その103 私また何かやっちゃいました?
なんだがとても優秀そうなローザまで『記憶失ったら魔法使えるようになるんじゃね説』に肯定的なので、私としても少しその気になってきてしまう。
「ま、魔法使えるのかな私!」
「試すのが手っ取り早いと思いますわ。とりあえず……グランドに行ってみましょうか。簡単な魔法をお教えしますので」
「お姉さんの初魔法楽しみ」
「……これで使えなかったらすごい赤っ恥ですね?」
そういうオチも普通にありえそうなのが怖いところなのだけど、まあ、その時は笑ってもらうとしよう。
いい子たちなので、笑ったりはしないかもしれないけれど。
……なんか真面目に励まされたりしたら、そっちの方がダメージ大きいかも!
★
「では、初心者にもおすすめな魔法、『小人の指先』をお教えしますわ」
「はい、先生!」
グラウンドに出た私たちは、案山子のような出で立ちの的の前にやって来ていた。
ローザに呪文を教わり杖も持たされたけど、本当に簡単な呪文だったので、これを唱えるだけで魔法が使えるなんてなんだか信じられない気持ちだ。
……いや! そういう信じられないとか思っているから使えなかったんだよ私は!
絶対に使える! ここはそう思わないと!
「なんだかすっごい可愛い名前だ」
「ちょっとした衝撃波を放つ魔法ですが、威力も可愛いもので、まあ、デコピンに近いですわね」
「デコピンだとするとそれなりに痛いのではないですか……?」
「人には向けないようにお願いしますわ」
「は、はい!」
「では、しっかり想像しながら詠唱を初めてください」
「がんばれー」
人には向けないけれど、的には向けないと話にならない。
背後からイブンの可愛らしい声援を受けながら、私は両こぶしを固める。
よし、行くぞ!
緊張で全身を強張らせながらも案山子に杖を向けると、教わった呪文を滑らかとは程遠いガッチガチの発音で私は唱える。
「こ、『小人さんの小指さんは小鳥さんを驚かす! コッテーン!』
鳩に豆鉄砲みたいな詠唱を口にすると、仄かに杖の先が輝きだした。
おお、これは成功しているのでは!?
「もっと杖の先に集中してくださいまし! そのままではすぐ消えてしまいますわよ!」
「は、はい!」
どうやらまだ成功と言える段階ではないらしい。
絵で言えば筆に絵の具を付けたくらいかな?
であれば、ここからが本番! 描かなければ! 私の魔法を!
気合を入れて杖の先に力を流し込むようなイメージを脳内で形成すると、杖は更に輝きを増していく。
そしてどんどんどんどん光り輝いていき……ついには照明みたいなレベルまで輝き始めていた。
いや、輝きすぎ!
目が痛いんだけど!
えっ、こ、こんなもの? 魔法ってこんな物理的に目に負担がかかるものだっけ!?
サングラス必須!?
「ちょ、ちょっと光が強すぎる気がしますわね……おかしいですわ、簡易的な魔法のはずなのですが」
「なんか今にも爆発しそう」
「ば、ばく!? え、私、爆死ですか!?」
悪役令嬢ならぬ爆薬令嬢としてその生涯を終えるのかなぁ!?
記憶ないから感覚的には一時間くらいの短い生涯なのだけど!
「と、とにかく落ち着いて、杖から魔法を解き放つイメージを」
「う、うん、よし、放てー!」
杖の先の光を振り払うように私が軽く杖を振ると、強烈な光は正面へとゆっくり飛んでいき、無事案山子に着弾──した瞬間、周囲は真っ白になった。
弾けた光がグラウンドに広がるように拡散し、世界を白く染めてしまったのだ。
耐え切れず目を瞑る私たちだが、続くように次にやって来たのは地を揺らすような轟音。
そして最後に、波のように押し寄せる土煙が私たちの視界を白から茶色へ染め上げた。
「ごほっ、ごほっ、ど、どうなってますの!?」
「な、何が起こってるか全く分からない! 地底人が攻めて来た感じですか!?」
「お姉さん、ほら、あそこ見て」
慌てる私とローザとは裏腹に、イブンは冷静そのもので、少し開けて来た視界にすっと指差す。
咳き込みながらも、目をこすり、イブンの指さす方へ視線を動かしてみると……そこには巨大な穴が、クレーターが生まれていた。
というか、か、案山子が消滅してる!
「い、隕石が落ちて来たのかな?」
私はこの異常な光景を前に、最も現実的な可能性を口にする。
うん、クレーターなんて隕石しか作らないからね!
いやー、私の魔法と同時に落ちてくるなんて奇跡すぎるなー……。
「ラウラ様、現実を見てくださいまし……貴女様がやったんですわよ」
「いや、おかしいでしょ!? ま、魔法は使いたかったけど、これはもう使えるとかそういうレベルじゃないよね!?」
私は目の前に広がる巨大な穴を、もはや修繕不可能となったボロボロのグランドを指差して叫ぶ。
怪獣が来たみたいになってるよ!
「驚きましたわ……ラウラ様は記憶によってその魔法が封じられていただけで、実際は千年に一度な大魔法使いの素質があったのかもしれません」
「急にそんなチート展開が!?」
「というか、湖の乙女はそれを理解した上で記憶を消しに来たんじゃないかな」
「なるほど! あり得ますわ。やけに気に入っている様子なのも、異常に記憶を消したがっていたのも、その素質を見抜いていたから……で、ですが、記憶は取り戻していただかないと困りますわ!」
まだ少し土煙が肌を汚す逢魔が時。
私はなんだか急にチートな魔法を身に着けてしまったようだった。
でも、こ、これは……記憶を取り戻すかチートのまま生きるかの究極の二択になっている?
私、そういう二択めちゃくちゃ苦手なのにー!
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