その102 とりあえず飛びたい
「お姉さん、本当に面白い人だよね」
「と、突然なんですか!?」
食堂らしき場所で、めちゃくちゃ美味しい鴨肉のソース和えらしきものを食べつつ『こんな美味しいもの初めて食べた! 記憶ないから感覚的に本当に初めてだけど!』なんて思っていたら、横からイブンに唐突に変なことを言われ、思わず吹き出しかけた。
美味を吹き出したらもったいなさすぎる!
私は全力で口を押えた!
というか、イブン、食べるの早すぎです。
先ほど、もっと味わって食べようよって言ったら、「お姉さんの美味しい気持ちが伝わってくるのでこれでいい」と返されたので、まあ、すっごい特殊な方法で味わってはいるらしいのだけど。
私の脳内経由で食べていると思うと、なんだか複雑な気持ちだ。
「だって、次々事件が起きるから」
「記憶がないから実感もないんですけどね」
そう、特に事件が立て続けに起きているという感覚は私にはない。
ただ話を聞く限りでは、なるほど私は波乱万丈な日々を送っているらしく、たった一か月足らずとは思えないほど濃密な毎日だったようだ。
しかも美男美女に囲まれながらそんな日々を送っているという贅沢さ!
絶対心がデブになってるよ私!
「あと、僕、多分試験受かったから、あと少ししたらここの生徒になるよ」
少し胸を張るイブン。
無表情ながら何処か誇らしげな彼の顔見て、私は思わず拍手していた。
こんな顔されたら特に何のお祝いがなくても拍手してあげたいくらい!
「わー! それはおめでとうございます! 短期間だと言う話だったのに、素晴らしいことですよ!」
「お姉さんの協力もあってのことだから、ありがとう」
「あの、詳しくは知らないんですけど、隣に座ってただけですよね!?」
本当に詳しくは分からないのだけど、一緒に授業を受けただけで感謝されては、その神々しさに身がやられて、感謝ならぬ患者になってしまいかねない。
イブン入学の暁には尊過ぎて全クラスメイトが入院する可能性があるな……いや、本当に。
「魔法のことも好きになれたし、将来的にはゴーレム農業で一世を風靡する夢も出来たし、本当に試験受けて良かったよ」
「ゴーレム農業という謎過ぎる発想には付いていけませんが、夢が出来たのはいいことですね。というか、そうそう、魔法があるんですよね! いいなぁ、私も使ってみたいなぁ」
魔法。
不可能を可能にする力。
不可思議な法則のこと。
知識では知っているのだけど、それをこの世界で操ることが出来るなんて、なんだか新鮮に驚いてしまう。
みんな当たり前みたいに言ってるけど、超すごいことだよ魔法って。
「そもそもどうしてラウラ様が魔法を使えないか私には謎ですわ」
「わっ、ろ、ローザ」
横からすっと話に入って来たローザは、私のそばに寄ると同時に、ごく自然な動きで空になったカップに紅茶を注ぐ。
一流の給仕は一切の違和感を抱かせずに水を注ぐというけれど、彼女もその域にあるように思えてならない。
こんな優秀ないい子が私のしもべなんて、なんだか非常に申し訳ないな……。
むしろ私がしもべの方が立ち位置正しい気がするもんね。
「そういえば、お姉さん、どうして魔法使えないの?」
「純粋な目ですごい酷なことを聞いてきますね……いや、記憶がないので私も分からないのですが」
そもそも理由があって使えなかったのか、それすら記憶がないので謎だった。
まあ、なんの理由もなしに使えないなんてことはなかなか無いだろうけれど。
体質的な問題なのかな?
「ジェーンが何か言っていたような気がしますわね。確か、自信の無さが問題なのではないかと。あと、そもそも魔法と言うものに懐疑的なところがあるそうですわ」
「なんだかよく私のことを観察してるんだね……」
見られすぎていてジェーンという子、もしかして私のこと好きなんじゃないの?なんて陰キャにありがちな勘違いを起こしてしまいそうなほどだ。
そんなわけないのだけども。
美少女に好かれるなんて微少女な私にあるわけがない!
お前がモテるのは一番軽いダンベルくらいだからな! ラウラ・メーリアン!
……いや、よく見ると一番軽いダンベルを持てるかすら怪しい細腕をしてるな、私。
もっと肉を食え! 私!
「あれ、という事はお姉さん、記憶を失って少し明るくなったから今なら魔法使えるんじゃない?」
「えっ、そういうことになりますか!?」
体質ではなく思考の問題なので、記憶がない今なら魔法を扱えるようになっている……?
イブンのその考えはなるほど理屈としては正しい気がするのだけど、そんな都合の良い話があるのだろうか?
使えるなら万々歳なのだけど。
空とか……飛びてぇ~!
「なるかもしれませんわね……これは少し興味深いですわ」
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