その254 えくしゅかりば~
不安と期待からドキドキ超えて心臓がドッカンドッカンとバトルしている私を尻目に、エクシュの発する光は光量を増していく。
やがてその力強い光は収まっていき、突き刺さった剣を手にし現れたのは──黒髪をきっちりとオールバックに整えたアラサーのイケメンだった!
片目に装着された執事を思わせるモノクルがあまりにも好み過ぎて、多量に私の趣味も感じられる作りとなっていたが、しかしながらそのクールな表情は頼りがいに満ち溢れていて、大人の色気と大人の懐の深さを同時に感じられた。
要約すると……私の妄想が具現化しただけあって、めちゃくちゃのくちゃくちゃに私好み過ぎる容姿をしていた!
まるでオーダーメイドしたかのようなフィット感!
メイドイン私かよ! いや、私だけど! あと一応メイドでもあるけども!
咄嗟の妄想とは思えないほどよく出来たその姿に私は私に感謝した。
擬人化エクシュは本当に心の底から自分を褒め称えたくなるほどの素晴らしい出来栄えで、私天才か?と珍しく言いたくなるくらいだったのだけど、しかし、即座にその思い上がりを知ることになる。
お気づきだろうか、まだ服装には言及していないことを。
光のせいで首から下は高身長であることしか分からなかったのだけど、ゆっくりと消えていく光の中から出てきたエクシュの恰好は──Tシャツ短パンだった。
Tシャツ、短パンだった。
もう筋肉で服を虐めているのかってくらい肉が浮き出た、Tシャツ短パン姿だった。
……そこは執事服とかにしておこうよ!
せっかくの大人の男なんだからさー!
しかもTシャツの胸元には雑な書体で『えくしゅかりばー』とプリントされており、ダサきこと山の如きだった。
……なんでその名前を啓蒙しようとしているの!?
ヤバイ! エクシュがクソダサマウンテンを登頂しちゃってる!
誰だよ! こんなイケメンの服をエベレストじゃなくてダサベストにしたのは!
……私です! 別にベストですらありません! ごめんなさいいぃぃぃぃぃいぃぃ!
少しでも自分に期待してしまった自分を私は恥じた。
やはり私など褒め称えるべきではなかったのだ。
ラウラ・メーリアンは罵られるくらいで丁度良い。
どうやら咄嗟の私の妄想によって具現化されたのは『大人のイケメンだけどファッションがクソダサ』というものだったらしい。
うん、好みだなぁ。私の好みで、確かに私の妄想だ。
でも今すべき妄想ではなかったかなぁ!
もうなんか休日のお父さんみたいになっちゃってるじゃん! ヤバいって、休日のイケメンは大好物だけど、ドラゴンの背中で剣を持っている人じゃないって!
「なんとこの姿は……この姿は……」
エクシュ自身も己の今の姿には怒りを隠せないのか、目を見開きわなわなと震えていた。
あっ、その表情めっちゃ好き……じゃなくて、流石のエクシュもこの格好にはご立腹のご様子。
当たり前だ。どこの誰が戦いの最中にいきなりクソダサTシャツを着せられて喜ぶと言うのか!
……こうなったら私がすべきことはもう一つだけだ。
土下座をするしかない!
日本古来より伝わる謝罪方式、THE土下座を敢行する必要がある。
初期は膝を突くだけでも土下座と呼ばれていたらしいが、勿論私は現代に合わせて進化した最新の土下座、頭を地にこすり付ける土下座でいかせてもらう。
もう既に四つん這いになっているのであんまり姿に代わり映えはないし、その上ここは地面ではなくドラゴンの背なので鱗に頭をこすり付けるという高級な土下座になってしまうが、もうそれは致し方ない。
とにかく謝罪の気持ちを我が肉体で表現しなくては……!
土下座を決意した私は厳かに頭を下げて謝罪の意を述べようとしたのだけど──その言葉はエクシュの次の言葉によってかき消された。
彼は跪き、私に目線を合わせた上でこう言った。
「このような素晴らしい姿を用意して貰えるとは……主よ、我は感謝が尽きないぞ」
「……えっ?」
「我好みの最高に緩い格好だ」
………………予想外の言葉に一旦頭が真っ白になる私。
そして次に頭に彩られた思考は「あっ、そういればエクシュって割とダサファッション好みの剣だったわ」というものだった。
まさかの大正解。
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