その138 びっくりするくらい起きない
クロウムさんは巨悪第一候補ながら、その所在はニムエさんを持ってしても完全に不明らしい。
まあ、巨悪の所在がモロバレの方がおかしいのだけど。
それを思うといつも魔王城にいる魔王さんは間違いなく親切すぎるだろう。
「でも、メーリアン家の関係者ならお兄様が何か知っているかもしれません。というか、お兄様が調べれば大抵のことは分かってしまうのが世の理なのです」
「自身の兄に対する信頼がすごいわね~」
実際、これまでの様々な事件に対して何らかの解決策を打っているのは常にお兄様なのである。
その聡明さが学生離れしているのは当然として、骨を折ることを、労を尽くすことを厭わないお兄様なので最後には何らかの手段か情報を見つけてしまうのは無理からぬことである。
そんな何でも頑張るマンのお兄様を軽々に頼るのは非常に申し訳ないところがあるのだけど、しかし、世界の為とあっては手段を選んではいられない……。
兄離れ出来ない妹で申し訳ない!
「なぁに、主の兄としては常に妹の役に立ちたいものだろうよ」
「うわぁっ!? えっ、エクシュ!?」
兄に日々迷惑をかけていることに心痛めていると、いつも剣を立てかけている机からエクシュの声が聞こえてきた。
いや、現実ではその声は聞き取れないはずでは!
「な、何で聞こえるの?」
「それは貴女とえくしゅかりばーとの仲が深まったからよ~」
「うむ、色々あったからな」
「いや、私その色々の記憶がないんですけどー!」
なんか知らない間に仲良くなっている!
ある日急に馴れ馴れしくなった人くらい状況が分からない!
本当の本当に比喩じゃなく知らない間、記憶のない間に仲良くなっていると言うのは非常に微妙な気分にさせられるが、ともかく、エクシュとの絆を深めると言うのは目的の一つだったので私の気持ちはさておき大変良いことではある。
良いことではあるのだが……なんだろう、エクシュに接待でもしてたのかな記憶の無い間の私。
或いは、圧倒的な魔法を放っていたという私の姿に感服して主と認める心がより強まったのかもしれない。
だとすれば、主に求められるものは結局武力という悲しい現実が見え隠れするなぁ。
「ただし基本的に主にしか聞こえないので気を付けてくれ」
「あっ、そこはそうなんだね」
「まあ、そこの乙女とか心を読める少年とか、例外が多すぎるが」
「例外と言うかいつか形骸化するかもね~」
そんなことを話していたら窓の外は少し白んできたようで、夜明けはもう近いことが窺えた。
ニムエさんがいるからなんだか夢から覚めそうな気分になるけれど、今はここが現実なので再度目を覚ますこともない。
ただし、他のみんなはこの朝日で目を覚ますだろうけれど……。
そして、この部屋で一番早起きなのは私──ではなく、通常はローザだったりするわけで。
「失礼いたしますわ……ん!? あれ、ラウラ様、私の見間違いでしょうか? 子供がいるような気がするのですが……」
ガチャリとドアを開けて使用人室から出て来たのは状況を何一つ理解していないローザである。
ちょ、ちょっとまずいかも!
「おはようローザちゃん~」
「しかもこちらに話しかけているようなのですが!?」
「ローザ、現実だから安心して!」
「な、何故子供を連れ込んでいるのかまるで分かりませんわ!?」
不測の事態にとにかく弱いローザは、朝起きたら私が子供を連れ込んでいる状況にこれ以上なく混乱していた。
いや、まあ、普通に寮の規則を違反しているよね。
そしてそんな子供相手に私が興奮していたのも事実なのである。
怪しすぎる私!
その後、ローザを宥めつつ現在の状況を説明するのに非常に苦労することになったが(ちょくちょく口を挟むニムエさんのせいで大変混乱を招いた)、騒がしくもなんとか全ての説明を終え、私は一息つく。
朝からいきなり大変だった……。
そして、この騒ぎの中でもお構いなしにぐっすり眠っているジェーンの寝顔はあまりにも愛おしい。
本当に全然起きないね……眠り姫すぎる!
★
翌日……と言うか数時間後、談話室に久々推しが集った。
生徒会室は流石に新学期が近付くにつれ他の用事も増えてきたことと、人数が前回から更に増えたので場所変更という事になってしまったのだが、生徒会室好きな私としてはそ非常に悲しいことだった。
箱が広くなったので推しくら饅頭状態もなくなってしまったが、代わりに右を見ても左を見ても推しが点在しているので目白推しって感じだ!
「それじゃあ~、私から説明するわよ~」
そして司会進行役はまさかのニムエさんである。
勿論彼女が出しゃばりさんなわけではなく、単純に現在の状況を最も俯瞰的に把握しているのが彼女だからこその配置なのだけど、子供が教壇に立つ姿は非常に萌え……ごほん、シュールだった。
というか、みんなもまだ子供がここにいる状況を受け入れられてないからね!
学院に初等部ないから!
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