その116 謎華
「なるほどそういう考え方もあんのか……」
「それに世界最強への道は険しいんです! これから先を思えばこの程度の困難、気にしてられないはずです!」
一流のスポーツ選手は敗北の原因は覚えていても、敗北そのものは忘れると聞く。
要するに次に繋がる要素だけ記憶にとどめ、繋がらない要素は全て置いていってしまおうと言う考え方だ。
世界最強なんて世界一高い山を登ろうとすれば、それこそ何度も何度も負けることはあるはず……。
でも、私はそのたびにグレンに立ち上がって貰いたい!
しかもかっこよく!
「おお……! いいこと言うじゃねぇかラウラ! そうだよな、こんな程度で挫けてたら世界なんて見てられねぇ……修行のし直しだ! うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「グレン!? 何処に行くんですかー!?」
「まだ見ぬ何処かにだ!」
「言葉はかっこいいですけども!」
何とか元気を取り戻したグレンは半裸のままでグラウンドを飛び出し、本当に何処かへ行ってしまわれた。
元気が出たのはいいんだけど、せ、せめて上着を羽織ってくだされー!
でも、まあ、な、なんにせよ夢があるのはいいことだよね?
頑張れ! 世界最強!
ちなみに私はむしろ世界最弱を目指したい気分です!
「そういえばラウラウ、グレンから自分の印象について聞かなくて良かったのかのう」
「あっ! わ、忘れてました! お、追いかけないと!」
「じゃが今追いかけると、男の服を強奪して更なる追い打ちをかけようとしているとんでもない女じゃとみられる危険性がある!」
「追いかけません!」
危うくとんでもなくやべー女だと思われるところだった!
上半身裸でボロボロの男性を追ってはいけない!
「でも、ああ、聞きそびれてしまいました……」
「代わりに魔法の質が分かったからそれで良いじゃろう」
ナナっさんはどうにも私の魔法に興味津々らしく、ジロジロとこちらを見つめている。
まあ、魔法使いとしては未知の魔法は気になるよね……。
「それも分かったような気がしないのですが」
しかし、私としてもその魔法は未だ道なのだった。
何せ謎球が謎華になってグレンを吹き飛ばして服も吹っ飛ばしただけである。
どういう魔法か一切分からない!
脱衣魔法ではないよね……?
「服が脱げたのはグレンを傷つけまいとするラウラウの意思を反映した結果じゃろうな。華開いたのは、割とマジで謎じゃ。なにあれ?」
「普通華開かないんですかね」
「無意味すぎるじゃろ! 芸術点は高いかもしれんが攻撃魔法としては意味はなさないはず……なのじゃが、暴風を突破できる程度のパワーはあったしのう……」
「あと、あんまり私の魔法って感じはないんですよね」
そもそも美しくて芸術的、なんて魔法は私の脳内から生み出されるものとは思えない。
もっとヘンテコな……例えば、謎玉に猫耳が生えて相手の目の前で停止し猫パンチをする!くらいの魔法なら何となく私らしいのだけど。
「確かにラウラウっぽさは薄かったのう。と言うことは誰かに習ったものが記憶に残っていた……? うーん、分からん! 魔法使いとして興味はそそられるが、残念ながらタイムオーバーじゃ。また仕事に戻らなくては」
「逆に学院長ともあろうかたがよく生徒のタイマンを見張るために時間を割いてくれましたね」
「生徒のタイマンを見るのが趣味じゃからな! ではさらば!」
教師的に最悪な趣味を宣言しながらナナっさんは煙のように消えていく。
け、結局何も分かっていないような……?
ま、まあ、グレンのお役に立てたのなら幸いだし、全力で魔法使っても人を殺したりはしないってことは分かったので、トータルで言えば良かったのかな。
とにもかくにも、もうお兄様との約束の時間も迫っているし、一度寮に戻ろう。
記憶を取り戻すかどうかについても、このドタバタな騒ぎの中で、私としても一つの結論のようなものを持てたし、それをお兄様に話さなければ。
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