その123 桶屋理論でオーケーや!
あれぇ!? 推理……全然間違ってた!?
うわっ、うわっー!
ドヤ顔で推理外すと滅茶苦茶恥ずかしい!
顔がザクロになる! 血のように赤くなるー!
「ねぇねぇ~、前世ってなんなの~?」
顔を真っ赤にして恥じる私にニムエさんの無邪気な追撃が襲い掛かる!
やめて! 私のHPはもうゼロよ!
「いや、あの、い、一旦忘れて貰えませんか?」
「忘れられる話じゃなくな~い!?」
「と、というか、記憶を覗き見られるものだとばかり……」
なので、当然前世の記憶も見ている者だとばかり思っていたのだけど、まさかご存じない!?
そうなると、今の私って自分から前世とか言い出したヤバいやつになっちゃうんだけど!
「見られないわよ~、そんなことしたら失礼すぎるし~」
「い、意外と常識的!」
「私はただ記憶を一時的に消しただけよ~」
「そこは超非常識!」
「それにしても前世ねぇ~……どうしてそう思ったの~?」
どうして……と問われると、色々理由はあるのだけど、一番の理由は……。
「みんな美形すぎるんですよ」
「そこ~!?」
「私に残された謎の知識もこの世界と無関係なものばかりでしたし、そこに来てこの美形軍団……すぐに分かりましたよ! ああ、私、異世界にいるんだって!」
「ええ~……」
どう見ても日常からかけ離れたその光景を前にした時の私の感想は、ソレ・ナンテ・オトメゲー?だった。
そしてしばらくして考え直した結果……ここはもう普通にオトメゲーの世界なんじゃねという結論に至ったのだ!
じゃないとあんな完璧美男美女たちに囲まれるわけがない!
「そして彼・彼女らが私の推しであることも一瞬で分かりました。だって──好みすぎるんですもの!」
「お、推しってなに~?」
「推しは推しです」
「説明になってない~!」
「そんなわけで、前世の存在にも気づけたわけです。異世界モノって大体そんな感じなので」
「もはや言っていることが一つも分からないわ~……」
私の熱弁にニムエさんはまるでついてこられない様子で、目を回している。
逆に理解されても困るので、これで良かったかもしれない。
しかし、どうやら私の記憶についてまるで何も知らない様子のニムエさんだけど、ではどうして私の記憶を奪ったのだろうか。
『真実の魔法』を解くためだとしても、そこまでの義理が私のニムエさんの間にあるようには思えないし、何よりやり方が強引だ。
「記憶目的じゃないなら、ニムエさんはどうして私の記憶を奪ったのですか?」
「あら~、そんなの決まっているじゃない~……世界を救うためよ~?」
「世界ですか!? 私の記憶奪うと世界が救われるんですか!?」
「そうよ~」
そうなのー!?
私の記憶を奪うと世界が救われるなんて、風が吹くと桶屋が儲かるくらい無茶がある理論な気がするのですが!
ちなみに風が吹くと桶屋が儲かる理屈は『風吹く→人々が失明する!?→三味線を生業にする人が増える→三味線には猫の皮が使われるので猫が減る→ネズミが増える→ネズミが桶を齧る→桶屋が儲かる』という理屈だったりする。
……目を悪くするところからもう無茶があり過ぎるよこれ!
「私の記憶と世界になんの関係が……」
「それはラウラちゃんも分かっているはずでしょ~。貴女は記憶を失うと、すっごい魔法が使えるようになるのよ」
「そ、それはそうですが」
「その魔法パワーで世界を滅ぼさんとする巨悪を打ち滅ぼして世界を救うの~」
「まさかの直接!」
私から記憶を抜く→強くなる→巨悪を倒すの二段階しかない!
桶屋は六段階もかかるのに!
そして私の魔法に期待がかかり過ぎている……そ、そこまでの物じゃないと思うんだけどなぁ。
「本当はジェーンちゃんが世界を救う予定だったの~」
「ジェーンがですか」
「そう、あの子が恋した結果強い魔法が生まれるはずだったのだけど~、あの子~、なんか恋愛に完全に興味を失くしちゃったみたいで~」
「それは一体全体どうして?」
「貴女のせいでしょうが~! こら~!」
「あいった! す、すいません!」
ついに怒ってしまったニムエさんに頭をコツンと叩かれてしまった。
ええっと、つまり、ジェーンが本当は世界を救うはずだったけれど、私の登場で恋愛に興味を失くした……ということは、結果、私のせいで世界の危機!?
ま、回りまわってそんなことになるなんて……これこそ桶屋!
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