その25 甘味はハートの養分


「あの……ラウラ様、私はいない方が良いと思うので」


 その場にいづらくなったのか、それともこれ以上はグレンにトドメを刺すことになると思ったのか、ジェーンは申し訳なさそうにしていた。


「う、うん! あとは私に任せて!」

「申し訳ありません……」


 こちらに頭を下げ一礼すると、ジェーンはそそくさとその場を立ち去っていった。

 残されたのは膝をついたまま立ち上がれないグレンと私だけである。


 ぐ、グレン、顔が完全に無になってる!

 目と口が点で構成されてるもん!

 (∵)な感じになってる!

 だ、大丈夫かな……いつものキリッとした目に戻れるかな。


 私は冷や冷やしながら、グレンのそばに駆け寄った。


「ぐ、グレン! ごめんなさい! 私の事情で、すぐ告白することになったせいで……!」

「ば……馬鹿野郎……お前のせいじゃ……ねぇよ……」

「い、息も絶え絶えなのに優しすぎる!」


 ランニングによって死にかけた私を助けてくれたグレンだけど、今日は真逆の構図になっている。

 あの時、地面に膝を付き屈していたのは私だったけれど、今は彼が両膝を付き、愛に屈していた。


 こ、ここで私も風魔法とか使えたらいいのに!

 魔法の才能がなさすぎからちくしょう!


「い、今はまだ好感度が足りないだけで、絶対、付き合える未来もあるから!」

「安い励ましだな……だが、嫌いじゃないぜ! いつまでも落ち込んでいるわけには行かないしな」

「グ、グレン……」


 グレンはなんとか立ち上がると私の髪をぐしゃりと撫でる。


「だからお前が落ち込んでんじゃねぇよ。告白くらいで人は死なねぇさ」


 私のつたない励ましに、それでもグレンは表情を取り戻し、強気な笑顔で逆に私を励ました。

 その姿はあまりにも尊く、私は彼の背中に羽が見えたほどだった。

 

 こ、これが主要キャラのメンタル!

 傷付いてなおこちらに気を使うジェントルさまで持ち合わせてるなんて……。

 まるで不死鳥!

 或いはベニクラゲ?


 私には到底真似できない強靭な精神に感動して泣いてしまいそうなくらいだ。 

 良き良きの良き……グレン好きだ〜!


「お前の言う通りまだ終わってねぇよな」

「そうです! その通りですグレン!」

「要するに、ラウラのことが気掛かりで付き合えねぇって話だろ? なら、お前の問題を解決すればまた堂々と告白すればいい」

「そのと……その通りですかグレン?」

「お前たちのなんだ……『ラウラ様甘やかし隊』だったかに俺も入ることにする」

「ふぇっ!?」


 急に流れ弾が私の方に飛んできたので、変な声を出してしまった。

 し、しかも、グループ名が酷すぎることになってるし!


 で、でも、その意見には一理どころか百理ある。

 まず私のそばにいてもらうことは『真実の魔法』軽減に繋がるし、グレンは攻略キャラなので当然魔力が強く、むしろ私がお願いする立場でさえあるということ。

 そして、私のそばにいればジェーンと一緒の時間も間違いなく増えるだろうということ!


 い、意外と知能派だグレン!

 転んでもただでは起きずに次の手を考え続ける!

 しかもこちらにとっても得というウィンウィンな商売の原則を分かっている!


「まあ、ジェーンに好かれるためってのもあるが、お前もなかなかいい奴だしな……ジョセフの野郎はいけすかねぇが、協力してやるよ」

「あっ、ありがとうございます!」


 相変わらずお兄様とはやや犬猿の仲らしいけれど、それを押してでも協力してくれるというグレン。

 

 私の推しみんな優しすぎる……。

 遊園地のキャストでもここまで優しくないかもしれないよ!?

 

「いいってことよ……じゃあ、俺は心の傷を癒すためにスイーツを食いに行くから……」


 あっ、き、傷ついてはいたんだ!?

 全てを乗り切って平気そうな顔をしてはいたけど、心はボロボロだったんだ!


 でも青少年にとって振られるのは致命的なダメージなのは仕方ないし、かっこ悪いとは思わないよ!

 むしろ、そんな精神状態なのに頑張ってくれありがとうグレン!


「あっ、今日集まりがあるので生徒会室に来て貰えれば」

「オーケー了解した。じゃあな!」


 背中越しに手を振る例のイケメンにしか許されないポーズで、グレンは去っていった。

 最後の最後まで男らしいなぁ……。



 ★



 傷心のグレンを見送った後、私が寮へ戻るとジェーンは一人の男性を傷つけてしまったことに傷ついている様子だった。

 みんなが優しいが故にこういうこともある。

 それを私が下手くそな言葉で慰めていると、ローザが横からこう言った。


「それでグレンも協力してくれることになったんですの? それは朗報ですわね」


 私の掃除不足な部屋をモップで拭き掃除しつつ、ローザは冷静にコメントをする。


 帰ってきたら当然のようにメイドさんが部屋を掃除していたので驚いてしまった。

 このお嬢様、メイドがあまりにも似合い過ぎている。

 というより、真面目で努力家な性格ならどんなものでも似合うという話なのかもしれない。


「これで『ラウラ様甘やかし隊』……略してラアマ隊のメンバーはジョセフ様、ヘンリー様、ジェーン、グレン、そしてわたくしの5名ですわね」

「そ、その名前は変えたほうが良くない……?」

「目的が分かりやすいのは大事だと思いますよ」


 そ、それはそうかもしれないけれど……。

 いや、あれ!? 私を甘やかすのが目的だったっけ!?

 あくまで副次的な狙いだったはずでは?


「それにしてもラウラ様の人望ですわね。わたくし以外、魔力の強い人ばかりよく集めましたわ」

「いや、ローザも強いから!」

「わたくしは上の下くらいですわ」


 ごく当然のようにそう答えるローザの姿にはすさまじいお嬢様オーラが漂っていた。


 ローザのこころざしが高すぎるだけだった!

 むしろ自己認識がしっかりしているのは良いことかも!


「ですが、これ以上この学院の人間で魔力の強い者は思い浮かびませんわね……」

「そうだね……そうなってくると魔力の強い武器も集めるべきかも」

「ま、魔力の強い武器とは!?」


 現実的に考えて魔力の強い人間はそんなに多くないという話かと思って聞いていると、突然、物騒な方向に話が突撃し始める。


 きゅ、急にウェポン!?

 ウェポンの字面だけは可愛いんだけどさ!


「偶にあるんです。そう言った魔剣や魔装と呼ばれる大量の魔力を伴った武器が」

「一説には長く使われた武器に宿る精霊の力だと言われていますわ」

「あっ、そういえばそんな話あったかも!」


 ジェーンが魔法を競い合う大会みたいなものに出場して攻略ルートのキャラと共に修行に励む話があったはずだ。

 あれの優勝賞品が魔剣だったような……。


「ま、魔剣とかも『真実の魔法』軽減になるの!?」

「要するに魔力が強ければ良いのですわ。まあ、大抵人類が一番魔力が強いので、今のやり方が一番なのですが」

「なるほど〜!」


 私の体にかけられた『真実の魔法』それを強い魔力に晒すことで阻害していく……だいたいそんなイメージだろうか。

 だったら確かに魔力さえあればなんでもありなんだ!


「それも含めて今日はジョセフ様の話を聞きつつ、作戦会議をしましょうねラウラ様」


 ジェーンは少し元気を取り戻したのか、にっこりと微笑む、

 そう、彼女の言う通りこれからまた私たちは生徒会に集うことになる。

 私とヘンリーとジェーンだけだった時に比べて倍の人数になっているけれども!

 い、一日でそんなに増えることある!?


 

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