その139 兄は何でも知っている

「まったくいつからうちの学院は託児所になったんじゃ?」

「貴女がそれを言う~?」


 究極のおまいう(お前が言う!?)を体現するナナっさん! あまりにもおまいう過ぎる!

 ただ、ナナっさんはあまり表に出てこないようにしているので、一応理屈は通っているのかもしれない。

 今となってはこうして私たちの前によく姿を見せるのでそうは思えないけれど、ナナっさんは意外と出しゃばりではないのだ。

 むしろ学校行事にもなかなか現れないので、一般生徒からはその存在をかなり謎に思われている。


「儂は結構気を使って生徒の前には現れんようにしておるんじゃぞ!」

「ナタ学院長、私たちの前にもあまり現れなくていいのですよ?」

「ジェーンが厳しすぎるんじゃが!?」


 相変わらずナナっさんに塩すぎるジェーンだったが、私はそんな二人の姿を見て悶えてしまうのだった。

 ジェーンの貴重な反抗期……好き!

 私にも反抗して欲しい!


「とりま~、どうして私が記憶を奪うことにしたか~、そこから話すわね~」


 こうして幼くて舌足らずでのんびりとした口調で説明が開始される。

 ……いや、すっごく頭に入ってき辛いかも!





「──と言うわけで世界が危ないのでみんなで頑張って救ってちょうだいね~」

「話が壮大すぎねぇか!?」

「まさか世界に話が飛ぶとは思いませんでしたわ……」


 比較的常識人組なグレンとローザは話を聞いて引き気味な態度を取っていたが、残りのメンツは流石と言うか余裕のありそうな態度で──あれ、へ、ヘンリーが何故かガクガクと震えながら死んだ目で呆然としている!

 きゅ、急病ですか!?


「ヘンリー!? どうしたの!」

「い、いえ……最後の話、もう一回聞かせて貰います?」

「えっ、私の記憶を失っている時の記憶も一か月くらいすれば戻るってところ?」

「………………………………何故、そんなことに」

「可哀そうだからよ~」

「………………………………………………………………可哀そうなら仕方ありませんね」

「顔が真っ青だよ!? 大丈夫!?」


 死人かヴァンパイアかと思うほどに真っ青で真っ白な顔になっているヘンリーは本当に急病人っぽかった。

 い、今にも倒れちゃいそうなんですが!

 お客様の中に回復術師さんはいませんかー!


「大丈夫ですよ……ははは」

「全く大丈夫に見えないのだけど!」

「主よ、今はそっとしておいてやってくれ」


 何故かエクシュからとんでもなく憐みのこもったフォローが入る。

 それはもう母のように慈愛のある声色だった。

 一体エクシュは何を見たと言うのだろうか……疑問は尽きないが、とにかく今は何もしないのが正解らしいので、机に突っ伏したヘンリーのことは置いておいて話を続ける。


「それで今の巨悪第一候補がクロウム・メーリアンなのだけど~、お兄さんご存じ~?」

「そういえばニムエさん、イケメンを前にしても今は平気なんですね」

「子供の肌は最強だからね~!」

「なるほど……」


 この世のあらゆる女性のお肌と比べても、どんな美女を相手にしても、子供のお肌に敵うものはない。

 よって、今のニムエさんは子供であり最強なのでイケメン何するものぞ!な気分らしく、代償として消え去ってしまった胸を大きく張る。

 大変微笑ましい光景だった。


「クロウム・メーリアンについては一度調べたことがある」

「お兄さんは何でも知ってるね」

「何でもじゃない。知っていることだけだ」


 イブンが尊敬の眼差しでお兄様を見るが、お兄様は当然とばかりな態度で懐からメモ帳らしきものを取り出す。

 既に調査結果があのメモの中に!?


「クロウム・メーリアンは封印刑に処されてはいるが、メーリアン家としては未だに大偉人として扱っており、封印場所の手入れはひそかに行われ続けている」

「へー、当家のことながら知らなかったです!」


 考えてみれば未だにブラックなところが多い当家なので、たとえ処罰されようともその基盤を作り上げたクロウムさんを尊敬してやまないのは無理からぬ話かもしれない。

 そうじゃなくても、先祖のお墓?は大切にするべきだしね。


「まあ、じきに継承されていたことだとは思うが、子供にはまだ秘していたようだな。ああ、ちなみに場所もきちんと調べてある」

「本当に何でも知ってますねお兄様!」

「妹の望むものは何でも知っているのが兄というものだ」

「僕相手と、言っていることが違くない?」

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