その49 夢を努努忘れるなかれ
「ともかく、どうやらここは危険な場所なようです。私のそばを離れないようにしてくださいラウラ様」
ジェーンの言う通り、ただでさえ夜の森は危険な上に、巨大な狼さんまでいるのだから超危険なのは間違いない。
むしろジェーンと離れた瞬間が私の人生の終了だと思ってくっついて動くべき!
まあ、夢の可能性もあるので、死んでも目を覚ますだけかもしれないけれど。
「うん、私一人だとそもそも狼さんとかいなくても夜の森にいたら死ぬだろうしね……でも、夢だったら死んでも案外無事だったり?」
「その可能性もありますが、私がラウラ様の傷つくところ見たくないので、夢だろうと守ります」
「きゃーーーーーーー! ナイトオブナイツだ!?????」
真面目な顔ですごいことをいうジェーン。
ここにきてジェーンの騎士様ぶりが止まらない!
思わず黄色い悲鳴をあげてしまった私の気分は宝塚だ。
男装とかして欲しいー!
「ジェーンのイケっぷりで死にそうかも……」
「頑張って生きて行きましょうラウラ様」
「うん、頑張る……! そのために、とりあえず現状を確認しようか」
力も魔法もない私が生き残るためには知あるのみ!
まあ、そうは言っても私は勉強ができる馬鹿という悲しい部類の人間で、特別知に優れているわけではない。
けれど、馬鹿でも、愚かでも、考えることと知識を蓄えることは無駄にはならない素晴らしい物だ。
私は現代知識もあるので、多少はマシなはず……!
「剣を思い浮かべながら就寝したところ、気付けばこの森にいたというのが現在の状況です」
「それで、夢かどうかも実はよく分からないんだよね」
「はい、ラウラ様の『真実の魔法』によって、夢ではない、もしくは夢であっても特殊というのが分かりました。ただ、特殊な夢というのがもう謎すぎるんですけどね……」
確かに特殊な夢とだけ言ってしまうとなんでもありで、ほとんど何も言っていないのと変わらない気はする。
よって、よりその特殊を狭めていく必要があるだろう。
「考えられるパターンは二つだと思う。まず剣を思い浮かべて寝るという条件が達成されたことで、瞬間移動したパターン。この場合、私たちは本当に見知らぬ土地にいることになる!」
「夢と思わせて現実……そのパターンだとすると、かなり怖いトラップですね」
夢と思って無茶をすれば、確実な死が待っている。
なるほどそれは剣を守るためのトラップとして一流かもしれない。
そう、そうなんです! 剣を今から探しに行こうというのだから、試練があるのも自然な話なんです!
試練という言葉は何故か私の心を躍らせるものがある。
何故かっていうかゲームのやりすぎだろうけれど。
もしかすると、先程の狼さんもその一例なのかも?
「次のパターンは私たちが知らないだけで、夢にも種類がある説。科学的に考えた場合、夢は脳の働きだけど、魔法的に考えると、夢はもっと特別なものになるはず。寝ている間に意識だけが辿り着くドリームランドともいうべき異世界があるのかも」
「ここがその異世界という話ですね。なるほど……あり得ると思います! いわゆる妖精郷やアヴァロンのようなものですね?」
妖精郷というのは読んで字の如く、妖精がいる世界のこと、現実的に考えるとそんなものは存在しないけれど、ここは魔法の世界、あってもおかしくはない。
アヴァロンもまた伝説の島であり、英雄が集っているとされている……現実にはない。
つまり、それらと同じように、ここは夢という媒体を通して辿り着く現実と異なる世界ではないか、というのがパターンその二。
超分かりやすく言えば……私たちは頭の中にない夢の世界に来た!
……みたいな? まあ、全ては妄想なので真相ではないんだけどね。
「ラウラ様、すごい発想力です! そんなに柔軟に物を考えられるのに、どうして魔法が使えないのでしょう……」
妄想過多な私の考えをジェーンは褒めてくれるけれど、現時点ではもう本当に妄想of妄想なのであまり褒められても困ってしまう。
オタクの考えすぎな考察に過ぎないから!
いわゆる「キャラの背景に置かれている花や小道具は二人の関係性を表している!」みたいなやつ。
製作者そこまで考えてないと思うよって言われがちだけど、私はああいうの考えるの大好きなんです。
そして、そんな妄想に花咲かせる私だけど、ジェーンの言う通り、魔法は一切使えない。
「頭が硬いからかなぁ」
魔法は私にとって非現実の象徴。
妄想は非現実への逃避。
よって、どれだけ妄想しようとも、私は魔法を現実的に受け止め切れてはいないのだと思う。
その意識はこうして目の前で魔法に直面しようとも変わらないので、筋金入りのものだ。
げに恐ろしきは前世の記憶。
逆に考えれば記憶喪失にでもなれば、魔法が使えるようになるのかも?
「ただ、パターン二の場合は気を付けても仕方ないかもしれないから、パターン一に重点を置こう! 例えば高いところから見渡せば、自分たちのいる場所が分かるかも!」
「素晴らしいお考えです。そうですね、では、飛びましょうか」
「飛びますの!?」
「はい、飛びます。今日はかなり調子が良いので!」
突然の飛翔宣言に思わずお嬢様言葉が出てしまう。
この森に来てからのジェーンはどうやら絶好調のようで、テンションも少し高めだ。
森自体に何らかの効能があるのか、それとも夢の中だからなのかは、まだ分からないけれど、大変に良いことだと思う。
私の調子はと言えば、先程も言った通り、まるで魔法を使える気配もない。
0はいくら掛けても0ってこと?
「ラウラ様も一緒に飛びましょう! 置いていくのは心配なので!」
「そ、そうなるよね! う、うーん、正直ちょっと怖いけれど、うん、ジェーンを信じる!」
無力な私を置いていくなんて、優しいジェーンにできるわけがない。
よって私は、例え火の中、水の中、草の中、森の中、土の中、雲の中、あのコのスカートの中、どこへだってついて行くしかないだろう。
ジェーンにいらぬ心配をかけないことが今の私にできる最大の善行のはず。
それに、ジェーンは魔法の天才児。
空なんて幼い頃から、当たり前のように飛んでいた生まれながらの魔法使いだ。
そう、これは世界で一番安全な空のフライト。
何も恐れることはない。
世界一可愛いキャビンアテンダントさん兼機長さんもいることだしね。
「ありがとうございますラウラ様……それでは、あの、ど、どこでも良いので抱きしめてください」
「そういう感じの飛び方!?」
「ほ、箒があればちゃんとした二人乗りも可能なのですが……」
「じゃあ、えっと、こ、腰を」
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