神様、スマホを買ってもらう。



オーラ消失装備に身を包んだ僕は天使君と一緒に再び秋葉原という街に降臨していた。

「約束は絶対守ってもらうっすからね」

「わかっているとも!」

僕は初めて入ったコーヒーショップで魔法のような言葉で注文したコーヒーも飲まず、ピカピカのスマートホンをおっかなびっくり触っていた。

「天使君」

「なんすか?」

「以前君が見せてくれたさりぃちゃんの写真。あれはどうやって見るのかね?」

「はぁ。SNSのアプリをダウンロードして「スカーレット 東雲さりぃ」で検索したらいいんっすよ」

「あぷり…とは」

「そっからっすか…」

天使君はぶつくさ文句を言いながらも、僕のスマホをさっと触ると

「はい、できたっすよ」

と画面にさりぃちゃんを出してくれた。

「わああああああ!ありがとう天使君!マジ神!」

「はいはいそっすね」

僕はスマホの画面を見つめる。

「なん…だと…」

「どうしたっすか」

「こうしちゃいられねぇ!」

僕は勢いよく立ち上がり、コーヒーショップを飛び出した。

「どうしたんすか!神?」

僕は背中に聞こえる天使君の声も聴かず、駅前にある交番に飛び込んだ。

「すみません!この場所に行きたいのですが!」

秋葉原駅前の警察官は僕の差し出したスマホを見ては丁寧に道順を説明してくれた。

「ありがとうございます!感謝します!」

と僕が挨拶をすると警察官は

「はい。日本のカルチャーを存分に楽しんでくださいね」

と送り出してくれた。


10分後、僕はCDショップの前にたたずんでいた。悲しくて悲しくて泣いてしまいそうだった。

「ったく!何してるんですか神!」

天使君が僕を心配して追いかけてきてくれた。

「天使君…僕はこんなにも自分の無力さを感じたことはないよ」

「はぁ?」

「泣いてしまいそうだ…」

「ちょ!絶対やめてくださいよ!アキバを壊滅させたいんですか?」

「わかっているとも。だがこんな無力な神に存在価値などあるのかね?」

「話が全然読めないんですけど…。いったいどうしたっていうんすか」

僕はそれを言葉にしたら泣いてしまいそうだったので、目の前のポスターをそっと指をさすことで天使君に事情を知らせた。

「はあ?「スカーレット ファーストシングル 「レッツゴー」 発売記念イベント」?」

「SNSで確認した。今日ここでスカーレットの記念すべきメジャー1STシングル レッツゴーの発売記念イベントが開催される」

「はぁ。おめでとうございます」

「だが!」

僕はあまりの自分の無力さに膝をついた。

「僕には!このイベントに参加する資格がないのだ…!」

「あ?なんでですか…見たいなら見たらいいじゃないですか」

「いいかい天使君。今日はCD発売イベントなのだよ…つまり」

僕は力無くポスターの小さな字を指さす。

「えっと?CD一枚のご購入でイベント参加、2枚で握手会参加、3枚でチェキ撮影…」

「お金がない!!!」

僕は膝ですら立てなくなって床に伏した。

「はぁ?!アンタ神っすよね?!」

「地上のお金なんて持ってない。欲しいものはこれまで全部天使君が買ってきてくれてたし、そもそも欲しいと思うものもほとんどなかったし…」

「はぁ…」

「どうしよう天使君。泣きたくなんかないのに自分の無力さが憎らしくて悔しくて、泣いてしまいそうだ…」

僕は拳をぎゅっと握った。

「ああもう。…これもアキバの人々の為か…。はい、神様」

天使君にそう声をかけられて顔をあげると、天使君が3枚のお札を出してくれていた。

「天使…くん…?」

「これでCD3枚は買えますよね?さりぃさんとチェキ撮ったらいいじゃないですか」

「天使君…君ってやつは天使なのかい?」

「はい。産まれついてのバリバリの天使っすね」

「ありがとおおおおおお!」

僕は嬉しくて嬉しくて涙を流して天使君に抱きついた。

「あ、その涙が地上に落ちちゃったらアキバが海になっちゃうっす」

「しまったぁあああああ!」

僕は天使君にがっちりホールドされて、降り注ぐ光の柱の中を天界へと昇っていった。


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