番外編

番外編3 決めるのは彼女、見守るのが私(ジェーン視点)


 思えば、ラウラ様は想像力豊かで頭も良いお方なので、魔法使いとしての素養はかなり高いはずでした。

 加えて、ラウラ様は血統にも優れていらっしゃる。

 血に塗れているとは言えメーリアン家は長く続く名家に違いないのですから。


 ……片田舎に突如湧いてきた私のような突然変異が語ると、説得力に欠けてしまうかもしれませんが、魔法を使えるかどうかと言うのは家柄が深く関係しており、そのため、魔法使いは基本的に血統を重視します。

 庶民にはその血が渡らないため魔法を使うことは出来ず、逆に貴族はその血を独占し、同時に魔法も独占する。


『魔法を使える血を貴族が独占している』


 と呼ばれるこの現状には様々な問題が存在しますが、本題とは関係ないので置いておきます。

 今、一番大事なのはラウラ様についてです。


 想像力・知力・そして血統。

これだけ条件が揃えば魔法使いになるのが普通だと思われるのに、ラウラ様は魔法を使えない不可思議な状況にありました。

メーリアン家は放任主義で子供に深く関わらない性質を持っているので、さほど問題にはされなかったようですが、他の家ならかなりの大問題に発展していたことでしょう。


どうしてラウラ様は魔法を使えないのか?

 今回の記憶喪失騒動で、その原因が明らかになりました。

 全ては記憶が原因だったのです。


 ラウラ様のその優れた想像力をかき消すほどの記憶が、ラウラ様の魔法を縛っていた……そういうことなのでしょう。

 一体、それがどんな記憶なのか、私には全くと言ってよいほど想像がつきません。

 しかし、その縛りは『全てを洗い流す泉』の力で消失してしまいました。


 そして、後に残ったのは絶大な才覚によって生み出される莫大な魔法。

 まるでドラゴンが暴れまわったようなグランドの惨状を見て、私は感動すら覚えるのでした。


「これを本当にラウラがやったっていうのかよ!?」

「信じられない話ですが、ローザに聞いたところ間違いないと」

「間違いしかないって言いたくて噛んだんじゃねぇか?」


 医務室で話し合っていた私たちですが、外から響くとんでもない轟音に驚かされると、すぐに現場に向かいました。

 そしたら運動場が壊滅していたわけで……もうびっくりです。


「それでラウラはどうしたんだ」

「土煙で酷いことになっていたので、着替えに戻っているそうですよ」

「そうか……しかし、俺の妹はいい子な上に天才だったか」

「おや兄馬鹿……と言いたいこればかりは認めざるを得ませんか。確かにラウラは我々が思っている以上にとんでもない存在だったようです。ただし、それは記憶喪失という代償の上で成り立っているのですが」


 魔法使いはみんな魔法が大好きだ。

 それだけに強大な魔法と言うのは憧れで、目の前にこうして異常な、驚愕な、とんでもない光景を見せられては誰しもが認めざるを得ない。

 ラウラ様にはいつも驚かされてばかりだけど、今回の驚きは桁が違った。


 けれど、ヘンリー様が言うように、あくまでこれは記憶喪失という問題を抱えてのもの。

 記憶が戻ると、ラウラ様はきっともうこれだけの力は発揮できない。

 

 ……私はラウラ様との日々が大好きで、だからその日々をラウラ様にも忘れて欲しくはない。

だけど、そういう個人の感情を排してみたらどうなるだろう?

 記憶を取り戻したラウラ様はこの強大な力を失うばかりか、『真実の魔法』まで戻って来て、また嘘がつけない体に戻る。


 完全に、完璧に、そして理性的に考えれば、もしかするとラウラ様は記憶がない方が幸せなの……?

 記憶を取り戻して欲しいのは私のエゴなのだろうか。

 魔法使いとして、ラウラ様のこの才能を失わせたくない気持ちと、友達として、ラウラ様に記憶を取り戻して欲しい気持ちがせめぎ合う。


 でも、私はすぐにその葛藤を捨てた。

 どちらにせよ、私が決めることではないからだ。


 全てはラウラ様が決めること。

 そして私はその判断を全力で応援したい。

 それがきっと友達なのだと思うから。

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