その24 致命的なダメージ
「あの、わ、私の責任でもありますし」
そう、そもそもこの事態は私の招いたことであって、グレンには申し訳なさしかない!
本当ならグレンももっと好感度を上げて告白したかっただろうに、こんな焦った感じになってしまって、ごめんなさいという気持ちでいっぱいだ。
「いや、『真実の魔法』かけられたことは完全にお前が被害者で何の責任もねぇと思うが」
「そ、それはそうですけど、その、最終的には私の口が悪いので……」
「むしろお前の口はいい方だろ。俺が本音だけで生きてたらもっと地獄を作ってるぞ」
「じ、じごく……」
グレンはちょっとばかし口が悪いところがあるので、それはそうかもしれない。
でもそれは口が悪いの意味が違うから!
『口が悪い』と『口』が悪いの違いね!
「あと、その、単純に色恋沙汰が好きというか!」
「まあ、それは女子は何故かみんなそうだよな」
確かに私に限った話でなく女性がみんな大好きな話題ではある。
女子という言葉をぐぐっとくっつけると『好』という文字になるように、女子はみんな人の好きが気になるものなのかもしれない。
私の場合はそれが二次元に向いているのが問題なんだけども。
「とにかくお前のおかげでなんか告白も成功する気がしてきたぜ」
「そ、そうですか? それなら良いのですが……」
何故だろう激しい不安がある。
まるでこれから振られるためにフラグを立てているようなそんな不安が……。
「あの、えっと、とか言い始めたら勢いで押して押して押しまくれば付き合える気がしねぇか?」
「あり得そうですけども! ちょっと小狡いですよ!?」
私の推し、計算高いな!
俺様系キャラが告白する時の思考ってこんな感じなの!?
思ったより打算的かつ勢い任せ!
でも、冷静に考えてみると、告白ってそういうものかもしれない。
念密に打算的に計画を練ってみても、結局最後は勢い任せ。
世の告白って大体この構造な気がする。
「強引に行くといえば壁ドンですね」
グレンに発言で私は最終兵器の存在を思い出した。
そう、一世を風靡した少女漫画界のかめはめ波こと壁ドンだ。
「は? なんで横の部屋のやつから怒られるんだよ」
「それではなくてですね! 女子が背にしている壁を手でこう追い詰める感じでドンッ!ってするんです」
「動物の狩りか何かかよ……つまり、こうか?」
木を背にしていた私にグレンは突然急接近してくる。
ちょ、ちょっと近すぎる!
密です! ソーシャルディスタンスを守りましょう!
動揺する私の頭越しにグレンの腕が力強く木を叩く。
木が折れるのかと思うほどのど迫力でドンッと大きな音が鳴った後、木は大きく揺れ木の葉が私たちの頭に舞い降りる。
……壁ドンってこんな感じだっけ!?
思ったより怖いかも!?
「ど、ドキドキしましたけど、同時に恐怖もしました! ダブルドキドキです!」
「おっ、前半に習ったやつじゃねぇか。つまり成功か?」
せ、成功なのかな!?
確かに心臓は下手くそなドラムのように鳴り響いてはいるけど、これって本当にときめきであってる!?
しかし、推しに壁ドンされて嬉しかったのも事実。
は、判断が難しい……。
「グレン様! 何をなさっているのですか!」
ダブルドキドキによってダメージを受けた心臓を深呼吸で落ち着けていると、急に木陰からそんな声がした。
そして私がその声を聞き間違えるはずがない。
じぇ、ジェーンだ!?
いつの間にか一本木のそばに来ていたらしいジェーンが、私たちを睨むように少し離れた場所で立っていた。
「ジェーン!? えっ、い、いつから見てたの!?」
「グレン様がラウラ様に詰め寄ったところからです」
いや、それは詰め寄ったわけではなく壁ドンという技で!
うん? 詰め寄ってはいるかな?
壁ドンってそういうものだし……。
で、でも違うんだよー!
ジェーンは少し怒ったような表情でスタスタとこちらに近づいてくる。
ふ、普段怒らない子が怒るとやはり怖い!
そして頬を膨らませてて可愛い!
手で押し込んでみたい! 絶対やっちゃだけだけど!
「ち、違うんだジェーン! これは練習でだな」
グレンも焦ったように弁解するけれど、ジェーンはそれでも強気にグレンを睨みつける。
「何の練習ですか!」
「か、壁ドンの……」
「なんで横の部屋から壁を叩かれる練習をこんなところで始めてるんですか!?」
グレンと同じような勘違いをジェーンもしていた。
そ、そっちじゃないよジェーン!
しかし、残念ながらこの世界に壁ドンが存在していないので、仕方がないんだけど!
ど、どうにかしないと!
で、でも壁ドンをどう説明したものか、え、ええっと!
「そう! グレンは嘘をついてないのジェーン! これは壁ドンという奥義なの!」
「お、奥義ですか?」
「そ、そうだ! やましいことはない!」
「そ、そうなんですか……すいません私ったら、いじめられてた時の状況が似ていたもので」
誤解が解けるとジェーンはいつものように申し訳なさそうな表情に戻った。
あ、危なかった……そうかいじめと勘違いされてたんだ。
言われてみれば壁ドンは恋愛よりいじめでよく見かける気もする。
威圧する行為なんだから当然なんだけど、そのせいでジェーンの心配をあおってしまったのは失敗だった。
というか、こんなタイミングで来るのはさすが主人公と言うべきかもしれない。
主人公ならこういう場面にきっちり現れるのも才能の一つ!
ジェーンはフラグを逃さない系女子!
「……こうなったら仕方ねぇ。もう逃げることはできねぇし、俺は告るからラウラはちょっと下がっててくれ」
グレンは小声で私にそう耳打ちすると、ずいっとジェーンの前に出て行く。
耳が幸せすぎて一瞬で赤く染まった。
しかし、流石グレン! 告白相手を前にしてもなお、グレンは男らしさを失ってはいない!
きゃっこいー!
私なら絶対に怖気付いて逃げ出している場面なのに!
イケメンは
「あっ、ほ、本当にごめんなさいでしたグレン様。その、お、おはようございます」
「ああ、おはようジェーン。あーと、なんだ、あれだな、そう、あれなんだが……あれなんだよ」
「えっ? は、はい?」
すっごい緊張してるー!
そしてジェーンもそこそこ口下手だから会話が成り立たない!
グレンは完全に動揺してしまって、次の言葉が出なくなっていた。
まあ、どう告白するかという作戦会議をしていたら、急に告白相手が現れるミラクルが起きてしまったのだから、無理もないことだけど。
が、がんばえー!
「きょ、今日は天気が良いな!」
「そ、そうですねぇ……」
「………………」
「………………」
会話は一言で終わり、周囲は静寂に包まれた。
会話というデッキの中でも天気デッキは最弱すぎるよ!
私の顔を伏せて黙るという最悪の無言デッキよりは五億倍マシだけどさ!
「ぐ、グレン! 愛と勇気! 愛と勇気だよ!」
「はっ! そ、そうだな! 愛と勇気だ!」
思わず横から声をかけてしまったけれど、私たちの間でのみ通じる秘密の合言葉によってグレンは男気を取り戻した。
覚悟を決めたのか、グレンは拳を固め、ジェーンの顔を真剣そのものな表情で見つめる。
告白が遂に本当に始まってしまう!
ナマで告白を見るのは初めての経験だけど、すでに私の呼吸は荒くなっていた。
む、無関係の私が一番緊張しているのでは!?
「じぇ、ジェーン! 俺と付き合ってくれ!」
力強いその告白は実にグレンらしくて、最高に好感が持てるものだったけれど、しかし、ジェーンの返しはそれ以上に力強かった。
「ごめんなさい!!!!! 今は大切な友人という意味でも恩人という意味でもラウラ様への協力に専念していきたいですし友情も深めていきたい時期なのでお受けすることはできませんそれにまだ私は人とお付き合い出来るほど自分を立派な人間だとも思っていないので!」
呼吸もせずに一息でジェーンはグレンを振った。
そしてグレンは……膝から芝生に崩れ落ちる。
ぐ、グレーン!
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