その60 帰るまでが旅行のはずなのに
「最近気づいたんじゃが、お主ら兄妹、ちょっとアホじゃな?」
「なんってことを言うんですかナタ学院長! お二人は、こう、ちょっと頭が良すぎて変なこともするだけです! そこが可愛いんですから!」
メーリアン兄妹の無様な姿を見て、ナナっさんが憐れむように私たちを見つめる。
そしてそんな私たちを擁護してくれるジェーンだけど……び、微妙に擁護しきれてないような?
「出されたものを残すのは、無礼もいいところだからな……」
「あの、素晴らしいお考えだとは思いますが、常識的な量の相手にだけその常識を用いることにしましょうジョセフ様」
「考えておこう……」
「いえ、うちの母がすいません……」
申し訳なさそうに頭を下げる娘と違って、ジーナさんは誇るように胸を張り、私たちの惨状を眺めている。
満足げなその笑顔は太らせてやったぜという貫禄に満ち溢れていた。
そんなジーナさんをみて、私もまた満足する。
その笑顔が見れただけで頑張った甲斐があったってものですよ……!
「まあ、よく食いよく育て。それで、その剣についてじゃが、自動修復機能がついておるのなら相当な魔力が期待できる。そばに置いておけば『真実の魔法』軽減の一助となるじゃろう」
「それは良かったです。というかそれすら出来なかったら、もはやエクシュに良いところがありませんからね!」
魔力のないえくしゅかりばーは量産可能なガラスに過ぎない。
いや、ガラスが綺麗だけどエクシュはデザインが終わってるしそれ以下かも……。
「ただすぐ壊れるのは、本来の用途ではないと思うがのう」
「えっ、秒で壊れるのがえくしゅかりばーの用途じゃないんですか!?
「そんな用途の剣はない!」
力強く言い切られてみて、私は初めて気付いた。
そ、そうだ……そんな剣あるわけないじゃん!?
「じゃ、じゃあ、エクシュは不具合で壊れやすいのですか?」
「今はまだ本来の姿は見せてないということじゃな。信頼関係を深めていけばきっと良い剣に育っていくじゃろう」
「生きてる感じですか!?」
「万物に意思がある。それが精霊というものじゃな」
なんとエクシュには意思があるらしい。
というよりは、何か精霊が憑いているということか。
なるほど、今はまだ信頼が薄いから壊れやすいと言うのは頷ける話だ。
出会ったばかりの関係ってガラスのように壊れやすいもんね。
でも、私、信頼を築き上げていくのって1番苦手だよ!?
人間とも友達になれなかった私が、果たして剣とお友達になるなんて可能だろうか。
……いや、出来るはず!
むしろ人間より友達になれる可能性高い!
前世では机に飾ってたミニサボテンが友達だったし!
「エクシュ、これから仲良くやっていきましょう! ええっと……きょ、今日はいい天気ですね?」
「会話のバリエーションが貧弱じゃが、まあ、そんな感じでいいじゃろう」
こんな感じでいいらしい。
会話の内容より、話しかける行為が大事なのかもしれない。
あとは音楽でも聞かせてあげようかな。
……いや、花を育ててるみたいになってるけど剣だよね?
「今回の旅行はそれを得ただけでも大収穫じゃったな。あとはジーナの日記に期待するとして、もう新学期もすぐそこじゃし、学院長としては帰宅を進めねばならんのう」
「えっ、もうですか!?」
「肝心要の『真実の魔法』の解除方法が、ジーナの解読待ちになるからのう。長居すると、逆にジーナの作業が遅れるし、わしとしても早く学院に帰る必要がある」
そうか、私たちはともかくナナっさんはこれでも当学院の学院長であり、長く席を開けるわけにはいかないか。
そして私たちが出来ることがないというのもまた事実。
噂も夢の中で殆ど見つけたしね。
「それに、学院への帰宅であれば瞬間移動が可能じゃ」
「瞬・間・移・動が!?」
聞き慣れない言葉に思わず飛び跳ねるように反応してしまう。
しゅ、瞬間移動って、人類の夢中の夢、夢of夢なドリームカムトゥルーじゃん!
魔法ってそのレベルですごいものなの!?
「行きは無理なんじゃが、学院に帰るだけなら魔法陣を作ってあるからできる。儂はそれで帰るが、一緒に帰ればおぬしらも馬車に乗らんで済むぞ?」
「馬車はなんだかんだ疲れますからね……ありがたい話ではあります」
ジェーンが少し暗い顔で、ここまでの道中を思い出すように呟く。
そう、馬車はとんでもなく揺れるのでお尻に大ダメージ必至なのである。
私などは寝ていたから楽チンだったものの、ジェーンはさぞ疲労したことだろう。
可哀想なジェーンのお尻……すっごい華奢なのに。
「我が娘ながらひ弱ねぇ。まあ、いいわ。私も十分太らせて満足したし、神様に連れてって貰いなさい」
「お母さん、太らせることが主目的なの……?」
とんとん拍子に話は進み、こうして帰路は馬車ではなく瞬間移動で帰ることとなった。
便利すぎてもはや旅行感すら薄れる大魔法だけど、便利すぎて悪いことなどないのも事実。
愛らしいジェーンのお尻が二つに割れないように、ここはナナっさんに甘えることにして、私たちは庭へと移動した。
★
庭ではナナっさんは長い枝を用いて地面にガリガリと魔法陣を書いているところだった。
その動きは手慣れたもので、まるでささっとサインの横にキャラを描く絵師様のよう。
……魔法使いが魔法陣書くたびに思うんだけど、円描くの上手すぎない!?
絵の基本は綺麗な丸と綺麗な線を引くところからと聞くが、魔法使いはそれならば絶対に絵が上手くなる下地ができていると思う。
魔法使いは絵師様だった?
もう地面に美しい魔法陣を刻んでいく姿を見るだけで私からすれば大尊敬で大興奮な光景なのに、ナナっさんはただの魔法使いではないので、この程度ではすまない。
そう、彼は大魔法使いなのである。
ナナっさんは地面のみならず虚空に枝を振ると……宙にも魔法陣を描いていく。
空に赤い線が燃えるように刻まれていく。
その光景は幻想的を超えて幻影的ですらあった。
これは、魔法の中でも最高難易度と名高い『立体魔法陣』と呼ばれる大魔法!
これを生で見られることはパンダを生で見るくらい貴重だ!
……あれ? 貴重さがちょっと薄まったかな!?
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