その72 お姉さんぶりたい年頃

「ラウラなら喜ぶかと思いましたが」

「喜ぶけども!」


 そう、喜んじゃうのが私だった。

 で、でも人を驚かせるのは良くないことだから!

 私だからセーフなだけで!


「喜ぶんだ……やっぱりお姉さん、変だよね」


 驚かしたのに喜んでいるというお化け屋敷みたいな展開にちょっと引いているイブンだった。

 でも、美少年が驚かして来たらそれは別の意味で驚くっていうか、ある程度美が強いと恐怖って薄れるよね。

 

 それにしてもまた変と言われてしまった。

 『真実の魔法』を掛けられたその日から言われ続けていることだけど、この際、私としても受け入れるほかないのかもしれない。

 私は……ちょっと変な女の子かもです!


「そうだね……この際だから言っておくけど、お姉さんはまあまあ変です!」

「そんな堂々と」

「一般から離れていると言わざるを得ません! マイナス方面で! そんなお姉さんだから別に驚かすくらいは別にいいんだけど、他の人にしたら駄目だよ!」

「変だけどしっかりしてる……うん、ごめんなさいお姉さん」


 私の顔と一緒に心まで覗き込むように、イブンはジッとこちらを見た後、反省したよう少し表情を曇らせてぺこりと頭を下げる。

 別に私は推しにされる分には本当の本当に何をされても怒る気はない……というか物理的に怒れないのだけど、だからと言ってそれが当たり前になるとイブンの教育に悪い。

 私という存在がイブンに悪影響を与えてしまうのは、とてもじゃないけれど、正しいファンの姿とは言えないだろう。

 そう、彼は何でも取り入れる吸収性の高さを持っている。だからこそ、その吸収する成分は清く正しく美しいものであって欲しい。


 まあ、目の前でその小さな頭を下げるイブンの姿を見れば、彼のいい子さが言葉でなく心で理解できようというものだけど。

 私風情の取るに足らない変な女にもしっかり謝れるイブン……偉い!!!

 

「あ~! いい子過ぎる~! イブン、偉い偉い!」

「いい子はそもそも脅かしませんよ。それとラウラ、そもそもまず何故生徒会室にイブンくんがいるかを気にして欲しいのですが」

「た、確かに! 自然に受け入れちゃってたけど、今の時点でイブンが校舎にいるのは変だよね!? もうなんかいるのが当たり前かと……!」

「一応、まだ部外者です。なので、今回は僕の客人として招待した形ですね」


 私にとってはイブンが学院にいることはごく当然というか、前世で見慣れた光景なのでまるで疑問に思わなかったけれど、イブンはまだ学院生でないので、生徒会室にいることも、その机の下にいることも、どちらもおかしい。

 後者はおかしさの種類が違うけども。


「ヘンリーが便宜を図ってくれてたんだ……ありがとうヘンリー!」

「いえいえ、これくらいは。それと、ラウラが寝た後に気付いたのですが、二週間という期限が刻一刻と過ぎ去っているのに、行動を起こさないのはまずいと思いましてね。すでにある程度試験対策の計画も立てて置きました」

「私が寝ている間にもうすでにそこまで!? というか、ごめんね私が寝ていたばかりに!」

「いえいえ、これくらいは」

「明らかにもうこれくらいで済むものじゃないのにかっこよすぎる……!」


 考えてみれば当然というか、二週間という限られた時間を、私が恥ずか死した為という酷すぎる理由で潰すのはあんまりにもあんまりである。

 それを理解した上でヘンリーは、私が倒れた後には既にイブンのために動き出していたということ……。


 用意周到な上に気遣いの鬼でイケメンすぎる!

 噓でしょ……ここまでかっこいい人いる?

いや、いない(倒置法)……と思わせている!!

それがヘンリー・ハークネス!!!!

 

「これがヘンリークオリティ! 一生付いていきます!」

「おや、プロポーズですか?」

「うわぁ~! 切り替えしまでかっこいい~!!!!!!」

「お姉さん、本当に本音が駄々洩れなんだね。面白い」


 ヘンリーにメロメロになって大興奮な私を、イブンが無表情で、しかし楽しげに眺めていた。

 その目は濁った私の姿と違い、空のように透き通っている。

 うっ、なんか純真に見られていると、いつもより恥ずかしいかも……。

 子供にオタク趣味を見られているような居心地の悪さがある……お、お姉さんとしてしっかりしないと!

 

「こ、こほん! それでその計画とは何ですか? 私に、いえ、お姉さんに出来ることであれば何でも言ってください」

「お姉さんぶるラウラはなかなかレアですね。新鮮で良いですよ」

「私のお姉さん力が薄れる前に計画を話してくださいお願いですからー!」


 胸を張りつつ似合わないことをしたせいで、即座にからかい上手なヘンリーさんに目を付けられてしまった。

 い、今だけでいいから私にも格好つけさせてお願い!


「大丈夫、ラウラは自分が思っている以上に頼りがいのある人ですよ」

「ありがとう! でも、もう限界だから! このままだとお姉さんから汚姉さんへと変化しちゃうから! だから話を進めて~!」

「あははは! ではラウラで遊ぶのはこの辺にして説明しましょうか。試験対策の計画……その名も『日替わり教職』です!」


 定食染みたその計画名に面食らいつつも、私は何とか己のお姉さん力を保ち続ける。

 い、イブンの悪影響にならないように頑張らないと……!

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