その46 思い出せないとすっごい疲れる
「では日記は解読に回すとして! こちらの調査結果も話しますね。えっと、ナナっさんの住んでた神殿にこの子がいたんです」
「フギンじゃな、もう一匹ムニンというカラスもおるはずなんじゃが、何処かに移ってしまったのかのう」
「あの、この子って本当に過去を語っているんですか?」
もう断定的に、過去を語るカラスことフギンさんは、過去を語るのではなく、過去の人の言葉を記憶して真似るカラスだと思われている。
けれど、この魔法の世界においては、本当に過去を見て話している可能性もあるのではないかと私は思っていた。
というかそっちの方が魔法の世界観あって良き!
魔法が使えないからこそ、私は魔法にちょっと夢見がちなところがあった。
「フギンはただ真似るだけじゃ」
「そ、そうですよね……」
「じゃが、ムニンは本当に未来を語れるぞ!」
「そうですよねぇ!!!!」
さすが魔法世界! やっぱり未来を見るカラスさんは実在したんだ!
落とされたテンションが急激に盛り上がったことで、高山病のように息が荒くなる私。
そう、フギンさんは確かに真似で『過去を語る』という要素を再現可能なのだけど、ムニンさんは真似では『未来を語る』という要素は再現出来ない!
未来の真似出来たらそれもう未来視だし、そうなるよね!
「俺はてっきりムニンというのは、催眠術のようなものか何かで、自分が前に言ったことを相手に繰り返させることで『未来を語る』としているのかと思っていた」
お兄様が大変に物騒なことを言い始める。
た、確かにそれは未来を語ってはいるのかも知れませんが……。
「それはお兄様の発想力がすごすぎます!」
「未来を語るというか無理矢理に未来を作ってますね……」
お兄様の推理した『未来を語らせるカラス』と言うのもなかなか面白いけれど、ナナっさん曰く本当に未来を語るというムニンさん。
是非ともお目にかかりたいものだけど、今は行方不明らしい。
何処かで会えないかなぁ。
「ナタ学院長、フギンが剣のありかだったり、泉の場所だったりを話していたのですが覚えはありますか?」
「剣と泉……ものすごーく懐かしいのうそれ。なんじゃったか……ヤバい、思い出せそうで全然思い出せん! あー! こう言うのが一番ショックを受けるんじゃよ! 歳食ったことを思い知らされるというか!」
懸念していたことではあるけれど、やはり何十年も前の出来事なんて、なかなか記憶できるものではないらしい。
ナナっさんは頭をぐりぐりと壁に押し付けてなんとか思い出そうとしているけれど、その行動で思い出せるのかは果てしなく謎だった。
小動物めいて可愛い動きではあるのだけども!
「ぐおおおおお! 駄目じゃ! 全然出てこん! この村で神やってた頃は黒歴史じゃから、無意識に記憶を閉ざしているのかもしれん!」
「人の記憶って都合の良いものですから、仕方ないですよ!」
昔の記憶なんてあやふやもいいところで、私などはどこまでが事実で、どこからが脚色されたものなか、全く分からないくらいだ。
むしろナナっさんはよく記憶している方だと思う。
さすがは永遠の神童。
幼き古き叡智の少年ナ・ナタ・エカトスティシスだ。
「まるで思い出せないところを見るに、もしかすると剣も泉もさほど重要ではないのかもしれませんね……」
「そうだな。大変な魔剣や魔法を解除する泉であれば、多少は重要事項として記憶していそうなものだ」
「いや! 儂の記憶力がクソなだけの可能性は十分に考えられる! 一時期、自分の誕生日を忘れておったからな!」
「7月8日ですよね?」
「……当たっておるが、なんで知っとるんじゃ!?」
見事的中されて驚くナナっさんだけだけど、推しの誕生日を忘れる私ではない。
これくらいは当然のことだった。
ゲームによってはファンタジー系なので青の月第3週なんて洒落た暦にもなりがちなのだけど、トゥデは一応、現代と同じような暦が用いられている。
12月にはクリスマス祭なんてのもあるので、かなり緩い異世界だと思う。
キリスト教自体はないはずなんだけどね?
「ナナっさんに限らず全員知ってます! お兄様は9月20日、ヘンリーは5月6日、グレンが8月23日で、ジェーンは4月19日、ローザは2月1日です!」
「えっ!? す、すごい特技ですねラウラ様!?」
「誕生日を記憶するのが得意なものがいるとは知っていたが、ラウラがそうだったとはな」
得意げに自身の記憶力と推しへの愛を披露していると、何故か芸の一種だと思われてしまった。
いるけどさ! 適当な日付を言うだけで誰が生まれたか言える芸人さん!
ちなみにイブンは誕生日不明です。
ホムンクルスだからね……。
「まあ、色々あったようだけど、今日はもう休みなさい! 夕食はお鍋を用意したわよ!」
「その色々の一部を担ってるお母さんに言って欲しくないけれど……ラウラ様もお腹減ってるだろうし、えっと、そうしましょうか」
「うん! もうペコペコのペコでお腹と背中がリアルにくっつきそう! お鍋楽しみです!」
鍋料理なんて前世ぶりな私は、風味豊かなお鍋の味を想像して、唾液が溢れる。
山登り後のお鍋なんて、何とも素晴らしいじゃないですか!
雰囲気と疲労も相まって絶対に美味しいこと間違いなし!
……私は山登りというか、山背負われで、完全に、そして文字通りお荷物だったけれど。
た、体力を付けるためにもいっぱい食べよう! うん!
そんなわけで、その日は食卓で賑やかに会話の花開かせながら、絶品山菜鍋に舌鼓を打ち大満足で終わった。
そしてその夜……。
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