その100 嘘だってつきたい、乙女だもの

 私ことラウラがとんでもないド外道の可能性が浮上し、もう混乱の極致にある私だが、それを癒すようになだめるように一人の美形が前に出る。

 それはこの美形軍団の中でも一際大きな輝きを放つ金色の彼だった。


「それではラウラが混乱してしまいますよ。僕、ヘンリーが説明しましょう。まず貴女はラウラ・メーリアンというのですが──」


 非常に聞き心地の良い声質を持つヘンリー。

彼の話はとても分かりやすく、スルスルと私の頭の中に入って来る。


 まず私はメーリアン家という血が付きまとう怪しげな家に生まれたこと。

 生まれつき異常なほど無口であり、殆ど人と関わることのなかったこと。

 それ故に不審に思われ、ジェーンのいじめの主犯だと思われローザ(今そこでしもべって名乗ってた子!?)が私に『真実の魔法』を掛けたこと。

 そしたら脳内がどピンクお花畑超特急だったこと!

 暴走する言動がむしろ何故か好かれてしまいあれよあれよという内に、『ラウラ様甘やかし隊』と言う超恥ずかしい団体が組織されてしまったこと。

 その後も、美ショタ爺のナタ学院長が『真実の魔法』の元祖だったり神だったりジェーンの地元に行ったり伝説の剣を手に入れたりと……なんだか波乱万丈だったらしい。

 

 そして、全ての経緯を聞いた私の最初の感想は……私なんかすっごい変な奴だなというものだった。

 というか、もしや、変態の類なのでは!?

 本音駄々漏れでなお好き好き言ってるのは狂人の所業だよ?


 かなりキツい状況で元気に生きていられたのは驚嘆すべきことだけど、同時に結構楽しそうにやっていたらしい自分にちょっと引いてしまう私がいた。

 でも、気持ちは分かる!

 輝くような顔を浴びるだけで健康に、そして無敵になれるよね。


「本当に全く覚えてねぇんだな」


 赤髪で何処かワイルドなグレン。

 彼もまた優しい人らしく、その言葉には悲しむような慈しむような響きがあった。

 な、なんだかすっごい罪悪感!


「ごめんなさいそんな天国的状況覚えてないです!」

「お姉さん、覚えてないのにキャラが変わってなさすぎる」

「いえ、若干卑屈さが抜けたようには見えますわ」

「言われてみればちょっと違う気がするな」

「……ラウラ様のそういった面は生まれや育ちに類するものだと思うので、記憶が抜け落ちたことでトラウマのようなものも一緒に抜けたのかもしれません」

「なるほど、記憶を失って良い面もあるのですね。『真実の魔法』も消えましたし、合理的に考えるのなら、これも一つの解決なのかもしれません」


 話を聞く限りでは、どうやら元の私は少し自虐的な性格をしていたらしい。

 まあ超絶無口だったという話なので、それで自信過剰な性格されていても困るけれど。

 

 今は自虐しようにもそもそもの自分が分からないので、自虐したくでも出来ないというのはある。

 でもこれって根本的解決にはなってないような気もするなぁ……。


「いや、明らかに記憶は取り戻した方がいい。湖の乙女を倒せば戻って来るのか?」

「発想が乱暴すぎますよジョセフ」


 兄としてなのか、決意に燃えるように私のお兄様──お兄様で本当にあってる? こんな素敵な人が? いやいや、そんな馬鹿な!?──が血の気の荒いことを言う。

 倒して戻って来るようなものかな記憶って!?


「わ、私も記憶は戻った方がいいと思います! 記憶を失ったままではやはり生きていく上で負担が大きいですし、何より悲しいことですから……」

「ええ、僕も記憶を戻すことには賛成です。合理的と言うのは、恐らく湖の乙女はそのように判断しただろうということです。精霊に類する存在は人の情緒など考えないでしょうから」

「じゃが、時が経てば戻るはずじゃから、別に急いで倒す必要もないのじゃぞ?」

「倒す前提が間違っていますわ!」


 記憶を取り戻す良し悪しに付いて語られているようだけど私としては、以前の私が分からないので、何とも言えないところがある。

 むしろ戻ってくると一緒に『真実の魔法』も付いて来てしまうのはかなり嫌な感じもある。

 前の私はどうか分からないけれど、普通に嫌だよ! 嘘付けなくなるの!

 ど、どうしたものかなぁ……。

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