その66 幕間、或いはエピローグのプロローグ

 幕間というべきかこの旅のエピローグというべきか、イブンの一件の後、寮に戻って一休みしようとしていた私を待っていたのは巨大なフクロウの姿だった。

 寮の入り口で王者の風格をまといつつ悠然と立っていたフクロウさんは、私の姿を見るなり、その立派なくちばしに咥えられていた手紙を投げ渡すと、仕事は終えたと言わんばかりに颯爽と空へと去っていった。

 急な出来事に私は心臓をバクバクさせながら呆然としてしまう。

 

 さ、最近動物にビビらされることが多すぎるんだけど!?

 しゃべったり襲い掛かって来たりと、なんだか驚かされ続けている。

 動物系と相性が悪いのかなぁ……。

 好きなのに……! 全アニマルが好きなのに……!


「あのフクロウ、ヘンリー様の使い魔じゃないですか?」

「あれ、そうだっけ? ヘンリーの使い魔ってもっと小さなフクロウだった気が」

 

 ジェーンの言葉を聞いて改めて思い返してみるけれど、うん、絶対ちっこいフクロウだったはず。

 私の記憶ではヘンリーが伝書鳩のように活用する使い魔のフクロウ『パットリ』は小さくてかわいい見た目をしていて、マスコット的立ち位置にいた。

 今のフクロウは私の膝より少し高いくらいの大きさがあって、可愛いというよりかっこいい部類なので、ちょっと結びつく要素がフクロウしかない。


「二匹いるんです。大きなフクロウは『デパットリ』と言って、ヘンリー様の使い魔ではあるものの、基本的に生徒会業務に使われます」

「へぇー! そんな子もいたんだ! 新発見!」


 まさか二匹いたとは! しかもプライベート用と仕事用で分けるなんて携帯電話みたいだ!

あれ、もしや伝書鳩ってこの世界の携帯電話だから比喩としては正しいのかな……?


 それにしても、ゲーム知識がある私でも推しについて知らないことはまだまだたくさんあるようで、ちょっと気分が高揚してくる。

 いや、推しのみならずこの世界は知らないことばかりだ。

 所詮、私はその一部を知っているのみで、だからこそ新しく何かを知るのは楽しい。

 もっともっと私に推しの新たな一面をください! それが生きていく栄養です!


「じゃあ、生徒会からのお手紙なんだね。うん、ちょっと読んでみる」


 私は蝋で封印された手紙を開封する。

 中には惚れ惚れするような美しい文字で美辞麗句を織り交ぜながら『生徒会室に来て旅の報告をしてくれると幸いです』というようなことが書かれていた。

 ヘンリーの署名まで見たところで、追伸に奇妙なことが書かれていることに気付く。


「イブンくんの件に関しては私も協力させて貰いますって……な、何で知ってるの!?」


 先ほど運動場で話されたばかりの事柄がすでにこの手紙に書かれている!

 これを寮の入り口まで運んだ時間も考えると、その場で聞いていたとしか思えない速度じゃないかな!?


「きっと、炎の柱を見て大体のことを察したんだと思います。私たちが帰って来ていることも知っていれば、合わせてその後の展開も予想出来る……で、出来ますか?」

「不安にならないでジェーン! 多分それであってるよ!」

 

 ヘンリーの有能さをよく理解した名推理だと思うのだけれど、その有能さがあまりにも有能すぎて少し不安になるジェーンだった。

 気持ちは分かる……そんなこと可能なのかってなるよね。

でも、ヘンリーなら可能なんです!

 理由はヘンリーだから!

 完璧王子様だから!


 二年生にして生徒会副会長になり次期生徒会長も確実と言われ誰からも愛されコミュ力が天元突破している学園の王子にしてその実ドSでかなりの知能派なヘンリーならこれくらいはもう当然のように出来てしまうだろう。

 というか、基本的に推しのみんな、超人なんだよね……!

 

 さて、そんなヘンリーから手紙にて呼び出されるという夢のようなシチュエーションを前に私がじっといていられるわけがない。

 さっそく生徒会室に行かないと!


「生徒会室に来るように書かれてるから私、行ってくるね!」

「えっ!? 今からですか?」

「うん、待たせても悪いし、それに多分私、一回休むともう立ち上がれない」

「そ、そんなに疲れているなら尚更、明日以降にした方が……」

「推しに呼ばれたら即座に駆け付ける! 私はそんなオタクでありたいんだ──行ってくるね! ジェーンは休んでて大丈夫だから!」

「あっ、はい、あの、せめて荷物はお持ちします!」

「ありがとうジェーン!」


 フクロウに驚いて手放してしまった荷物をジェーンに託しながら、私は生徒会室へと……歩き出す!

 一刻も早く推しの元へ行きたいのはやまやまだけど、もう、走ったら倒れると思うんだ私……!

 早歩きで急げ! ラウラメーリアン!







旅の報告をするために生徒会室へと来た私を待っていたのは書類に高速で目を通しシャカシャカとペンを走らせるヘンリーの姿だった。

 有能な人間にのみ許される高速タスク処理に惚れ惚れしつつ、私は息を整えながら定位置の窓際に腰かける。

 階段がこんなに辛いとは思わなかったけれど、大丈夫、まだまだやれるぞ私は!

 謎の高揚感に包まれる私だったが、これはもしかするとランナーズハイ的なやつなのかもしれない。

 よし、このテンションで今日を乗り切ろう。


「お疲れ様ですヘンリー! 何か手伝いましょうかと言いたいところですが、私が手伝っても邪魔なだけでしょうし、もう少しヘンリーのかっこいいところを見ていたいのでやめておきます……すいません!」

「いえいえ、ラウラもお変わりないようで……と言いたいところですが、敬語に戻っていますね」

「あっ!? そ、そうでしたね! じゃなくて、そうだったね!」


 ぼっちは常に不安な生き物なのでどれだけ仲が良くても、日を開けると距離感とかしゃべり方とかが諸々がリセットされてしまうという業を背負っている。

 そんな私のぼっち的一面によって知らず知らずのうちにまた敬語に戻ってしまっていたようだ。


 そもそもヘンリーは年上なので、意識しないとため口で話すというのは難しかったりするのだけども、それでも推しのお願いなのでなるべくは頑張らないと!


「それでは旅の話を聞きたいところですが、その前に一つ伺いたいことが」

「えっ、なになに? なんでも答えるよ」

「なんでもは答えないでください。伺いたいことと言うのはですね──」

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