その22 告白は激ムズ

「い、いえ、決して、そんな、ことは、ないの、ですが……」

「仕方ねぇな……ほら、水だ」


 前回と同じく、木陰でへばっていると、グレンがまたまた木の上から現れる。

 どうやらそこが彼の定位置らしい……お猿さんかな?


 今日はその手に水筒を持っていて、彼は私にそれを投げ渡してくれた。

 ただ私の運動神経が皆無なので頭部に直撃する。

 ぐえー!


「あっ、すまねぇ」

「へ、平気です。むしろ、ご、ご褒美感あるし、ぐ、グッズ化したら、真似する人、多いと思う」

「相変わらず言ってる意味がわからねぇな」


 這う這うの体でなんとか拾い上げた水筒をごくごく飲むと、全身が一気に潤っていく感覚に襲われる。


 というか、水、うまっ!?

 えっ、水ってこんなに美味しかったっけ!?

 神の飲料水じゃん!


「俺が生成した水だ」

「グレンが!? 生成した!? 水ぅ!?」

「驚きすぎだろ。水魔法の初歩だ」

「実質聖水ですよそれ!」

「聖水はまた別の作り方があってだな」


 い、いや、そういう意味じゃなくてね!?

 す、すごい! 今、私、推しの生み出した水飲んでる!

 推し水だ! 商品化必須!

 グレン水としてグレンの顔をパッケージして324円(税込)で売ろう!


「ところで、ラウラ。お前、『真実の魔法』使われてるんだってな」


 どこで聞いたのか、前回は知らなかった『真実の魔法』についての情報をグレンは入手していた。

 いや、知らない方がおかしいのかもしれない。

 学校中の噂になっているのかなぁ。

 まあ、元々、ろくでもない噂しか流れてなかったのでセーフ!


「あっ、はい! 嘘とか付けないんですけど、元々あんまり付いてなかったし、頭の中も馬鹿なことしか考えてなかったから、みんなの協力も何とかやっていけてます!」

「……そのみんなってジェーンも含まれてんだろ?」

「はい、えっと、今は一緒に暮らすことになりまして」

「なにぃ!? くそっ、やっぱり早くやらねぇとか」


 やけに焦ったような態度を見せるグレン。

 その瞬間、私の心はカップリングへの期待で高まった。

 

 そ、そうだ! グレンはジェーンのことをやっぱり気になっているんだ!

 お兄様はまるで色恋に興味ないし、ヘンリーは恋とか分からないし、最後の攻略キャラはそもそも二年生にならないと学院では登場しないので、グレンは最後の希望なので頑張ってほしい……!


 というか、ほ、本当に、みんな乙女ゲーのキャラなんだよね!?

 三年制のゲームだからって一年目が塩すぎるよ!


「まず思ってることがあんだが、それを聞いてもいいか」

「はい! 嘘とかつけないので何でも答えちゃいますよ!」

「……すまねぇ、今のは俺の言葉が悪かった」


 もう何度目かのブラックジョークみたいになっちゃうやつが発動してしまった!

 でもこれ私からの回避は不可能なんだよね!

 ごめんなさい!

 

「いえいえいえ! お気になさらず! 嫌だったら本音で嫌って言ってますから!」

「じゃあ聞くけどよ……お前って俺がジェーンのこと好きなの知ってんだよな」

「はい! いや、将来的には? って感じでもありますが」

「あ? まあ、確かに恋は将来的なものかもしれねぇが……とにかくだ! お前がジェーンと一緒にいる以上、何かの間違いで俺がジェーンのことを好きだってジェーンに言っちまう可能性があるだろ」

「えっ……あっ、あああー! ありますね!?」


 た、確かにその可能性は存在する。

 でも、今のところはそういう思考が表層に出てくることは少ない。

 何故なら、私はもう推しを前にすると細かい思考が消えてずっと推しのことしか考えられなくなるからだ!

 他のことを考える余裕がない!

 我ながら何というトリ頭か!


 けれど、絶対ではないのは確かだ。

 うっかりしゃべってしまったらもうそれは最悪の事態と言わざるを得ない。

 その時は腹かっさばくしか……。


「やっぱりか……じゃあ、仕方ねぇな」

「ど、どどどど、どうしましょう!?」

「解決方法はシンプルだ……お前が言う前に俺が先に告る! それしかねぇ!」


 グレンは堂々と胸を張り、力強くそう宣言してみせた。


 かかかか、カッコいー!

 そして超男らしいー!

 グレンの考える解決方法は、最高にシンプルで最高に男前なものだった。


 超絶いさぎよくて、悶絶するほどイケメンで、気絶しちゃうほど男気がある!

 やっぱり好きだ〜!


 こういうシンプルに主人公のことを好きで、しっかり正面からどうどうとアタックするキャラに私は弱い。

 報われて欲しいとと少女漫画なんかでは願ってしまいがちだ。

 だから今回も全力応援!

 不足しがちなラブ成分は捨ておけない!


「わ、私、応援します! 私にできることならなんでも言ってください!」

「そうか……ありがとうよラウラ。じゃあ、告白のセリフを考えてくれるか。正直、女子がなに言われて嬉しいかなんて、俺にはよくわかんねぇんだよな」


 こ、告白のセリフかぁ〜。

 確かに重要事項だとは思うけれど、うーん。


 告白のセリフ……それは私が幾度となく(ゲームで)受けてきたもので、知識は十分なはずなのだけど、大抵はキャラに合わせたものになるから、実用性はないんだよね……。


 そもそも、実用性のある告白とはなんぞや?

 東京タワーの消灯に合わせて息吹きかけて消すみたいなやつ?


 悲しいかな想像力貧困な私の頭では、壁ドンして「俺のものになれよ(ドンドンッ)」みたいのしか思い浮かばない!

 手と肘で二回壁ドン!

 ……ないな!


「女心は複雑ですもんね……ちなみに私も女子がなに考えているか分からないです」

「お前も女子だろうがよ!」

「すいませんすいません! 女子失格で女子力皆無の女子不毛地帯ですいません!」

「いやそこまで言ってはいねぇよ!?」


 駄目だー! 私のようなぼっちなオタクに人様の恋愛を応援する資格なんてなかったんだ!

 まず自分が恋愛してから恋愛相談受けろって話である。

 一生恋愛相談受けられない可能性が出てきたな……。


「じゃあ、俺の考えてきた告白を聞いて感想を言え。いいか、お世辞なんて言うなよ! 正直にやれ!」

「はい! 嘘がつけないので!」

「……俺が悪かった」

「いや! 大丈夫ですから! さあ! お願いします!」


 謎の天丼(繰り返しのボケのこと)が発生してしまった。

 ちょっと面白くてブラックジョークにはまる人々の気持ちが分かってしまう。


 しかし、グレンが告白のセリフをずっと考えていたと思うと、も、萌える〜!

 そういういじらしい姿勢……大好物です。

 白米が進むなぁー!

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