その152 吹っ飛ぶときは人差し指と小指を立てよう


「──いや、これは教えた方が面倒なことになりそうか」


 期待させてくれたクロウムさんだけど、ここで急にはしごを下ろしてきた。

 そんなご無体な!


「ええええええ!? 教えたら面倒になるってどんな方法ですか!?」

「強制するようなものでもないのでな。しろと言われたら反発したくなるものでもある」

「謎過ぎます!」


 一体どんな方法なのか想像もつかないのだけど、何やら大層怪しげな空気が漂ってきた。

 もしや本当に『友達百人』じゃないでしょうな?

 というか『真実の魔法』を解く方法はろくでもない物しかないのでは……?


「何度かラウラが吾輩に顔見せに来れば、人間性も見て取れるので教えたくなるのだがな~?」


 相変わらずの愉悦味のある笑みを見せるクロウムさんである。

 そ、そこまでして遊びに来させたいか!


「そ、それが真の狙いですか! おじ様は孫を釣るためにゲームを用意するおじいちゃんですか!」

「まあ、似たようなものではあるな。そんなわけで必ず遊びに来るように」


 なんってこったい、これでは遊びに行かないわけにはいかない!

 週に一回くらい頑張って通いつめようかな……。


「なるべくなるたけ来るようにします……!」

「うむ、それでよい! では封印から出してやるとしよう」


 クロウムさんがすっと手をかざすと、私の上の方に何かがポムっと出現する音が聞こえる。

 見上げてみればそこには──巨大な漆黒のハンマーが浮かんでいた。

 いや、ポムっとかの音がしないレベルの暴力性!


「それで吹っ飛ばして封印の壁を越えようと言う算段だ」

「そんな力業アリですか!?」

「言うなれば穴にはまったボールを無理やり叩き落そうというやり方である!」

「大丈夫ですか!? 私、死にませんか!?」


 ギャグ漫画の住人なら巨大ハンマーで叩かれてもペラペラになるか、空に吹っ飛んで行って星になるだけですむだろうけれど、私はギャグ漫画の住人ではない!

 多分! 恐らく! 一応! 違うと思う!

 そんなわけで圧倒的暴力は圧倒的暴力でしかなく、覚悟が決まるはずもない。


「吾輩がラウラを傷つけるわけがあるまい! なぁに、メーリアンの者は頑丈だ!」

「メーリアン家のそんな特性聞いたことがありませんし、私はウサギレベルの耐久度を誇っているのですがって、は、話を聞いてください! ハンマーが! ハンマーが何やら加速をつけるように構えているのですが!? ヤバいですって! せめて黒一色のハンマーはやめておきましょう? ピンク色! ピンク色ならギャグで終わる可能性があります! もしくは叩いたらぴょこっと音がするとかあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 全力の弁護も虚しく、ハンマーは振り下ろされて私はとんでもない衝撃と共にきりもみしながら宙を舞う。

 あっ、星が、星が見えます……あと、ピヨピヨ鳴きながら回転する小鳥も……。


「次来るときはお菓子でも用意してやろう! 達者でな!」


 もう既に達者ではないのですが!?

 と思いつつも、その疑問は風圧でかき消されていくのだった。

 人間ロケットラウラ・メーリアン、テイクオフ!

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