その73 お姉さん、弱い

「ジョセフとも話し合って決めたのですが、『ラウラ様甘やかし隊』はそれなりに学力が高い人が揃っているんですよね。僕、ジョセフ、ラウラ、ローザ。皆、学年でも成績上位に位置しています。ジェーンとグレンはそれに比べれば普通と言わざるを得ませんが、彼、彼女らは魔法に置いて優れた能力を発揮しますし、何と言っても人の気持ちをいたわれる人達ですから、物を教えるのは上手だと思います。よって、我々は教師に向いている集団だと言えるわけです」

「隊の名前は置いておいて、な、なるほどー!」

「待って、お姉さん、頭いいの?」

「あれ!? そこに疑問持ちます!?」


 一応、一学年においては屈指の優等生と謳われた私であるが、そんな私にイブンは懐疑的だった。

 気持ちは痛いほど分かるけども!

バカ女だと思われても仕方ない言動だけれども!

 でも、この学校通わないと推しも見られないと思って、入学前からコツコツ頑張ってたんだよ!


「そこのお姉さんは、彼女のお兄さんと共に学院では『メーリアン家の知と智』と呼ばれているんですよ」

「そのあだ名は初耳ですが!? 『恥と智』ではなく????」

「何となくお姉さんの言いたいことが分かるけど、己を卑下することに躊躇がなさすぎるよ」


 もちろん私が恥でお兄様が智担当なのだけど、まあ、そのあだ名の言わんとするところも分かる。

 つまり私が勉強ばかり出来る知識の知なのに対して、お兄様は思慮に優れた叡智の智ということだろう……なるほど言い得て妙なあだ名かもしれない。

 しかし、お受験に必要なのは知識の知なのも事実!

 今はそれがあることを喜ぼう!

 それにお姉さんぶれるチャンスだし!


「イブン、お姉さん、お勉強だけは出来るらしいので任せてくださいね」

「もう他人事みたいになってる。自信持って?」

「は、はい、自信持ちます……お、お勉強出来ます! 多分!」

「多分はいらないから。はい、もう一度、大きな声で」

「はい! お勉強出来ます!!!!!」

「ラウラ、遊ばれてますよ」

「はっ!? い、イブンお姉さんで遊んでました!?」


 無表情なイブンは、それでもどこか楽し気に、私を見て目を細めている。

 か、完全にからかわれている!

年下に!?

というか約二歳児に!?


「お姉さん、お勉強出来るんだね。偉い偉い」

「あっはい、ありがとうございます!」

「もう完全に年下にからかわれていますね。仲が良いのは大変素晴らしいことですが」


 年下に褒められて咄嗟に頭を下げる私にヘンリーは呆れ気味だった。

 我ながら情けない姿だけど、もうどうしようもないんです!

 お、推しに褒められると条件反射で喜んでしまう……たとえそれがからかいだとしても!

 

 や、ヤバい、このままだとお姉さんとしての威厳は失墜し続け、イブンは私のせいで年上の女性はチョロい存在だと思い込むようになってしまう。

 そして将来的に、イブンが年上にいたずらしまくる魔性の男の子として成長しちゃったらどうしよう!

 そんなの……そんなの……めちゃくちゃ見たいけど! 見た過ぎるけど! 教育的にダメ!


「び、ビシバシ教えますからね!」

「ラウラには到底無理そうですが、しかしそのやる気は丁度良いですね。ラウラ、貴女は魔法実技以外の全教科に優れていますし、イブンとの相性も良さそうですから、隣で一緒に授業を受けてください」

「教師から生徒に格下げ食らってる私!?」


 教師として頑張っていこうと思った矢先に生徒側に置かれている!

 ど、どういうこと!?

 頼りないから? 厳しくできないから?


「お姉さん、クラスメイトだね」

「それは嬉しいかも……いや、そうじゃなくて! ヘンリー、どういうことなの!?」

「はい、説明しますと教師として不向き……というか、教え下手な人も多いのでラウラが生徒側に付いて色々指摘してあげて欲しいんです。それに、まるでつまらない授業よりは、楽しく授業出来た方が良いですからね。ラウラがいればそれだけで場が和らぎますし」

「お言葉はありがたいけど、私にそんな猫みたいな効果はないよ!」


 近年……というか、私の前世では塾講師の授業は面白く為になるという高度な能力が求められていて、人気な講師はテレビにも出演するほどだった。

 ヘンリーはつまりそれと同じように、面白さがあった方が勉強も捗るだろうと言っているのだろうけれど、私、そんな能力はないから!

 むしろ授業中にもしゃべりまくる邪魔な生徒になりかねない気も……。


「それにラウラ、彼は貴女とは仲良く話していますが、他のみんなとも同じように話せるかは分かりません。そこに貴女がいれば自動的に会話になります」

「あっ、それは確かに」


 いかにイブンが物おじしない性格と言っても、自分の分からない部分を自発的に手を上げて言えるか、その分からない部分を教師が的確に汲み取れるかは難しい面がある。

 そこを黙ってられない私が横に入ることでスムーズに……なるのかなぁ!?

 

「つまり副教師みたいな立ち位置ですね。彼のためにも頑張ってください」

「うん! ……あれ、断れない雰囲気になってる?」

「日替わり教職はその名の通り、我々のメンバーで教師を回し回しして教えるという作戦です。今日はローザにお願いしています」


 最初から断る気はないとはいえ、もはや最初から副教師兼生徒という謎の立ち位置で計画に組み込まれている私だった。

 いや、いいんだけどね? 推しの教師姿を見られるなんて役得だし!


「ローザは努力家な秀才だから教師にピッタリだね」

「科目は魔法史です。談話室Bで待っていますので行ってあげてください」

「す、すでに教室にいるんだ……今朝起きた時には部屋にいたのに」


 私が出かけてからすぐに授業の準備に入ったと思うと、仕事が早すぎる敏腕メイドローザだった。


「お姉さん、案内して」

「あっ、超かわいい。うん、お姉さんに付いて来てイブン!」


 くいくいと服を引っ張るイブンに萌えながらも、私は生徒会室を後にする。

 果たしてこの日替わり教職、上手くいくのか不安な面も多いのだけど、大丈夫だろうか。

 お兄様とか確か教えるのがめちゃくちゃ苦手だったような……。

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