その26 生徒会室に推し集う


 何度来ても生徒会室は威厳を感じさせる雰囲気に満ち溢れていて、まるで背景に薔薇の花びらや、光のエフェクトが見えるようだった。


 そんな生徒会室の6人の男女が集まった。


 まず私のお兄様のジョセフ・メーリアン。

 影のある美男子だけどその家柄とキツい目つきからやや恐れられている学院の黒王子。

 ひそかなファンが多いらしい。

 

 そして副生徒会長のヘンリー・ハークネス。

 優等生かつ社交性がありみんなの人気者……だけど、実はどS。

 もう全校生徒から愛されているとっても過言ではない学院の王子様だ。

 

 次にグレン・キュブラー。

 学院唯一の不良と言っても良いサボり魔……ただし、根は真面目で裏での努力は欠かさないおかしな人。

 ワイルドなイケメンで女子からの人気は高い。


 もうこの3人が並んで座っている姿だけで相当なインパクトがあった。


 絵が強すぎる……!

 最後の攻略キャラが加わり4人になったら私は興奮のあまり膝をついて崇め奉るしかなくなるかもしれない。


 その上、私の両隣には主人公こと可愛さの化身ジェーン・メニンガーとそのライバルで今はメイドなローザ・アワーバックが並んでいるのだから、その光景は壮観の一言だった。

 

 そんな中に混じってしまった私は、悪役令嬢ラウラ・メーリアン。

 格としてはギリギリ負けてないかも……?

 中身が私だから台無しだけども!


「今日は妹の為に集まってもらい感謝の至りだが……ローザ、本当にメイドになっていたのか」


 お兄様は一日目を離した隙に何故か妹のメイドになっていたローザを睨む。

 今日帰ってきたばかりだろうに、お兄様はすでにローザの事情を聞いているらしい。

 そして、仕方のない話だけど、兄様からのローザの印象は最悪のようだった。


「い、一生かけて償うと決めましたの! それに、ラウラ様には深い恩もありますので……」

「いや、言い訳はいい。行動で示し続けろ」

「は、はい!」


 口調はキツいけれど、それはお兄様からの妹のメイドになることへの許可のようにも見えた。

 常に私の意思を尊重してくれるお兄様には感謝しかない……。


 けれど、何故だろう? 1日間が空いただけなのに、一層お兄様がかっこよく見える!

 私はじっくりとお兄様の顔を眺める。


 ……あっ、寝不足で目のクマが深くなっているからだ!

 い、いや、私の為に苦労をした証拠だろうし、喜んじゃいけないんだろうけれど、目のクマがフェチなものでつい……!


「それでジョセフ、少しくらい良い情報はありましたか?」

「……あったと言えばあった」

「おや、それは意外ですね」


 ヘンリーは親友の言葉に心底驚いている様子だ。

 親友……いい響きである。


 さて、お兄様は昨日までメーリアン家に戻り『真実の魔法』の資料を探していた。

 この魔法は因果なもので当家が生み出した魔法なので、当家にこそ一番情報があるはずだという考えからの行動だった。

 

 ヘンリー曰く、『真実の魔法』は解除する意味もないため、あまり期待しない方が良いという話だったけれど、なんとお兄様は何か有力な話を見つけてきたらしい。


「さすがですお兄様! でも、お兄様が寝不足なようでちょっと心配です! いや、あの、結果的により鋭くなった目付きは好きですけど!」

「心配してくれてありがとうラウラ……それで『真実の魔法』だが驚くべきことが分かった」


 お兄様は私の言葉を優しく受け止めつつ、そして滑らかに受け流しつつ話を続ける。


「『真実の魔法』は当家が生み出したものではなかったらしい」

「そ、そうなんですか!?」


 それは驚きの新事実だった。

 当家が全部悪いのかと思ってたのに!


 グレンも同じように思っていたようで、椅子に斜めに腰掛けたまま、お兄様を睨みつつ話す。


「如何にも拷問魔法なんてメーリアン家にピッタリじゃねぇか。本当に違うのか?」

「そこの赤い猿の言い分も分かるが、どうやら当家はその魔法を改造したという話らしい」

「誰が赤いゴリラだ! てめぇ!」


 ゴリラとは言ってないよグレン!

 でも、犬猿の仲の猿担当はグレンの方なのは事実かも……。

 木登り好きだしね?


「つまり魔法は鹵獲してきたということだ」

「……あ、あの、も、申し訳ありません。あの、鹵獲ってなんでしょうか?」


 控え目に手を挙げて質問するのはジェーンで、彼女はものすごーく緊張しているらしく、ガチガチに固くなっていた。

 この場のメンツを考えるとそれは仕方のない反応かもしれない。

 

 分かるよジェーン!

 ただ、私はふにゃふにゃに柔くなってるけども!

 推しに囲まれすぎてもう腑抜け状態である。

 温泉の5億倍の濃度がありそう……。


「要するに、他人の発明した魔法を自分のものにしたということですわ」

「……当家ではそういった行為も珍しくはなかったらしい」

「当家は相変わらず酷いですね!」


 人の魔法を強奪し、改造してより悪辣な魔法に変えていくと思うと、当家はまるで悪の研究所だ。

 やっぱり、だいたい当家が悪いのかも!

 そりゃあ悪評も絶えないのも納得である。


「ですが、それは良い話には思えませんね。より『真実の魔法』の情報を集めるのが困難になったように思いますが」

「メーリアン家に遡った資料はないってことだもんな? その辺どうなんだ狂犬」


 2人の疑問はもっともな話で、我が家にあるはずの情報がそれだけだったとすれば、『真実の魔法』解除に繋がるものとは到底思えない。


 でも、お兄様がそれだけで話を終わらせるわけがないことは私はよく知っている。

 良い情報があったとお兄様が肯定したのなら、それは絶対に私にとってプラスなはずなのだ。

 お兄様は嘘はつかない……特に私には。

 これは妹の自惚れだろうか。


「猿にも分かりやすく説明してやろう。何処から鹵獲したのかの情報も乗っていた。つまり、『真実の魔法』の原点を調査すればいい」

「『真実の魔法』の原点!? つまり真実の『真実の魔法』ってことですか?」

「言葉が渋滞してますわね……」


 変なことを言ってしまったためにローザにツッコまれてしまったけれど、お兄様は深く頷く。


「そういうことだな」

「そういうことなんですの!?」

「当家の『真実の魔法』を『真実の魔法(改)』と言うのなら、原点の『真実の魔法』は『真実の魔法(真)』と言うべきだからな」


 私の適当な言動がまさかの正解だった。

 今の『真実の魔法』は当家が歪めてしまった偽物とも言えるものらしい。

 改造と偽物は厳密にはやや違うけれども。


「もしくはオリジナルとでも言うべきでしょうか。それで、その原点の場所とは何処だったんですか?」

「それが面白い場所だった……ジェーン、君の地元だ」

「は、はひっ!?」


 緊張をほぐすためにひたすら紅茶を飲んでいたジェーンは、急に話を振られ、肩を跳ねさせて驚いている。

 手持ち無沙汰なのでついついお茶を飲んだり、ものを食べる行為に逃げがちなのは分かるなぁ……!

 あとはじっと手のひらを見つめたりする。


「そういえば、ジェーン、貴方の地元は『真実の魔法』の話が伝わっているんでしたね」

「なに? そうなのかジェーン?」

「は、はい……言い伝えみたいな感じで、あります」


 ヘンリーからの追加情報にお兄様は身を乗り出してジェーンに詰め寄る、


 それは前に生徒会室に集まった時、聞いた話だった。

 なんでも「夜に口笛を吹くと蛇がくる」みたいなノリで「悪いことすると『真実の魔法』をかけられる」みたいな話があったらしい。


 その後、私がジェーンの美人ママに会いたかったので、いつか行こうと言っていたのだけれど、まさかこんなに繋がりの深い場所だったなんて。

 やはり主人公の母親の話は重要!

 顔が良ければ特に!


「ラウラも前に行きたいと言っていましたし、どうでしょう? ジェーンの地元に旅行に行くというのは」

「じぇ、ジェーンの地元に行くのか!?」


 好きな人の実家に合法的にお邪魔できるチャンスに、グレンはにわかに活気立っていた。

 傷心の数時間後だと言うのに、素晴らしいタフさ!

 応援してるよグレン!


「まて、ヘンリー。お前、何故妹を呼び捨てにしている」

「おっと、お兄様の前では怒られてしまいますね」

「ジェーン、貴女の地元ってどこだったかしら?」


 お兄様とヘンリーが私という踏み台でいちゃいちゃしている裏で、ローザはジェーンに地元の場所を聞いている……推しが同時進行で会話してると、どっちに目を向けるべきか分からないよ!


 もう推し推し推し推し推しと推しがゲシュタルト崩壊を起こしそうなほどの密度だけど、むしろ私は幸せすぎて体が崩壊してしまいそうだった。


 こんなのもう……推しくら饅頭じゃん……!!!!

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