その255 ダサさ相対性理論


「堅苦しい格好はどうにも好きになれない。たとえ極寒の空にいようとも、たとえ灼熱の地にいようとも、我は緩くやっていきたい」

「それは流石に装備を整えた方がいいと思うけれど、ま、まあ、お気に召しているのなら良かったよ……複雑な気分だけど」


 またも己の失敗を気に入られてしまった私である。

 こういう時、クリエイターとしては「よかったぁ」という気分と「想定してないんだけどなぁ」という気分が混ざり合って、大変よく分からない気持ちにさせられる。

 全力で描いた絵がウケなくて落書きがウケる現象……!

 割とあるあるだ思います。


「これも全ては我と主の絆の力だ。我は誇りに思うぞ」

「私とエクシュの絆の結実がそのTシャツなのかぁ……」


 アイロンプリントでくっついていそうな絆である。

 洗濯したら誇りごとはがれちゃわないか心配。

 埃だけにね。


「いや、最も結実しているのはこれだろうな……剣だ」


 そういってエクシュは突き刺さった剣を握りしめる。

 こうして擬人化させたエクシュだけれど、それはそれとして剣のエクシュはそのまま存在しており、彼の手に変わらぬ姿で収まっていたのだけど──その姿が輝き始める。

 け、剣の方はまだ変化前だったのか!

 

「今、剣から我の意識は外へと飛び出た。それ即ち、枷から外れたことを意味する」


 光り輝き続ける剣を眺めながら、エクシュがひとりごちる。

 その声色は何故か感慨深そうだった。


「枷って、そんな封印みたいな……」

「まあ、言わば封印であるな」

「封印なの!?」


 ここに来て衝撃的な事実を知ってしまった!

 ……えっ、も、もしかしてエクシュさん、剣に封じられた存在的な人だったりします?

 だとしたらそれを解き放ったのって、とんでもない背信行為だったりします!?


「まさかこんな方法で我を表に引っ張り出すとは驚きだ。口で言うほど容易ではないのだぞ、リアルな人体を思い描き、それを具現化させると言うのは」

「も、もしかして、私、かなり変なことしちゃった? 擬人化っておかしい?」

「やろうとするのも実現させるのも、主だけであろうな。想定外の挙動であることは間違いない」


 知らないうちにバグ技みたいなことをしてしまっているらしい。

 ……な、なんか怖い! バグが行き過ぎて進行不能になったりしないか怖すぎる!

 というか、なんかすっごく怒られそうな気がする!

 ニムエさんあたりの反応がすっごく心配だ……!


「そして刮目せよ、これが竜を斬る剣の姿である」


 一人震える私をよそにそう宣言したエクシュは、長らく、本当に長らく竜の背に突き刺さったままだった剣をついに抜き去り解き放つ。

 それと同時に光も収まり、現れたのは美しき刀身。

 それは落書きとは程遠い、威厳と尊厳に満ちた美しい剣だった。

 

 理想的、思い描いたとおりの剣!

 あっちの方の修正は成功していたんだ!

 ついに落書きソードから解放されたその姿には感動で震えてしまう程だったけれど、しかしながら、高身長オールバックのイケメンがダサTシャツ短パン姿で竜の背に乗り剣を掲げている光景はあまりにもシュールすぎた。


 意味不明すぎて言葉も出ない。

 この情報だけでどういう状況か応えられる人、きっと皆無だよ。

 まるでダサパワーが剣からTシャツに移動したみたいだ……。


「さて、暴れられる前に仕事を済ますとしようではないか。全ては我が主の為に」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る