカスミの髪を掴み壁際まで後退した。改めてリクの顔を見て、男の表情が一瞬曇る。
「お前、どこかで見た顔だ…」男は、小さく苦笑した。
「なんだ、お前も犯罪者じゃないか…」男の笑いはリクの心を揺らした。
違う、リクは小さな声で言った。
「あれだよな、試合に負けたくなくて、魔法で相手の足吹き飛ばした」
「黙れ!」
リクは、怒りにまかせて魔法で男を弾き飛ばそうとする。しかし、マナは上手く操作できずに部屋の壁をへこませただけで終わってしまった。
男は、その様子に額に汗を垂らして口をゆがませた。次の瞬間、リクは男の魔法によって吹き飛ばされ、壁に全身を叩きつけられた。頭を打って額からは血が垂れる。
「そこで寝てろ。どうせ、人間が死んだって誰も気にも留めないんだ」
男は、カスミを引っ張り、廊下へ続くドアへ向かった。腰が抜けてうまく立てないカスミを怒鳴りつけている。
リクは床に垂れる血から目を離してぼうっと二人の様子を見ていた。ダメだ、こいつはきっとカスミが死ぬまで諦めない。俺じゃ、助けるのは無理だ。
なんて、無力なんだろう。
男の言葉がずきずきと痛む頭の傷口に響く。カスミは泣きながら抵抗している。その手には、昼間渡した『ヘルプ』が握られていた。リクははっとして目を見開いた。
たまたまその場にあったから渡した、そんな人形だ。それをこの状況でも、離さずしっかり握っている。
そんなもん、大事そうに持たないでくれよ…。助けないわけには、いかなくなるだろうが。
リクは、ゆっくりと起き上がる。一瞬、気をそらせれば。リクは姿勢を低く構えた。
気付かれないよう走り出す準備をする。そして、マナを『ヘルプ』へ向けて流し込んだ。
すると―
「オーキーローーーーー!」
聞きなじみのある大声が、突然部屋に響く。男は思わず顔をそむけた。
次の瞬間、リクは一気に男の元へと駆け寄る。助走から渾身の力を込めた右足が男の腹部を貫くほどに深く蹴り込まれた。
男の体は部屋の扉を撥ね飛ばし、無様に廊下へ投げ出された。咳とうめき声が廊下から聞こえ、気絶したのか気配が消えた。
後は、カスミを連れて出さえすれば良いだけだ。リクは安心と共に力が抜けた。カスミが神様を見るような目でリクを見つめている。
「良かっ―」
良かった。それを言い切るより早く、倒れた男の手から魔法が爆発した。ビル全体が大きく揺れる。リクは吹き飛ばされ、意識を失った。
◇◇◇
暗い。一体自分は何しに来たんだったっけ。
身体が…重い。
「オーキーローーーーー!」
再び聞こえたヘルプの大声に、叩かれたようにぱっと意識を取り戻す。
口に入った土埃を吐き出し、目を開いた。
3階の天井の一部が崩れている。カスミのいた場所にはひときわ大きな破片がいくつも落ちており、そこは瓦礫の山になっていた。
「そんな…」リクからは自然と声が漏れ出ていた。
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