その99 俺様系でも昨今見ない


 考えても見て欲しい。

 記憶喪失になって目を覚ましてみればビケパラ(美形パラダイス)の中にいる状況を。

 あり得ない……あり得なさすぎる。

 思春期の妄想でも、もうちょっとリアリティあるよ!


 冷静になれば明らかに夢か天国を疑うべき場面なのだけど……うん? そうか、夢!

 これ夢では!?

 いや、夢に違いない!

 夢以外で美男子と美少女に囲まれることないもんね……!


 天啓の如く気付きを得た私は、目を覚ますために自分の頬を無言でつねる。

 うーん……痛いなぁ。

 つまりこれはリアル?

 いや、まだ決めつけるには早い!

 そもそも頬をつねったら夢かどうか分かるなんて不確かな話!

 

 頬の痛みなんて僅かすぎるし、どう考えても想像出来る範囲なのだから、夢でも再現可能なはずだ。

 よって、想像不可能なレベルの痛みを味わえば夢かどうか分かるはず!

 エピソード記憶がないので、何で自分がこんな知識を持っているのか分からないのだけど、人体で最も痛み与えられる場所は胸骨だと言う。

 特に胸の真ん中あたりをグリグリすると激痛が走るのでみんなも試……試さなくても良いです!


 いや、本当に謎知識だな……どんな人生送ったらこんな知識を仕入れられるんだい私?

 変態の類か?

 いやだなぁ……自分の正体が変態なの……。

 まあ、やるけどさ……。


 私は拳を尖らせて、右の胸骨当たりに捩じるようにぶち込む!

 あっ、思ったより痛い!

 そうか! 痛いって知識は持っていてもその痛みがどんなものなのかという経験は抜け落ちているから、初見の痛みになってるんだ!


「いたたった! 本当に痛い! もうこれ気絶してる人を起こすためのツボか何かだ!」

「あっ、起きた」

「いや、どういう目覚めの言葉だよ」


 気が付けば私は体を起こして叫んでしまっていた。

 わ、私の口軽いな!?

 こんな口が滑らかにすべるなんて完全に想定外!


 そして当然の結果として、美形たちの真珠のような目が私に集まってしまうわけで……。

 ……私はベッドの中へ体を戻すと、再度目を瞑る。


「あっ、えっと、お邪魔しました~」


 そして就寝。

 うん、多分……夢だな!

 寝なおして夢から覚めよう!


「何も邪魔してないじゃろうが! 起きろ!」


 再び眠りに付こうとした私のベッドの強引に剥がしに来たのは銀髪のショタである。

 ショタに起こされるだけでも初体験なのい、それがのじゃって!


「ひえ~!? のじゃ言葉のショタが起こしに来た!?」

「ラウラ様、あの、体の方に異常はありませんか?」

「えっ、あの、げ、元気です! 元気過ぎて逆に不健康なくらいだと思う!」


 栗毛の美少女が心配そうにこちらを眺めてくるもので、私は条件反射で応えてしまう。

 なんだか心配させることそのものが罪に感じられるほどの美少女なもので、ついつい慌ててしう!


 そして、ここまでの流れで分かったことがあります。

私はどうやら──顔が良い相手に弱いらしい!

うん、知ってた!

 そもそも全人類顔の良い相手に弱い説あるしね!


「あの、ラウラ様は本当に記憶を失ってますの? なんかノリが同じに見えるのですが」

「言動的に現状を理解出来ておらんので間違いなく失っているはずじゃが、根がこんな感じなんじゃろうな」

「『真実の魔法』で表になっていたのは素の自分ってことですか。なるほど、分からなくもない理論ですね」


 何やら金色の王子様みたいなイケメンがこちらをじっと見つめながら、何やら頷いているけれども、本当の本当に顔が良いもので私はもう冷静ではいられない。

 活火山のように顔が熱を持っていくのが分かる。

 イケメンへの免疫ゼロなんだね! ラウラ!

 っていうか、そうか、私、ラウラって言うんだ。

 

「とりあえず現状の説明が必要だな。ラウラ、俺は兄のジョセフだ」

「えっ、兄!?」

「そして私はラウラ様のしもべのローザですわ」

「しもべ!?!?!?!?」


 ダウナー系の美男子が兄なだけでも驚きなのに、金髪縦ロールで如何にもお嬢様な彼女はしもべらしい……。

 私──極悪人か何か?

 しもべって悪い人以外持たなくない!?

 もしくは「今日からお前……俺のしもべだ」みたいな俺様系のノリでしか言わないよ!

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