いいよ、いいよ、いいよ、ぼくはごみだから。
@Eucalyptus
第1話
「おい、こいつのとーちゃん、ゴミ処理場で働いてるらしいぜ」
「じゃあ今からゴミな」
「ごーみ!ごーみ!」
いつからこんな風になっちゃったんだろう。
確実に、私のせいだけど。
──できたばかりのテーマパークの話題で持ちきりだった。
「お父さんが働いてるとこの近くだよね」
「うん、そうだよ」
「え、あの近くってゴミ処理場もあるよな、XXの父ちゃんゴミ処理してんの?」
「さぁ」
表情は変わらないけど、顔色が若干悪かった。
この話をYYが翌日には聞きつけて、1週間も経たないうちに冒頭の状況だ。
YYは頭は悪いが声がデカく、多少強引にでも目立つためにクラスの空気を引っ掻き回す。
「ごめんね?」
「いいよ」
XXのお父さんの職場の働きがこんな大ごとになるだなんて。
顔色を伺うと、彼は何か考えているようだった。
──
「おい、ごみ。」
日が経ってもYYはXXをゴミ呼ばわりするのに飽きなかったし、クラスメイトも、その対象になりたくないから聞き流していた。
YYは呼び名を変えるだけじゃクラスメイトの注目を集められないことを悟ってか、机にゴミと落書きをしたり、物をゴミ箱に捨てたりし始めた。
「ごめんね。」
捨てられた物を一緒に拾いながら言った。
「いいよ。」
彼は捨てられた物を受け取ってもう一度ゴミ箱に入れた。
──
XXがダメージを受けてないのが面白くないYYは、彼を孤立させることに尽力した。
「おい、ゴミが床に落ちてるぜ。ゴミはゴミ箱に居ろよ。」
他の人に近寄ろうとするのを大袈裟に騒ぎ立て、グループワークでグループを組む邪魔をする。周囲は面倒に思うから遠巻きに眺めている。私も、だ。
──
一緒に帰ろうと彼がきた。
「ごめんね……」
「いいよ、ぼくはごみだから。」
彼は一人で帰った。
正確にはYYとその取り巻きがXXを追いかけて行った。私も、彼らを追いかけた。
XXの家の近くでXXに追いついたYYは声をかけた。
「おい、ゴミ」
「あ?こいつはゴミなのか?」
しゃがれた低い声が聞こえた。
XXの家の前にしゃがんでいる人影が見えた。
長く雑に括られた黒髪の隙間から、刺々しい視線と荒れた声。XXの父親だ。
「うん」
問いかけにXXが答える。
「ゴミは処理しなきゃなんねぇなぁ?」
鋭い視線をYYへ向けた後、視界に見えないはずのこちらへも同じように向けてきた気がした。
XXは父親に引き摺られるように家へ入って行った。
YYはほうけたような表情で暫くそこに居たあと、家へ帰った。
──
翌日、YYはXXの持ち物を綺麗にし、席へ置いた。
XXは来なかった。
それからどれだけ経ったろう。
クラスメイトとテーマパークへ行く最中、黒く雑に結んだ長い髪の男を見た。
どうしてだろう。いつの間にか、XXの席も持ち物も無いし、こんなに席が減ってるのに。みんなも、私も、忘れたように過ごしている。
いいよ、いいよ、いいよ、ぼくはごみだから。 @Eucalyptus
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます