その120 ぜんぶ抜く大作戦!

 私にはなんらかの秘密がある……と言うのはあくまで推測なのだけど、どうにも残された記憶から考えると普通の出生をしていない気がしてならない。

 それを今から湖の乙女に聞きに行こうというのが目的だったのだけど、しかし、乙女の目的も私の記憶だったらどうだろう。

 私の記憶を覗き見て楽しんでいたりしたら、それはもう大変に面倒くさいことになるな……。


「とにかく、あの湖まで行ってきましょう」


 まだあのニムエさんがそんな露悪的なことを考えているとは限らない。

 話し合いで解決できるうちはその希望を捨てたくない私である。

 というか、日に二回のバトルは多すぎるって……!

 バトルは一日一時間にしよう!


「では案内する……後を付いて来てくれ主と主の兄よ。ああ、あと、今回もきちんと土産は用意してあるから安心してくれ」

「私が主で本当に大丈夫なのか心配になるほど出来た剣です」

「いや、剣が土産を用意することにツッコんでくれ」


 エクシュの用意した謎のえくしゅかりばーオブジェ(前回とはポーズが違うらしい。剣のポーズとは……?)を手に持ちつつ、森の中を突き進む。

 そして今、ふと思ったのだけど、湖の夢見るのっておねしょ的な危険がめちゃくちゃありそうじゃない?

 湖に落ちないようにだけは気を付けないと……!





 と言うようなことを考えていたら、湖に入らないといけなくなるのが私なわけで。

 湖についてみれば、一向にニムエさんの現れる気配はなく、どうやら居留守をつかわれているご様子。

 こうなったら中に入るほかないんですよね……。


「この湖は入っても大丈夫なものなのか?」

「うーむ、この湖は人が入るとその記憶を奪い取ってしまうので、難しいかもしれん」

「もう記憶飛んじゃってる私ならどうにかなりませんかね?」

「更に記憶が奪われるだけじゃないか?」

「記憶喪失からの更に記憶喪失はちょっとカオスが過ぎますね……」


 そんなくどい展開はさすがに聞いたことも見たこともない。

 メロドラマの王道とも言える記憶喪失モノでも一度の話にそんなに何回も何回もしていたらもはやギャグだ。


 ならば私がそんな記憶喪失被りのギャグヒロイン第一号になろうかといえば、そんな度胸もないわけで、うーん、どうしたものだろう。

 どうにかしてニムエさんと話が出来ないか頭を悩ませていると、エクシュがとんでもないことを言い始める。


「主よ、いっそのことこの湖、枯らしてしまおうか」

「はいぃ!?」

「なるほど、面白い」

「何故お兄様は受け入れ態勢万全なのですか! え、エクシュ、枯らしちゃまずいよ? というか、どうやって枯らすの!?」


 目の前に広がる湖はうっすらかかった霧によりその全貌は見通せないのだけど、それでもかなりの広さが予想される。

 そんな湖をどう枯らそうと言うのか……そ、そもそも枯らしていいものなのか!?


「方法は簡単である。今の主ならこの程度の湖、どうとでもなろう」

「実行役私ですか!?」

「この夢の世界ではいつもより魔法の調子が良くなる面もあるし、ラウラ、お前ならやれる」

「えー!? 枯らす方向で決定なんですか!?」


 た、確かに今の私はナナっさんも認める大魔法が扱えるけれど、だからと言ってこんな大きな湖の水をそっくりそのまま無くすことが出来るのだろうか。

 そして抜いちゃってすっごいニムエさんに怒られないだろうか。

 もう不安が色々ありすぎるよ!


「主なら出来る! あのクソ乙女に一発食わらせてやろう!」

「私怨が混じっていませんか!?」

「頑張れ、ラウラ」

「お、お兄様まで……」

「このまま時間だけが過ぎていくと夢の世界から自動的に退出になってしまう。急ぐ必要があるぞ主」

「うっ、それは確かに……」


 この夢の世界には時間制限があり、刻限が迫れば自動的に私たちは起床し、元の世界戻ってしまう。

 どうやら悩んでいる時間はないらしい……心苦しいけれど、私も一刻も早くニムエさんに会いたいので、湖の水──抜きます!

 こうして前代未聞の『緊急SOS! 記憶の湖の水ぜんぶ抜く大作戦』が開始された。

 湖の底になんかおもちゃとか沈んでたら嫌だなぁ……!

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