その71 いつもの場所と書いて生徒会室と読む
ヘンリーはにこやかに私の帯剣姿を褒めてくれるけれど、エクシュは落書きから生成されただけあって適当なデザインをしていて、立派な帯とのバランスの悪さはかなりのものだった。
しかも付けているのがちんちくりんな私だからアンバランスさも倍増!
もはやアンバランスの化身みたいになっている!
これでは、とてもじゃないけれど似合いの恰好とは呼べないだろう。
なんでも褒めてくれるアパレルショップの店員さんでも、今の私の姿を見たら顔をしかめて「あっ、な、なるほどー。その、あれです! 逆にありかもですね?」とかそんな感じの歯切れの悪い言い方になると思う。
美術館に飾られた小学生の似顔絵のようなギャップ……いや、それは微笑ましいし、愛らしいから違うか。
なら大人がおもちゃの武器を持つような違和感?
それも結構やっている人は多いし、むしろ気合入れて扱うとかっこいいまであるからなぁ……。
新しい慣用句として『私に真珠・私に金棒・私に翼(似合わないの意)』みたいなのを作るべきかも。
「う、うーん。私はかなりアンバランスな気もしてるけれど……」
「そこがいいんです」
「そこがいいの!?」
ヘンリーはそんな私のバランスの崩れた姿を気に入っているようで、ニコニコ笑顔で私を見ている。
いや、どういう趣味!?
子供にとんでもない服を着せて面白がる親みたいな感じ!?
な、なんかめちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!
新手のドSかな!?
「ラウラは愉快で可愛いのが良いところですから」
「かわ……かわわ……!」
「これくらいで照れるんですか貴方は。愉快でと言われたら普通怒りますよ?」
あまりにも私が簡単に顔を赤くするものだから、ヘンリーは逆に困惑していた。
私の顔ときたら瞬間湯沸かし器レベルの高速沸騰が可能だから、むしろ赤い方がデフォルトになりつつあるのだけど、いくら何でもこれはチョロすぎたかもしれない。
でも仕方ないんです! 推しにKAWAIIと言われたらその前に何が付いていようとどうしようもなく照れてしまうんですオタクは!
お前、ブスだけど可愛いよなとかでも超嬉しいと思う。
むしろブスという属性を超越してまで可愛いと言ってくれているのだから、これは可愛いの強調表現になりえる……?
「だって! かわわっていわれたらはわわってなるから!」
「では、これからはバンバン褒めまくって耐性を付けさせましょうか?」
「それは、はわわ超えてぽわわってなって震えてチワワになるから!」
「そんな貴女の姿を見て私はわははと笑うとしましょう」
「ど、ドS!!!!」
結局、私の困惑する姿を見て楽しむ予定のヘンリーだった。
相変わらずのからかい好きに、私は少し安心する。
推しはこうでないとね。
「さて、立ち話もなんですからそろそろ落ち着ける場所に行きましょうか。まあ、いつもの生徒会室なんですが」
「……いつものって言えるほど生徒会室に入り浸るのはおかしいと思うけどね?」
「ラウラも来期は生徒会役員を目指しますか」
「私が!? 無理無理! 神聖すぎるもの!」
「所詮は学生の手習いなので神聖さは皆無ですがね。さあ、行きましょうか」
ヘンリーはそう言うけれど、私にとっては永遠に神聖不可侵な生徒会室である。
入るたびにその独特の空気に緊張することになるんだよね……。
それにしても、ヘンリーに要件も告げられずホイホイ付いていく私の姿は鴨もいいところだった。
お、推し相手だからいいんです!
推し免罪符理論!
★
生徒会室はやはり壮麗な雰囲気がドバドバにあふれ出していて、否応なしに私の肩を強張らせる。
小さい体を更に小さくさせながら席に付くと……がっしりと何かに足を掴まれた!
「ぎゃわー!? えっ!? なに!? なんです???? 幽霊!? ミミック!?」
「幽霊はともかくミミックが生徒会室にいるわけがないでしょう」
ミミック、宝箱とかに化けて人を食うモンスターである。
私は驚きのあまり、てっきり生徒会室の机がいつの間にか怪物に成り果てて、不敬な私を食べに来たのかと思ってしまったけれど、当然そんなわけはなく、私の足首を掴んだのは人の手だった。
ドキドキしながら机を覗き込んでみると、そこには細くしなやかな小さな手が見える。
その指を見ただけで私はその手の持ち主を察することが出来た。
「あっ、イブンか! 驚いたよー!」
「僕は手だけを見て判別するお姉さんに驚くよ」
「分かるよー。だって、『指』っていうか『ユ美』だったし」
「何を言っているの……?」
机の下に潜り込み私を脅かしたのは美しい銀髪を靡かせるイブンだった。
驚かすイブンを驚かしてしまって、彼は困惑顔で机からひょっこり顔を出す。
いや、超かわいいな。
え? 猫でもここまで可愛いか怪しいよ?
「イブン、人を無意味に驚かせてはいけませんよ」
「無意味ではない。お姉さんの驚きの感情を見たかった」
「なら良いのですが」
「良くないよヘンリー!?」
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