神様、推しメンを見つける。
「アンタ自分がわかってないっすよ!こんの馬鹿神が!」
僕は天界の神デスクの前で正座をさせられていた。
「いいっすか?何があったのかは知りませんが、アンタが地上で一筋涙を零したら世界にどんな影響があるか忘れたわけじゃないっすよね!」
「…すみません」
「すみませんで済んだら警察要らないんっす!いいっすか?俺がアンタを引き戻すのがあと一秒遅れてたら、アンタの涙が零れ落ちて秋葉原の街全体が海に変わってたんすよ!」
「…すみません」
「アンタの涙一つで何万人が海の底に沈むところだったか!本当に究極にこれ以上ないくらい反省してくださいっす!」
「…すみません」
僕は天使君の言葉を聞くたびに肩を落として丸くなった。天使君の言う通りなんだ。僕は創世神。僕の怒りは雷になり僕のほほ笑みは花を咲かす。僕の涙は海になり、僕の悲しみは地を揺らす。
「…で、いったい何があったんっすか?」
「え?」
「地上で神様の心を揺さぶった何かがあったから、涙をこぼしかけたんっすよね。いったい何があったんっすか」
「…聞いてくれるのかい?」
「はい。まぁ地上に神を連れ出したのは俺なんで。他の神様に何か事情を聞かれた時、対応できるようにしとかなくちゃなんで」
天使君は嫌そうな顔をしていたが、僕は天使君とあの感動の共有ができると嬉しくなった。
「ありがとう天使君!聞いてくれ給え、僕の心は大いに震えたのだよ!」
僕は地上でもらった一枚の紙を取り出した。
「スカーレットと呼ばれていた6人の少女たちだ!」
「はい?」
天使君が不可思議だといわんばかりの顔をするので、僕はその紙をもっと天使君に見えるように彼の顔に近づけた。
「小学校からの幼なじみで結成された6人組アイドルスカーレット!赤色担当みぃたんは美人な顔立ちでありながらくしゃっとした笑顔が可愛すぎる!ダイナミックな踊りでみんなの視線をくぎ付けだ!青色担当ゆうな様は長身美少女で歌が抜群に上手い!冷たそうに見られがちだがメンバーを思う気持ちは一番の隠れ熱血だ!黄色担当わぁさんは小さくて可愛い!いつも笑顔の人気者!誰かの心にそっと寄り添うことができる本物の優しさを持った子だ!桃色担当はなちゃんはその名の通りそこにいるだけでぱっと花が咲いたような天性のアイドルだ!柔らかな歌声はマジ癒し!緑色担当れいれいはみんなの妹ドジっ子属性!歌もダンスも上手ではないが一生懸命頑張っている姿に胸を打たれる!そして紫色担当さりぃちゃんだ!」
僕はここで一つ息をついた。
「か、神様…?」
「紫色担当さりぃちゃんは…」
「はぁ」
「不憫な子なんだぁぁぁぁぁあああ!」
「はい?!」
「いいか!アイドルというのは「センター」というものが重要なんだ!写真や立ち位置で真ん中にいる子という意味だな。センターというのは必然的にそのユニットの看板的存在!圧倒的カリスマが求められる上、このセンターというポジションががうまく機能しないと他の立ち位置の子の魅力が見えてこないから、センターとはアイドルユニットにおいて絶対的必要であり超重要ポジションだ。と、そこで6人組という形態を考えてみよう!まず6というのは偶数だ。フォーメーションを組んだ時に「真ん中」というものが存在しない。しかし先述の通り「真ん中」いわゆる「センター」というポジションは絶対必要だ。そんな時どうするか、わかるかい?」
「わかんないっすけど…」
「そう!「センター後ろ」というポジションを作るんだ!」
「はあ…」
「いいか?5人なら!5人なら綺麗なポジション取りができる!天使君も見たことがあるだろう?ゴレンジャーのあの美しすぎるフォーメーションを」
「はぁ、まぁなんとなくわかるっすけど…」
「そこでだ!幼なじみ6人組の「スカーレット」紫色担当!リーダーさりぃちゃんは!「私、スカーレットのみんなが大好きだから、みんなが一番輝くポジションにつくのがいいと思う」と言って、自らセンターの後ろに隠れるような日の当たらないポジションにいるんだよぉぉおおおおお!」
「はぁ、そうっすか…」
「健気だ!実に健気だと思わんかね天使君!僕はね!決めたんだ。そんな健気リーダーさりぃちゃんを応援すると!そう心に刻んだのだよ!」
「はぁ…」
天使君はいささか呆れたような声を出し、スマートフォンを取り出していじり始めてしまった。ああ僕のプレゼンが上手くないせいだ。スカーレットの、さりぃちゃんの魅力が存分に伝わっていない。僕は自分の力不足に拳を握っていると
「この子っすか?」
天使君はスマートフォンを僕に見せてきた。画面にはさりぃちゃんの笑顔が映っている。
「こ、これをどこで…」
「どこでって。普通に検索しただけっすけど」
「けん…さく?」
「いや、アイドルなら普通にSNSやってるっしょ、と思って。神様が見たライブのお礼をつぶやいてるっすよ」
「貸してくれ!」
僕は半ばひったくるかのように天使君の手からスマートフォンを奪った。
「…天使君。ズバリ相談があるのだがね…」
「え…スゲー嫌な予感するんですけど、なんすか?」
「…僕に…スマートフォンを買ってはくれまいか」
「え。嫌っすよ。ただでさえ仕事しない神様に何で俺がスマホ買ってあげなきゃいけないんすか」
「するとも!」
僕は高らかに宣言した。
「仕事?ああするともするとも!地上にこんなに素晴らしい世界があると知った!僕はこの世界を、さりぃちゃんが息をしてご飯を食べて笑っているこの世界を!絶対に良いものにするさ!…だからスマホ買ってください。おねがいします。」
僕は滑るように華麗に土下座をした。天使君は頭を抱えている。
「…本当に、仕事ちゃんとやるっすか?」
「もちろんだとも」
「一日のスマホ使用時間は1時間未満にできるっすか?」
「ああ。一日一度さりぃちゃんの笑顔が見られたらそれでいい」
「嘘ついたらはりせんぼん飲んでもらうっすよ」
「千本でも一万本でも飲みほそう。それが神の試練だというのなら」
「だから神様はアンタっすよ…」
僕は何度も何度も頼み込み、次の日曜日に天使君にスマホを買ってもらう約束を取り付けた。
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