その31 愉快なメーリアン兄妹
色々なものが挟まりながら、ようやく旅行のための買い物が開始される。
いや、半分くらい私の迷子が原因だから、申し訳なさMAXなんだけども。
さて、ここで一つ問題がある。
それも結構切実な問題だ。
そして悲しい問題でもある。
その問題とは……私が友達と旅行なんて一度もしたことないということだ!
友達と旅行は……ぼっちには絶対できないからね。
それどころか友達がいてもかなりハードルの高い行為だと思う。
99を限界とするリア充レベルの中でもレベル70くらいを推奨されるラストダンジョンでは?
レベル0から最近1になったばかりの私ではどう考えても足を踏み入ることができない場所だ。
即死するか逃げ続けるしかない領域!
実際、友達と旅行して何をするのか全く私には想像ができない。
と、トランプとかするのかな!?
アニメや漫画ならトランプは鉄板だった気がするんだけど、これってオタクの妄想?
「まずお邪魔する形になるのだから、菓子折りなどが必要になるだろう。村を歩き回る必要もあるから、硬い靴やつばの広い帽子も必要か。あとは水筒と保存の効く軽食……」
「超しっかりしてますねお兄様!?」
私の妄想とはまるで違うガチな旅行準備に私は己の愚かさを知った。
トランプて! 遊びに行くんじゃないんだぞラウラ・メーリアン!
調査旅行なんだから、しっかりしなければ!
私たちの目的は田舎における噂話の探求であり、言うなれば民俗学のフィールドワークにも似ている。
前世は妖怪ものにも傾倒していた時代があったので、実はフィールドワークという行為には憧れがある。
なので、結局楽しみなんだけどさ!
「当家の顔が広ければ紹介状一つで、食住揃った中継地点を知人や親戚の家で確保できるんだがな……」
「当家は嫌われてますからね!」
「当家の名前を出すと呪われるらしいぞ」
「あ、あの、私はお二人が立派な人だと知っていますから!」
メーリアン兄妹お得意の当家ジョークを繰り広げていると、ジェーンが心優しくフォローを挟んでくれる。
お気遣い感謝しかない!
けど、私もお兄様ももはや自分の家には諦めがついているところがあるので、平気なんだけどね。
「馬車の手配は俺がしておくとして、あとはそうだな……暇つぶしでも買うといい」
「えっ! いいんですかお兄様!?」
「買わないなら、俺が勉強を見てやってもいいが」
「お兄様先生爆誕ですか!? わー! それも最高ですね! ど、どうしよう! お兄様先生の授業超受けたいんですけど、真・世界一受けたい授業なんですけど! 魔法の勉強だけは私、駄目すぎるのでご迷惑になるかもだし、遊びたい気持ちも正直ありますし……」
「……嫌がられると思ったんだがな」
うら若き乙女が最も嫌うもの、それは勉強という風潮があるけれど、お兄様先生なら話は別である!
それは(受講登録をするために全乙女が)そう!
私はそもそも勉強が嫌いなわけではないんだけどね。
「私もジョセフ様に教えてもらえるなら、その、ありがたいです……」
勉強熱心なジェーンもお兄様先生の授業は受けたそうだった。
お兄様は成績が優秀も優秀、成績全一なので、私たちじゃなくても受けたい生徒は多いと思う。
それにめちゃくちゃ教えるの上手そう……偏差値五億くらい上がるよ多分!
「ジェーンもラウラも真面目だな……大変良い事だが、たまには気を抜くことも必要だと思うぞ」
「えっ……お兄様が言いますか!?」
私にとって真面目の象徴とはお兄様のことだから、そのお兄様がそんなことを言うので驚いてしまった。
ものすごいおま言う(お前が言う!?)に、思わずお兄様相手にツッコミを入れてしまった!
すっごい失礼!
でもこれは本当におま言うで、お兄様は一分の隙もない努力家なお人で、ほとんど寝ずに勉学に励んでいると聞く。
だからこそ年々目つきが悪くなってきてるような気も……。
チャームポイントだから私としては、なくなって欲しくない気持ちもあるのだけど、体調が心配なのでしっかり寝て欲しい気持ちもある。
……いやいや健康一番! 推しの健康が私の健康です!
「お兄様はきちんと寝てください! 旅行中はちゃんと寝るまで見張ることにしますから!」
「俺は別にいいんだが……ほら、体もデカイだろ」
「デカさは関係ありません!」
「体力がある。ラウラは階段を登ると息を切らす。大きな違いだ」
「そ、それは関係……あるかもですが!」
悲しいことに体力を持ち出されるともう反論できなかった。
ま、まさか弁舌という舞台で体力で負けるなんて!
真逆のものだとばかり……!
「ふ、ふふふっ」
お兄様と言い争いとも言えないような、奇妙な会話を繰り広げていると、ジェーンがそんな兄妹の姿を見て突然笑い始める。
「す、すいません、でも、うふふっ………お二人が面白いものですから」
「いたってつまらない人間だがな」
「お兄様は面白い人ですから安心してください!」
「いや、ラウラには勝てない」
「お兄様まで私を珍獣扱いしますか!?」
「ふふふっ、ま、また、そうやって微笑ましく」
どうやらジェーンは私たち兄弟の会話がツボに入ったらしくずっと口を押さえて笑い続けていた。
もしかしてメーリアン兄妹の会話がコントだと思われてる!?
なんかメーリアン兄妹ってコンビ名ありそうだもんね!
『メーリアン兄弟の嘘がつけない方、ラウラです!』『メーリアン兄弟の嘘がつける方、ジョセフだ』『いや嘘がつけるのは普通ですからー! よろしくお願いしまーす! ぱちぱちぱちー!』みたいなコントの入り方しそう。
「えっと、あの、実は私、お二人に憧れていたんです……」
「お兄様だけでなく私もですか?」
「俺のようなやつにこそ憧れる要素はないだろう」
「お二人は自己評価が低すぎるんです!」
兄弟揃って否定するもので、ジェーンは珍しく怒ったように私たちを叱る。
怒る姿も可愛いジェーン……えっ、最強か?
そして、い、言われてみれば確かに自己評価低い兄弟かもしれない!
当家があんな感じなもので、自信を育てる機会がなかったとも言う。
私はともかくお兄様には自信を持ってもらう必要はありそうかも……。
「お二人とも容姿端麗で勉学に優れていて、有名人でしたよ」
「「悪評で?」」
「なんでそこで兄妹の声が揃うんですか!」
もはやメーリアン家といえば悪評、悪評といえばメーリアン家。
私たちにとって有名とは絶対的に悪名である。
もうそんなこと当然なので、ジェーンの言葉に私たちは、兄妹で一緒に首を傾けた。
「と、とにかく、そんなお二人のこんな姿が見られるとは思っていなかったもので……」
「まあ、嫌われてないのなら良かった」
「ですね! 旅行メンバーが仲が悪かったら気まずさMAXENDですから!」
お兄様は基本的に自分の顔の怖さで万物から恐れられていると思っているため、嫌われてないだけで、少しほっとしていた。
な、なるほどこうして改めて見てみると、自己評価すっごい低いかも……。
でも、これでお兄様とジェーンのフラグが立ったような気がする。
もしかして旅行を終える頃には急接近なんてことも……あるのでは!?
ドキがムネムネな展開が目の前に迫ってるかもしれなかった。
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