その118 ぬくぬくこそ夢への扉
「湖の乙女にあって、ちょっくら話し合ってみます!」
「ほう……斜め上だな」
二択を無視するという掟破りな私の返答に驚くかと思いきや、しかしそれでもお兄様は冷静だった。
我ながら、斜め上っていうか斜め下な感じあります!
「どうにも私には秘密が隠されている気がしてならないのです。それを湖の乙女に聞いて見ようと思います」
「なるほど、それを最後の判断材料にしようと言う事か。確かに何故湖の乙女がラウラに執着していたのか、謎が多い……」
「ですが、あの、これには大きな問題がありまして……どうやって会いに行くのか分からないんです!!!」
そう、湖の乙女は夢のようで夢じゃないけどちょっと夢な空間に生息している謎の存在。
割と神的な人なのでそう易々と会えるものではなく、そもそも夢っぽい空間に自力で行く方法も分からない。
私がようやく方針を定めたと言っても、この問題を解決しないことには片手落ちもいいところで、これは斜め下どころか地の下な答えだっただろうか。
行き方さえ分かればなぁ……。
「分かるぞ」
「いえ、それが分からないのです……どうしたものか」
「だから、夢の世界への生き方なら分かっているぞ」
「ですからそれが分からな──はいぃ!? わ、分かっているのですか!? ど、どうやっていくのです!?」
しれっと当然のように夢への生き方が分かるというお兄様。
その姿にはグレンとは違い謎ではない確固たる自信が見て取れた。
い、一体、どうやって夢の世界に……?
疑問に思っている私を尻目に、お兄様は相変わらずの無表情のままで部屋の真ん中へ……ずっと鎮座していた謎の炬燵の前まで移動すると、その炬燵とポンポンと叩く。
急に体が冷えて来たのかな?
「なんのために炬燵を持ってきたと思っている」
「えっ、す、すいません私のよう凡人には温まるためとしか思えません!」
「ただ温まるためだけにわざわざ炬燵を持ってくるほど、俺は寒がりじゃない……いや、寒がりだが、寒がりでも、わざわざ炬燵は持ち運ばない」
「ご、ごもっともです!」
「この炬燵は夢の世界への入り口だ」
「炬燵がー!? 確かに眠くなりますけども!」
驚愕の真実!
この謎の炬燵こそが夢への扉だと言う!
お兄様のことなので当然無意味に炬燵を用意したわけではないと思っていたけれど、これこそ斜め上の発想だ。
「俺は一週間前ほどに調査の旅に出かけたんだが、その結果、夢世界に行くにはいくつかの条件が必要だと分かった」
「そ、その条件とは」
「まず眠ることは大前提として、更にテルティーナ村近くで眠り、夢の世界の住人に招かれる必要がある」
「場所が重要なのですか」
そして招かれる必要もあると……。
前者の条件はこちらが用意できるものだが、後者の条件は相手次第なので、結構難易度は高いかもしれない。
「たが、それ以外にも方法があると分かった。それが炬燵だ」
「すいませんあの……何故そこで炬燵!?」
「この炬燵はテルティーナ村の神殿にあったものなんだが、どうやら夢世界との繋がりの深いものらしい。鳥に色々聞いて、ようやくそれが分かった」
「もう鳥に聞くって言うのが大変すぎますね。一瞬、詩的な表現かと思いました」
勿論、それは比喩ではなく、テルティーナ村にいるという喋る鳥のことだろう。
正確には過去を語る鳥らしいけれど、過去と言うか記憶を語っているようだ。
「この炬燵で寝ると誘われたのと同じ効果が得られる。しかも、テルティーナ村付近の判定になる」
「炬燵万能ですね!」
「まあ、神殿に収まっていたので、ただの炬燵ではないとは思っていたのだがな」
言われてみれば神殿にあるアイテムなんていかにもすごそうなものだが、炬燵という平和すぎる見た目が良いカモフラージュとなり、ここまで誰も気づかなかった。
というか、話を聞く限りでは、私とお兄様が寒いのに弱すぎたせいかもしれない。
「で、では私はこの後、湖の乙女と相対するために炬燵で眠るのですか……?」
「そういうことになる」
「なんかしまらないです!」
それなりの覚悟を持って臨むのに、見た目が平和すぎるよ!
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