その75 ゴーレム対巨大ゴーレム対ダークライ
ところ変わって運動場。
サンサンと降り注ぐ太陽は暖かな風を生み出していて、鬱屈とした室内の空気とは異なる心持にさせてくれる。
結局外に出てきてしまうのだから、良いお天気というのは人を外に駆り立てる何かがあるのかもしれない。
ある意味ではこれも魔力!
「ラウラ様の、ゴーレムを実際に見るという意見は面白いですわ。実際に見て、触れて、感じた知識というのは深く根付くものですから」
「先生、ごーれむがここにいるの?」
ローザの話をおざなりに聞きつつ、イブンは周囲をきょろきょろと見渡す。
運動場にはいくつかの器具はあるものの、大きな人型の土くれなどはなく、ゴーレムはその影さえありはしなかった。
ゴーレムを見に来たもののゴーレムは今この場にはいない。
ではどうするか?
答えはローザが示してくれる。
「この地面こそがゴーレムの元ですわ」
「地面が?」
「はい、しかもこの運動場は魔法学院の物だけあって魔力に富んでいます。こういう土ではゴーレムが作りやすいのですわ」
「先生が作るの? ゴーレムを?」
「ええ、よく見ていてください。まずはこうして魔方陣を書いていきます」
ローザは手慣れた動きで地面に杖でスラスラと幾何学模様を描いていく。
ナナっさんが行ったものは立体魔方陣という超高度なものだったけれど、今回のは一般的な手で刻む平面魔方陣だ。
素早く、しかし丁寧に魔方陣を描き終えると、ローザは感触を確かめるようにとんとんとその魔方陣を杖で数度叩く。
「魔方陣の書き方は学院に入ったら習った方がいいですわね。まあ、簡単に言うと世界の魔力を一点に集中させる穴を作っていると思ってよいですわ」
「へぇー、これが穴なんだ」
「そして命令を吹き込むと、この穴から出る魔力を形に出来る……行きますわよ」
一度深呼吸を挟みつつ、ローザは杖を魔方陣にびしっと向ける。
そして凛とした声で詠唱を開始した。
まるで世界に問うような詠唱を。
「『土塊に愛を贈れ、人型に咎を混ぜよ! レムレナンゴレムナス!』」
暖かな運動場にローザがその冷たい声を響かせると、運動場は轟音を持ってその声に応えた。
ゴゴゴッという地割れのような音を轟かせながら、魔方陣の刻まれた土は盛り上がって行き、やがて巨大な人型の姿を取る。
そう私にとってゴーレムは見に行くものだけど、魔法使いにとってゴーレムは作り出すもの!
かっこいいなぁ! 私も作りたい!
……無理だけども!
生み出されたローザお手製ゴーレムの横で、イブンは興味津々な様子でウロチョロと歩き回りながら、その巨体を眺めている。
その無表情ながらも興味を隠しきれてない姿は猫をほうふつとさせた。
時々、何もない空間をじっと眺めてることもあるもんねイブン。
「そしてゴーレムにこの羊皮紙を埋め込めば完成ですわ」
ローザは懐から茶色の紙を取り出すと、ゴーレムの土の体にそれを張り付けていく。
「その紙はなに?」
「指示や行動指針が書かれているものですわ。最後の一文にはemethという文字を書くのが決まりですの」
「emeth?」
「真理という意味ですわ。ちなみに、この文字のeを消されるとmeth、つまり死んだという意味になって機能停止になるので気を付けてくださいまし」
「面白い」
ゴーレムの不思議な構造にイブンは大興奮で自然と小さく飛び跳ねていた。
あ~イブンがぴょんぴょんするんじゃぁ~!
もしやウサギイブンありなのでは!?
白いし、ウサギ目だし、あーうさ耳付けて欲しい!
興奮するイブンに興奮する私をよそに、ローザの手によって羊皮紙を埋め込まれたゴーレムはやがてゆっくりと、のっしりと動き出し、周囲を歩き始める。
その一歩は重く、力強い。
まるでそばに熊がいるかのような迫力だけれど、ローザが生み出したものなので危険はない……はず!
「今は人を避けつつ周囲を歩く設定にしていますわ。このようにゴーレムとは魔法使いの指示で行動するとても便利な存在ですが、反面、優柔が利かず危険な面もあります。今は運動場という土地とゴーレム製造の許可を得ている私なので可能ですが、勝手に生み出しては……イブン? 何をしていますの?」
ローザの話も聞かずにイブンは没頭するように地面に何かを描いている。
それは明らかに魔方陣で……。
「『土塊に愛を贈れ、人型に咎を混ぜよ。レムレナンゴレムナス』」
しかももう詠唱も開始している!?
や、ヤバい早く止めないと!
「い、イブン!? 勝手にやったら駄目なんだってば!」
「いえ、大丈夫ですわ。初見で真似できるほどゴーレムの製造は甘くありません!」
力強くそう言い切るローザだけど、それは明らかにフラグでしかない!
真似はイブンの最も得意とするところなんだよ!?
「イブンはコピーが得意でしかもオリジナルを上回る性能を作りだせちゃうんだよ!」
「はい!? えっ、そうなんですの? 飲み込みが早いってそのレベルなんですの!?」
慌てふためく私たちの横で、魔方陣はえげつない轟音を立てながら盛り上がり始めていた。
しかも明らかに先ほどのものより、で、でかい!
さっきのゴーレムも2m半はあったけど、これはもう5mはあるような……。
「できた。見てお姉さん、かっこいい」
「か、かっこいいのは良いのですが大きすぎるような……」
「完全に初心者が扱っていい大きさではありませんわ! 最初は膝元程の大きさから始めるのが一般的ですのに!」
「ど、どうしようローザ」
巨大を超えた超巨大ゴーレムを前にすると、横で歩くローザのゴーレムが小さく見えてくるから不思議だ。
こんなものが倒れたら事故必至なわけで……。
にゅ、入学しようっていう対策会なのにこれじゃあ入学前に退学沙汰になっちゃうよ!
「一応、羊皮紙を組み込まなければ大丈夫ですわ。この土塊は……仕方ないので地道に破壊するしかありませんわね」
「この規模の土の塊を破壊するの、めちゃくちゃ大変そうだね」
「先生、お姉さん、ゴーレムに付いてもっと知りたい」
どうしたものかと頭を悩ませる私たちとは真逆に、イブンはゴーレムへの興味が爆発していて、授業意欲は超旺盛だった。
と、当初の予定であるゴーレムを実感させて授業に興味を持たせる作戦は成功したのかな……。
これなら今日の授業はスムーズに、そして熱心に進みそう。
問題はこの土塊だけれど……。
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