その251 聖剣をもう一度

 

「本当にありがとうエクシュ……! すぐに抜くからね!」

「問題点としては我を抜くとまたドラゴン本来の力が復活する危険性があることだ」

「あばーっ!?」


 エクシュの言葉を聞いて力を込めていた手を即座に刃から離す。

 あっぶなっ! PCの電源をぶっこ抜くような大惨事を起こすところだった!


「そう言うことは早く言って! 抜きかけちゃったよ! だ、大丈夫かな……」

「すぐに刺しなおしたので大丈夫であろう」

「そんなUSBみたいなノリであってるのか疑問しかないよ」


 冷や汗を拭いながら私は再びエクシュを見つめる。

 現在、ドラゴン抑止力として成立しているエクシュを抜くわけにはいかないらしい。

 しかしドラゴンの身を斬らないと元のトラコさんに戻らない。

 そうなると……このまま斬るのが一番という結論にはなるのだろうけれど……。


「斬りまくればドラゴン要素が消えて元に戻るって話なんだけど、このまま斬れそうかなぁ」

「残念ながら刀身が短すぎて厳しいと言わざるを得ない」

「だよねぇ……うーん、どうしようか」


 いくら切れ味が鋭かろうと、小さければ大きなものを斬るには不適格だ。

 その上で刺さったまま斬ると言うのは勢いも何も無さ過ぎて。ちょっと難易度が高すぎた。

 小は大を兼ねない。しかし逆にエクシュが大きかったとしてもやはり扱いにくいので大は小を兼ねない。

 

「重さはそのままで伸びたり縮んだりしてくれたらいいんだけどなぁ」

「可能である」

「でもそんな都合良くはいかないよねー」

「可能であるぞ」

「せめて私がムキムキマッチョだったらな……ごめんね、エクシュ、私がムキムキじゃなくて。ポチョムキンじゃなくて」

「可能であるぞよ」


 ……ぞよ? 

 あれ、ずっと一人で話していたけれど、先ほどからエクシュはなんと……?


「な、何が可能であるぞよ?」

「伸びたり縮んだり我は出来るぞ……よ」

「マジぞよー!?」

「マジぞよ」

 

 すごい都合が良い話を聞いてしまったぞよ!

 なんかちょっと照れているのか刀身を赤くしているエクシュだけど、今はそんな可愛いことは置いておいて──さすがは伝説剣! 多機能すぎる!


「我と主の今の関係ならば、主の意思で我の姿を変えることは可能である。元々、我は主の想像で形作られているからな」

「な、なるほどー! 元々決まった形はないわけだから、伸び縮みも自由なんだ……えっ、じゃあ、もうエクシュもへっぽこボディとはおさらばできるってこと?」


 現在のエクシュの見た目は子供が描いた落書きなのだけど、これは私が咄嗟した走り描きが起因となっている。

 私としては気を抜いていた時の絵が具現化したようなもので、ヒジョーに心が痛い出来栄えだったのだけど──それがついに修正される時が!?

 だとしたら待ちに待った瞬間すぎるのですが! リテイク希望! リテイク希望です!


「あくまで一時的である。我の今の体はこれと決まっているのでな」

「がーん……一時的かぁ……」

「主よ、何度も言うようだが我はこの体が超オキニである」

「私が気にしちゃうんだよねぇ」


 納品した作品に誤りがあった時のような心苦しさが続いているのだ。

 しかもそれを先方がお気に召していてリテイク不可という地獄……。

 うん、でも仕方ない。エクシュが気に入っているのなら無理に変える方が可哀そうだからね。


 こうなったら一時的だとしても、この一瞬に強く輝くような素晴らしい剣を思い描くとしよう。

 あの頃の後悔を乗り越えて、本物の聖剣を今ここに!

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