その76 メリメリと前のめりでのめり込む
「羊皮紙にmethって書いたものを入れたら自壊しないかな?」
「あれはあくまで機能停止なので……」
「そっかー、電源がオフになるだけなんだね。じゃあ、うーん……そうだ! 的に使って貰おう!」
「はい!? 的ですの!?」
私は腰に携えたエクシュを取り出すと壊れないように気を付けながら巨大な土塊に文字を書き込んでいく。
初めてエクシュを有効活用できたかも!
エクシュだって一応は剣、使っていかないとその性能は永遠に上がっていかない可能性もある。
エクシュと心通わせ、強くなっていくためには頻繁な仕様も不可欠。
この調子で頑張っていこうね! エクシュ!
「いや、その辺の棒でやれ」
手の中に握られたエクシュから微かに不満げな声が聞こえて来た気がするけれど、気にせず文字を土に刻み入れていく。
剣から声なんてするなんて、ファンタジーやメルヘンじゃないんだから……。
この世界……ファンタジーやメルヘンだけども!
むしろこの状況で声が聞こえてくるとゴーレムが話している気がするわけで……ちょっと怖いし、早く書いてしまおう!
「ま……と……に……してください……っと」
「そんなのありですの!?」
「きっと魔法の当て甲斐があるよ!」
雑さ極まりない方法で土塊に対処した私たちは運動場を後にする。
運動場は魔法の練習に来る生徒が多いので夜には破壊されるだろう……た、多分!
「的だぁ!? いやでかすぎるだろ! 的って言うか敵って感じじゃねぇか! おいおい、グレン様に挑んでくるとはいい度胸だな! やってやろうじゃねぇかこの野郎!」
運動場に背を向けた我々の背後から聞こえてくる大きなグレンの声。
どうやらあの巨大ゴーレム相手に謎の対抗心を燃やしている様子だった。
グレンは破壊的な魔法が得意なので、これは夜と言わず数時間後にはもうあのゴーレムの姿は粉と消えているかもしれない。
ありがとうグレン……喧嘩っ早くて!
★
その後、談話室に戻ったイブンの勉強姿は圧巻だった。
メリメリと前のめりでのめり込むような強い集中力は貪欲にローザの教えを飲む混んでいき、気付けば窓の外は月明りだけを残して闇に包まれたというのに、それでもまだまだ疲れも見せずに板書を食い入るように見つめている。
物覚えは良いし、学習能力も高いとは思っていたけれど、これは完全に想像を超えている!
目の前でゴーレムという面白存在を見たことでもともと高かった学習意欲が爆発しているのかもしれない。
やはり好奇心は勉学の一番の友ということか。
「でもさすがにもう遅いからここまでにしよう?」
「……えっ? もう?」
きょとんとした顔で私を見つめるイブンの顔は無垢であり、なんだか私が悪いことをしているような気持にさせられる。
ぐえー! し、心臓にすごいダメージが……で、でも夜遅くまで拘束するのは良くないから!
「もう夜だよ! イブンのおうちの人も心配しちゃうから!」
「むぅー、確かにマシューは心配性だしルーシーは口煩い」
お爺さんお婆さんが常識的でなかったらまるで帰る気がなかったかのような言い方に肝を冷やすけれど、何とか帰って頂けるようで安心する。
勉強熱心なのはいいことなんだけど、まさかそれで逆に困ることになるとは……恐るべしイブン!
「では今日はここまでにしましょう。宿題も出しておきますので、家に帰ってまだやる気ならこれをどうぞ」
「すごい、家でも勉強出来るなんて……宿題好き」
「宿題好きってセリフ、初めて聞いたかも」
前世では忌み嫌われ続けていた宿題という文化だが、しかし、イブンは大歓迎の様子だった。
まあ、イブンに限らず学習機会の少ない世界に置いては、その一助となるものは何でもありがたいのだけど。
そういう姿勢、見習いたいものだ。
「ああ、それと明日は歴史の授業とですので、可能な限り予習して置いてください。ヘンリー様が担当となりますわ」
「おお、ヘンリーが! ヘンリーの授業、超分かりやすそうだよね! いや、分かりやすそうっていうか、分からせられそうっていうか、ドSに知識をたたき込まれそうっていうか、優しいのにナチュラルにスパルタみたいなのが想像できる! 平然とでは次までにここからここまでを予習して来てくださいって言いながら上半身が隠れるくらいまで本を積み上げてる姿が似合いすぎるよヘンリー! 分からせヘンリー!」
「なんだかよく分からないけど、明日の先生も面白そうだね」
「ヘンリー様を面白そうと称するの、結構な勇者ですわね……」
確かに学院の王子たるヘンリーを面白いなんて言ってたら、相当な顰蹙を買いそうなものだけど、イブンは無邪気なものだった。
というかイブンとヘンリーの絡みは胸熱すぎる!
原作だと攻略キャラそれぞれの関係性は──ヘンリーとお兄様、お兄様とグレン、グレンとイブン……って感じでイブンとヘンリーにはあまり深い繋がりはないんだよね。
イブンとヘンリーに関係があれば円環が作れるのにー!とよく思ったものだった。
それが! 今! いや明日! 叶う!
明日かナウ!
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