その252 妄想するともうそうなっちゃう


「まずは定規を用意しないと……」

「主よ、竜の背でそんな暇はないのではないか?」

「くっ、製図からリベンジするのは不可能か……!」


 本当はお絵描きの段階からやりたかったけれど、今の状況ではそんなこと望むべくもない。

 そもそもこんな揺れに揺れている状況でペンを走らせるのなんて不可能だし、紙も何もないので致し方なかった。

 やはり私の武器は妄想一本!

 妄想と言う名の私の武器で私の武器を作るしかない!


 今必要とされている要素をまず考える。

 それは竜の体だけを切り裂くような素敵な剣、竜の体は大きいので必然的に刃が伸びる剣が良いだろう。

 いっそ刃が光を纏いレーザービームとか出せればもっといいのではないだろうか。

 オタクの好きな物、それは光である。

 闇属性の存在なので追い求めて止まないのかもしれない。


 昨今のフィクション界隈では剣から光が放出されたり斬撃を飛ばしたりで、近接武器なのに遠距離攻撃を可能とするのはもはや当然のような風潮があるけれど、冷静に考えるとなんだかおかしな話である。

 それなら別に剣じゃなくてもいいもんね。


 しかし、剣じゃなくてもいいけど、剣であるのが重要なのも事実。

 なんたって剣は──かっこいいから!!!!

 かっこよさは大事な理由と成り得ます!


 そんなわけで私は竜の体を真っ二つにするような斬撃を放つ剣を、光を放つ剣を想像しようとする。

 するのだけど……。


「主よ? 全くイメージが伝わってこないのだが?」

「……ごめん、エクシュ。想像できなかった」


 それらの妄想を確固たるものにすることは私には不可能だった。

 何故無理なのか、それは持ち手が私になってしまうことにこそある。

 私の持った剣が──そんな斬撃を放ったりするわけない!

 このクソ雑魚な私が!

 一の腕だけじゃなく二の腕まで枝な私が!


 そう言うのは剣士の技量も求められるイメージが強いので、私を含めてしまうと妄想するのが困難だった。

 しかし私が扱える妄想でないと意味がない。

 もうグレンやイブンに渡している隙も暇もないからだ。

 そもそもエクシュを抜くことも出来ない以上、今ここにいる私でなんとかするいかない。

 でもどうすれば……。


 思考が暗礁に乗りあがってしまった私は、己の非力を憎んだ。

 くそー! ここにいるのがクソ雑魚大将軍でなければな!

 私以外ならエクシュのパワーを十全に扱えて余裕だったろうに……ろうに……ろうに? うん? そうか。


「じゃあ私じゃなければいいのか」


 それは天啓のようなひらめきだった。

 これまでのイメージでは無理だと悟った私はやり方を変える。

 もう私なんていらない! 私なんかがいなくても立派な剣、それがエクシュなのだから!

 イメージするのは私が扱う剣じゃない……自分でドラゴンを斬る剣。

 即ち擬人化……!


「今からエクシュを擬人化します!!!!!!」

「なにゆえ……」

「大丈夫! 安心して! 私、こう見えても擬人化の妄想は得意だから!」

「それに得意不得意があることに驚くのである……」


 エクシュは突然興奮する私に困惑しっぱなしだけれど、私の興奮はそんな柔な反応では止まらない。

 エクシュが擬人化する。それは私の性癖に全力でハマっていて、凄まじく妄想を掻き立てる概念だからだ!

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