その53 へちょそーど

 まさかの立体化!

 斬新すぎる3Dプリンター!

 そのDの内訳は駄目駄目駄目で間違いないと思われる。

 な、なんでこんなことに……。

 

「これが伝説の剣よ〜」

「これが伝説の剣なんですか!?」


 ふらふらと手に持った適当剣を揺らしながらニムエさんはその剣を伝説だと主張するけれど、とてもじゃないけれど、本当に全く、欠片も、一ミリも! そうは見えない!

 勇者が聖剣を求めてこんな剣に出会ってしまったら、ショックで地面に崩れ落ちるんじゃないかな……。

 悪い意味で伝説にはなりそうだけどね?

 

「伝説とは人の思い、故に伝説の剣とは人の思う剣のことなのよ〜」

「つまり、私がこんな剣を想像してしまったが故に、伝説の剣はこんなことに!?」

「そうね〜、かっこいい剣を望めばかっこいい剣が手に入ったわ〜」

「む、無限の可能性があったのにいいいいい!」


 なんとびっくり伝説の剣とは、その人が思い描く剣のことだったらしい。

 そして同時に私がとんでもない大失態を演じていたことも分かる。

 

 何故なら、ここで私がビームを放つ剣を想像していたらそのような剣が手に入っただろうし、魔法を消す剣だって想像すれば生み出せたかもしれないのに、結果はこれ!

 この貴重な機会を落書きソードで終わらせてしまうなんて、なんという可能性の無駄遣い!

 せめてもう少し丁寧に描くべきだったー!

 これもう3分で描いてるもの!


「私は良い剣だと思うわ〜、命名『えくしゅかりばー』」

「弱そう! ペットボトルくらいしか倒せなさそう!」

「はい、貴女のものよ〜」


 ニムエさんから私はえくしゅかりばーを差し出されて、思わず手に取ってしまう。

 えくしゅかりばーは剣とは思えないほど軽かった。

 というか、軽過ぎる!?

 まるでプラスチック製品!

 中身絶対詰まってないよこの剣!


「試し斬りしましょう〜! はい、この葉っぱをどうぞ〜」


 ハラハラと落ちてくる葉っぱたちはニムエさんの声に従うように私の目の前で、誘うように左右に揺れる。

 

 そ、そうだよね! 切れ味はいいかもだし……!

 軽くて良く切れるならそれは最強だよ!


「えいっ!」


 葉っぱに向かってえくしゅかりばーを振ると、見事に葉っぱに当たりそして……そのまま葉っぱは切れもせず落下していった。

 ……まだ判断するには早計! 私は諦めない!


「いや! 待ってください! 空に浮かぶ葉っぱを切るのは相当な達人技なので今のはノーカンです! え、枝を切らせてください!」

「いいわよ〜、はいこれ〜」


 往生際悪く、まだえくしゅかりばーの可能性を信じている私に、ニムエさんは枝を投げ渡してくれる。

 私は枝を左手で持ち、えくしゅかりばーを右手で持つ。

 お願い! これくらいは切れて!

 二つを重ね合わせるように刃を当てると……なんと剣の方がパリーンと砕けた!

 そんなことある!?


「嘘でしょえくしゅかりばー!?」

「大丈夫よ〜、すぐ直るから〜」


 軽い衝撃で砕けたえくしゅかりばーの姿は私に強烈な衝撃を与えたけれど、ニムエさの言う通り、砕けた破片が勝手に動き出して、また刃を形成しようとしている。

 

 か、回復機能付きの剣!

 すごい!

 ……すごいけど切れ味が駄目駄目だとなんの意味もないからね?


「いい剣ねぇ〜」

「いい要素ない気がするのですが!? で、デザインも私の落書きですし、え、えー!? 本当にこれが伝説の剣ですか!? リセマラなし!? あの、もう一回! もう一回だけチャンスをください! もっといい剣を想像してみせます!」


 私は両膝を突いて、正座の姿勢を取り、ヘヴィメタのヘッドバンギングくらい激しく頭をペコペコと下げるけれど、返ってくる言葉は無慈悲だった。

 

「ごめんなさいねぇ〜、一回こっきりなのよ〜」

「ですよね……! 引き直しできたらなんでも作れちゃいますもんね! ううっ……わ、私がアホなせいでこんなことに……」

「本当にいい剣だと思うわよ〜? あえて説明はしないけどね〜っ!」


 クスクスとちょっと意地悪に笑いつつ、砕けた破片を私の方へ投げるニムエさん。

 破片は吸い込まれるようにえくしゅかりばー、略してエクシュにくっつくと、剣は完全に元通りに直った。


 こうして見ると確かにすごい気もする。

 魔法の使えない私からすれば、魔法の剣というのは夢の武器ではあるのだけど、せめて! せめてデザインがなぁ……!


「剣を渡すお役目は終了したし、友達も心配しているでしょうし、私はこの辺でおさらばするわ〜。また会うこともあるかもしれないけど、その時はよろしくね〜」


 ニムエさんはそう言い残すと、ゆっくりと水中に沈んでいく。

 泉の精だし、平気なのは分かってはいるのだけど、その姿はどうにも心臓に悪い。


 そして、ニムエさんの退去と共に、泉を覆っていた霧も段々と晴れていった。

 霧の発生とニムエさんの登場には相関性があるのかな……?

 

「け、剣ありがとうございましたニムエさん! えっと、その、変な剣だけど大切にします!」


 泉に消え行くニムエさんに咄嗟に感謝の言葉を伝えると、森にこだまするように、ニムエさんの声が響いてくる。


「別に大切にしなくても壊れないし〜、捨てても戻ってくるから適当に扱って平気よ〜」

「呪いの装備!?」


 その言葉を最後に、霧は完全に晴れて、後にはただ静かな森と泉が帰ってきた。

 そして、ジェーンの姿も。


「ラウラ様! 無事ですか!?」


 私の姿を見つけるや否や、勢いよく迫ってくるジェーン。

 めちゃくちゃ心配をかけたことが、その頬の上気から見てとれた。

 

「ジェーン! ジェーンこそ無事で良かったぁ! 私はご覧の通りピンピンしてるから、そんなに心配しないで? ま、まあ、心はちょっとブレイクしてるんだけどね……」

「何があったのですか!?」


 やや落ち込む私を見て驚くジェーンに、私はおずおずとエクシュを差し出す。


「これは……け、剣ですね? 剣ですか? というか、寝る前にラウラ様が描いてくれたものですよね? あの、何故ここに……」

「これが伝説の剣なんだって」

「…………………………???????」


 ああ! ジェーンの頭の上に大量のハテナマークが!


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る