その153 頼るしかなかった
★
「と言うわけで、メーリアン家に対しては愛情深い人でした」
封印から脱出した私は椅子に腰かけて、焚火に当たりながら、内部であったことをみんなに話していた。
椅子なんて何処から……と思われるでしょうが、こんな時もあろうかと言わんばかりにお兄様が用意していたのです。
テントとか食材まで一緒に持って来ていたのであまりにも準備万端すぎる!
恐らく、前回の私の様子を見て下山には時間が掛かると思ったんだろうな……。
「なるほどね~、そういうタイプだったか~」
「だから世界を滅ぼすことはないと言っていましたが……」
「あまり信用できるものではないな」
当のメーリアンであるお兄様の反応は実に冷ややかで、あまり本気に受け取ってはいない。
まあ、その反応が普通ですよね。
私はクロウムさんを好きになっちまったので信じてしまっているだけで、実は根拠はなにもないのだから。
「本当だとすると、ラウラ様とジョセフ様は生きているだけで世界を救っているのですね!」
「起きて食べて寝ているだけで世界の救世主になれるなんて楽ね~!」
「せ、正確には血脈全体だし、クロウムさんの妹さんの功績が大きいと思う!」
「その妹だが、心当たりがある」
「えっ、ご存じなのですか?」
「色々調べたからな」
もはや知らぬものなしのお兄様である!
まあ、これは一応メーリアン家のことであり『真実の魔法』を調べる過程で手に入った知識なのだろうとは思うけれど、それにしたって詳しすぎた。
というか、考えてみればクロウムさんの妹さんは中興の祖(危機的状況の回復を達成した指導者のこと)みたいなものだもんね。メーリアン家の者なら知っている方が普通なのかもしれない。
……私は全く知らないけれど!
「タバサ・メーリアンのことだろう。存命だぞ」
「………………えっ! 生きているんですか!?」
「表舞台に出てくることはないが、世界中を旅しながらひっそりと暮らしているらしい」
「なんかひっそりのレベルが違うわね~」
「確かにひっそりしている人はあんまり旅しませんものね……」
なんというか、偉大な人は大体偉大な魔法使いなので結構長生きしているものらしい。
ジェーンもかなり長生きできそうだなぁ……ううっ、そんな貫禄の増した姿も見たい!
私も頑張って長生きしよう! 毎朝のランニングと食生活に気を配ろう!
私がお婆ちゃんになっても若々しいジェーンの姿……想像するだけでときめきで泣けてくるものがあった。
生きるしかないな!
「まあ~、封印もとりあえず修復したし~、しばらくは様子を見ましょう~」
「私も通わないといけませんからね……あれ、というか、封印は直してもクロウムさんとお話できるのでしょうか?」
「ラウラちゃんの体質は相当なものみたいだから可能でしょうねぇ~」
「ラウラ様すごいです!」
決して私自身の手柄とは思えないのだけど、両手を合わせて褒めてくれるジェーンの姿が可愛すぎたので、私の手柄ということにした。
私はすごいのかもしれない……!
「何度もここに来ると言うのは少し心配だが……」
「クロウムさんは結構面白い人ですし、大丈夫ですよ!」
心配するお兄様にフォローするように口を挟むけれど、話の問題はそこではなかった。
「いや、そういう意味でなく、体力が」
「あっ、なるほど! そもそも通う能力に問題がありますか……!」
今回はニムエさんを背負うという謎の方法で登山を可能にしたけれど、私一人ではここまで辿り付けるかどうかも微妙なのを、すっかり忘れてしまっていた!
わりと深刻な問題かもしれない!
「あの、私が一緒に行きます!」
「ジェーン!?」
「空を飛びます……!」
「ジェーン!?!???!??」
「なるほど、それなら安心だな」
「すいません! ここに状況を把握していない系女子がいるのですが!」
一緒に来てくれると言うジェーンの言葉は大変嬉しいのだけど、そ、空を飛ぶとは!?
「最近、特に空を飛ぶ魔法の練習を重ねていたんです。前にラウラ様と一緒に空を飛んだら喜んでくれたので……それで、これなら疲れずに山を登れるかなって」
「そ、そういうことかぁ……でも、ジェーンそれ大変じゃない?」
「いえいえ! 更なる研鑽にもなりますし、そもそも一緒に飛ぶために頑張ったので、あの、むしろ頼ってください!!!!!!!」
その時、ジェーンの瞳が太陽のように輝いた!
主人公の主人公たる所以がその瞳には溢れている。
この強い意志のこもった光に勝てるものなどいるだろうか? いやいない!(倒置法)
「た、たよ、たよりましゅ……頼りますうううううううううう!」
私は屈するように頭を垂れてジェーンの送り迎えを受け入れる。
あれ、でもこれだとジェーンが恋愛から更に遠ざかってしまったのでは……?
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