その122 迷探偵ラウラ~真実はいつも1つか2つ~
両側にそびえる水の壁の中にすっとお隠れになってしまったニムエさんを待つこと三十分、私たちは暇潰しの為に、私の知識の中から持ってきたゲーム、マジカルバナナをやっていた。
「ドラゴンと言ったらあーか」
「待て、赤とは限らないぞ主」
「え!? 大体赤なイメージだった……」
「地域ごとに差があるが、赤は火山地帯のドラゴンだな」
適当に始めたゲームだったけれど……案外盛り上がってしまっている!
それなりに真剣な場のはずなのに!
「お待たせ~……って、なんだかすごい遊んでる~!」
「乙女が遅いからであろう」
戻し方が分からなくて開きっぱなしになってしまった水の壁の中から、ニムエさんがひょっこり現れる。
相変わらず、出て来たのは顔だけなのだけど……何か主義があるのだろうか……。
「お待たせした上にこんなこと言うのもなんだけど~、恥ずかしいから霧を出すわね~」
「そんなカーテンかけるわみたいなテンションで霧を!?」
「だってぇ、お兄さん~、イケメンじゃない~?」
「原因は顔なのですか!」
お兄様がなかなかニムエさんと会えない理由はなんとイケメンだからだった!
確かにお兄様は少しダークな雰囲気を醸し出しつつも、高身長で体格も良く、しかも顔が……顔が良い!ので並みのイケメンではないのだけども!
「神聖な存在はだいたい面食いなのである」
「あー、言われてみれば神的な人って美形大好きですね……あれ? 本質は私と同じなのでは?」
「も~! からかわないで~! もう始めちゃうから~!」
怒ったような彼女の発言通りにだんだん周囲には霧が立ち込み、やがて、伸ばした手の先が見えなくなるほど、視界は不明瞭な白に染まる。
「ラウラ、見えなくてもそばにいるからな」
「お兄様……!」
「あと俺もドラゴンは赤のイメージがある」
「お気遣いありがたいですお兄様!」
ゲームのミスにまで気遣いを見せるお兄様に感謝しつつ周囲を見渡すと、やがて声も聞こえなくなり、私は白の中、孤独な黒になった。
いや、この純白の霧の中では私の漆黒の髪も、もはや染みとすらいえないほど白に染め上げられているのかもしれない。
「さあ~、ラウラちゃん、こっちにおいで~」
前方からニムエさんの楽しげな声が聞こえてくる。
その声は蠱惑的な色を秘めていて非常に心を揺さぶってくるが……ここで、立ち止まっていては何のために来たのか分からない! 勇気を振り絞って私は歩を進める。
二つに分かれた水の壁の間をポテポテと歩いていくと……そこには水の中に体を隠していない湖の乙女、ニムエさんが立っていた。
その服装は先ほどまでと同じ白だが、装飾などは金色で、少し豪奢になっている。
だ、ダンジョンの奥にいるボスみたいだ……。
つまり話しかけるとイベントが開始されるのでは!?
せ、セーブしないと!
「それで~、聞きたいことがあるそうね~?」
残念ながら現実にセーブポイントは存在しないし、ボスの手前でずっと待っていることも出来ないらしく、ニムエさんの方から私に話しかけて来た。
謎の圧が感じられるけど、ま、負けてられない!
私の後ろにはお兄様がいるんだぞ!
……ちょっと他力本願すぎるかな!?
「私の記憶についてなのですが……どうしてニムエさんがそれを奪ったかについて、考えがあるんです」
「へぇ~、なになに~?」
他人事のように私の考えをウキウキで待つ彼女の姿に不安になりながらも、私は意を決してずっと覚えていた違和感、その原因を口にする。
「どうして私は意味不明な知識を多く有しているのか、その理由は、私が前世の記憶を持っているからです!」
「…………」
私に発言を聞いてもなお、無言でこちらを見下ろしてくるニムエさんの表情からは、特に感情が見えてこない。
しかし、気圧されずに私は話を続ける。
「ニムエさん、貴女はその前世の記憶が目的なのではないですか? だから私に積極的にあの瓶を勧めていた……そもそも、私という存在に特別な部分があるとすればその一点のみ! 今はその記憶を覗いて楽しんでいる! そうですね!」
ビシッと指を突き付けて、言ってやったぞ感を出す私!
しかし、ニムエさんの表情は相変わらず崩れない……と、というか、あれ、なんかびっくりしているような。
「えっと~、あの~、ぜ、前世って何~!? 初耳なのだけど~?」
「ええええええええええええええ!?」
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