その29 神出鬼没
「ラウラ様! 無事でよかったです……!」
「ジェーン! もう二度と会えないかと思った!」
そわそわと落ち着きなくカフェの椅子に腰掛けていたジェーンが、涙目でそんなことを言うものだから、私も感極まって瞳を潤ませ二人で手に手を取り合ってしまう。
友達ができて初めて分かったけれど、感情がすっごい移る!
というか、そもそも私は推しに感情をおきあがりこぼしくらい簡単に揺れ動かされてしまうのに、そこに友達という要素が加わったせいて、もう船上のように揺れ揺れだった。
「二人とも仲が良くて結構だが、話したいことがある。少しいいか?」
「あっ、はい! お兄様!」
「はい、大丈夫です」
私がジェーンの前に腰掛けると、お兄様は私の横にスッと腰をかける。
もしかするとジェーンの横に座らないかななんて思ったけれど、それは(家族なので)そう。
ジョセフ×ジェーンは今の所欠片も見えてこないので、妹は心配ですお兄様。
心配されても困るだろうけども。
「実は生徒会室から出たのは旅行の準備のためだけじゃなく、この話をジェーンとラウラにしたかったからなんだが……学院長の話だ」
「ナナっさんの話ですか?」
私とジェーンを生徒会室から自然な流れで連れ出したのはなんと目的があったらしい。
そもそも連れ出されたなんて思いすらしなかったけど!
もしや私はお兄様相手なら誘拐され放題……?
いや、お兄様相手じゃなくても私は誘拐され放題だったか……。
この世界一の雑魚です! ランキング頑張ります!
「……学院長のことをナナっさんと呼んでいるのか」
眉をひそめるお兄様を見て私は顔が真っ赤になった。
そうだ! お兄様知らなかったんだ!?
やましいことはないはずなのに、ナナっさん呼びを知られるとすっごい恥ずかしいのはなんでだろう!?
完全にオタクなあだ名だからかな……もっとナナ様みたいなあだ名だったらマシだったのに!
「あっ!? いや、その、はい! か、可愛いですし、そのナナっさんも喜んでいるので……」
「いや、良好な関係が築けているなら良かった」
お兄様はそう言ってくれるけれど、良好と言えるかどうかはよく分からない。
ナナっさんはその真意が見えにくいところがあるからなぁ……。
誰に対してもあんな感じな気もしてくる。
「あの、それで学院長がどうしたのですか?」
「そう、学院長だが……『真実の魔法』の資料に名前が出てきた」
「えっ!? か、関連があるんですか?」
私は思わず椅子から立ち上がって驚いてしまうけれど、恥ずかしくなってすぐに座り直す……す、すいません。
それくらい私にとっては驚きの繋がりだったのだけど、考えてみればナナっさんは長き時を生きる魔法使いなので、不思議はないのかな?
「かなり直接的な関連がある……『真実の魔法』はジェーンの地元から鹵獲した魔法だが、その当時、学院長はそこで崇められていたらしい」
「あがめっ!?」
とんでもない過去が明らかになってしまった!
ナナっさんは神だったの!?
「勿論、神様というわけではない。偉大な魔法使いは時に神聖視されることもあるという話だ」
「あっ、な、なるほどー! それでも凄い話ですけどね!?」
ほとんど現人神みたいなものである。
ゲーム的な知識から見てもナナっさんは謎の多い人なので、実は私も知らないことばかりだったのだけど、まさかそんな過去があったなんて
すごいなぁナナっさん、ほとんど神だもんな。
まあ、私は別の意味で昔からナナっさん神だと思ってたし、崇めてもいたけどね!
「その頃はナナ様と呼ばれていたらしい」
「あっ、まさかのニアピン!」
適当に思いついたあだ名がまさかの正解だった。
これからは私もナナ様って呼ぼうかな……いや、でもナナっさんの方が可愛いし……。
アホなことで悩んでいると、ジェーンがおずおずと話を切り出す。
「そういえば、祖母から昔は村に神様がいたと言う話を聞いたことがあります。あれは学院長だったんですか……」
「恐らくな。だからこそ、ジェーンに過剰なほど優しいんじゃないか?」
「納得しました。学院長にとって私は同郷の子供だったということですか」
ジェーンは得心したように、ほっと息をつく。
彼女にとってはかなり謎だったナナっさんという存在の輪郭が見えたようなもので、安心感があったのかも知れない。
同じ地元出身ってだけで親近感は湧くしね?
だからナナっさんも贔屓しているのではないかという話だけど、でも、ジェーンの母とも関わりが深いはずなので、そこは神時代に接点がギリギリあるということ……?
ナナっさんの謎が一つ解けたことで新たな謎が浮上してしまった。
謎が多過ぎる!
「『真実の魔法』について学院長が何か知っている可能性は高い。だから、出発の前に話を聞き出しておきたいのだが……あの人は恐らく俺相手には何も話さないだろう」
言われてみれば、お兄様とナナっさんが会話するシーンは思い出せない。
というか、想像すらできない!
相性がもうめちゃくちゃ悪そうというか、犬猿の仲では済まない雰囲気を感じる。
それもまた尊しだけど……。
「ジェーンとラウラはあの学院長に好かれていると聞く。聞き出して貰えるとありがたい」
「……はい、あの、任せてください。ラウラ様のためなら学院長とも話してみせます!」
「な、ナナっさんはいい人なんだよ?」
相変わらずジェーンはナナっさんを苦手に思っているようで、しっかり両拳を握りしめて気合を入れていた。
親戚のおじいちゃんを嫌がる娘のような反応は可愛いんだけどね!
「私が呼べば来ると思います」
「そんな犬みたいに来るものなのか?」
ナナっさんの生態に詳しくないお兄様は疑問に思っているけれど、これはね……来ます! 来るんです!
「ナナっさんは割とどこへでも現れるところあるので、あると思います!」
「そういうものなのか……」
「そういうものです! それにジェーンのこと大好きですから、呼んでくれたらもう本当に火の中でも水の中でも現れるかも?」
「勿論じゃ! どこへでも行くぞい」
「ほらナナっさんもこう言っていますし……ナナっさん!?」
いつの間にかジェーンの横でナナっさんが足を組みリラックスした表情で紅茶を飲んでいる!?
私もジェーンもお兄様も、驚きのあまりガタタッと立ち上がり、目を丸くしてナナっさんの方へと視線を向ける。
当のナナっさんはブラブラと地面に届かない幼い足を揺らしながら、ニヤニヤと私たちの反応を楽しんでいた。
「ナナっさん! えっ!? いつからいたんですか!?」
「ラウラウがイブンに肩を叩かれて変な声あげてるところからかのう」
「最初も最初からじゃないですか!?」
「ガッハッハッハ! その顔が見たかった!」
神出鬼没なナナっさんは私の驚く顔を見て、また楽しそうに笑うのだった。
豪快で幼い笑顔は素敵だけども!
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