その250 デバフがかかっていた


 好感度を忘れた動きのおかげで私はなんとかエクシュの元まで辿り着いた。

 今は好感度より好漢度が欲しい私である。

 男らしくエクシュを抜き去りたい。

 しかし立ち上がるのも怖い!


 虫移動が私にピッタリとハマりすぎて、もはや這いつくばることに安心感すら覚えている私だった。

 竜の全身から繰り出される揺れも、こうして四つん這いで抱きしめているとちょっと愛おしくなるくらいだ。

 ……私の母性本能、もしやガバガバに狂っていらっしゃる?


 実際問題、立ち上がってすってんころりんと転がり落ちていてはこれまでの苦労が水の泡になってしまうので、立ち上がるリスクは犯せない。

 なんとか這いつくばったままでエクシュを抜く手段はないものか。

 持ち手を掴まないと刃で手が切れちゃうしなぁ、いや、いっそ切れちゃってもいいか?……なんて考えていた瞬間思い出した。

 そういえばエクシュって別に切れないじゃん!


 今はこうして頑強なドラゴンの体に突き刺さっていることから勘違いしてしまったが、本来のエクシュの切れ味は酷いの一言である。

 つまり刃を持ってもなんの問題も無し!

 ここに来て切れ味の無さが役に立つとは。


 そんなわけでエクシュの刃に手をかける。

 決して主とその他諸々を傷つけない出来た剣であるエクシュは、私の弱弱な肌にも傷一つ残さない。

 これで私の傷がついていたら私が魔の物だと証明されてしまうところだった。

 危ない危ない、私の魔の如きオタクな内面は例外だったようですな……。


「むっ、その幼子の如き感触は主か」


 剣に触れたことでこちらを認識したのか、慣れ親しんだ渋い声が聞こえてくる。


「エクシュ! よかった無事で……いや、私そんな風に認識されてたの!?」

「おててがちっこいから無理からぬ認識である」

「おてては確かにちっこいけども」


 更にちっこいのが足の指であり、水泳の時間などで他の人の足の指を見ると長すぎてよくビビっていた。

 特に男子の足の指はなんか関節の数が一個多くないですかと言いたくなる。

 って、そんな話をしている暇はなくて!

 竜の背で指談義なんてしてる余裕ないんですよ!

 どこか緊張感がないエクシュだが、もしや今自分が置かれている状況を認識できていない?


「エクシュ、現状認識って出来てる?」

「うむ、出来ているどころか、今もドラゴンに対して攻撃を継続中だ。刺さっているであろう」

「刺さってるって事象を好意的に言い過ぎじゃない!?」


 確かに突き刺さり続けているのは攻撃継続中と言えなくもないけれど、流石にそれは事実に即していない気がする。

 刺さっているだけでもめちゃくちゃすごいんだけどね?


「ああ、そうではなくてだな、我が魔物に刺さると自動的に対象の力を吸い取っていく性質があるのだ」

「えっ、じゃあ本当に攻撃中なんだ! 事実に即しまくってた!?」

「通常よりドラゴンが弱弱しいであろう?」

「それは全く分からないけれども!」


 どうやら比喩でも美化でもなく、エクシュは本当に継続してドラゴンにダメージを与えているらしい。

 エクシュの魔の討つ力はどうやら私が思っている以上にとんでもないもののようだ。

 す、すごい、すごすぎる……すごすぎるけれど、全然弱っている気はしなかったな!

 結構な暴れっぷりだったもの!


「ドラゴンが万全な状態なら暴れ方はこんなものではない。我が落っこちてきてこいつに刺さったのは幸運だったと言える」

「じゃあ、もしかして普通なら私たち三人でドラゴンに立ち向かっても話にならず死んでたってこと……?」

「であるな」

「あ…………危っ!!!!!」


 推しがすごすぎて全て推しのおかげで上手くいっているのかと思っていたけれど、なんとか戦えていたのはエクシュの助力によるところが大きかったのか!

 危なかった……エクシュが刺さらずに竜の鱗に引っかかっているだけとかだったら、今頃私たちは誰が誰かも分からない肉塊となっているところだ。

 推しと一つになるのが夢の人もいるだろうけれど、こんな一つになり方は絶対に嫌すぎる!

 

 知らぬ間に窮地を救っているエクシュ。

 やはり彼は私には勿体ない名剣なのだった。

 今度ピッカピカに磨いてあげないと……。

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