その14 対戦よろしくお願いします!
「現状、我々と過ごすことが『真実の魔法』軽減に繋がるわけですが、それが苦痛になっては意味がありません。そう、我々は好かれる必要があるのです」
ヘンリーはその太陽のような笑顔のままに、とんでもない話を続ける。
言っていることはすっごい良い人なんだけど、面白がっているような気もする……。
そして、その言葉に異議あり!
「私がみんなと一緒にいることを苦痛に感じるなんて、ぜっっっっっっっっっったいにあり得ませんから! むしろね、幸せすぎて困ってるくらいですよ!?」
「困られても困りますね……ですが、まあ、幸せな分にはいいんじゃないですか?」
「いいんだけども!」
そう幸せで悪いことなんてないんだけども!
こう、急に公式から供給が大量にやってきて戸惑うようなそんな気持ちなんです!
いきなりグッズとか出るやつね!
「ら、ラウラ様のそのお言葉は嬉しいのですが、本当に嬉しいのですが、私たちがそんなラウラ様のご好意に甘えていてはいけません! そもそも好意とは相互が最も理想的です!」
やや赤い顔で真剣に、そして、拳をぎゅっとさせて気合を入れるジェーン。
こんな一見、馬鹿馬鹿しい話にも真剣そのもので可愛い!
「まあ、あまり重く考えないでください。ラウラが僕たちに好感を持っているように、僕らもラウラに好感を持っていることを口に出していくってだけです」
ヘンリーはそう言うけれど、それはもう『だけ』と言うよりも『どんだけー!?』って感じだ。
そ、それにそんな堂々と好感を持っているとことを言えるなんて。
ヘンリーは本当にいつでもかっこいいなー!
「ラウラ様の姿を見ていたら、す、好きを口に出したくなったというのもありますよ。やっぱり、好きは言われて嬉しい言葉ですから」
「ジェーンが良いことを言いました。そう、あんなに貴女に好き好き言われていれば僕らも悪い気はしないものですよ。というか好きになるものです」
好きと言われて悪い気はしない。
それは真理なのかもしれない。
なんだかんだ言って、好きと言われると好きになっちゃうチョロいオタクなので、その気持ちはよーく分かる。
ま、まあ、私はリアルで言われたことはないんだけど……。
ともかく、私が好き好き言いまくったことで、二人も私に好感を持ってくれていたということらしい。
じ、自分で思っておいて恥ずかしい思考!
う、嬉しいけど、駄目だー! 現実を受け入れられない!
供給が多すぎて頭がバグる時の気持ちだ!
私はバグった頭のままに立ち上がり、両拳を作る。
ま、負けてられない!
いや、負けてられないとは!?
「い、言っておきますけど! みんなのことを好きな気持ちは私の方が上ですから! その点で負ける気は毛頭ありません! 対戦よろしくお願いします!!!!」
まるできゅうりを見て飛び跳ねる猫のような大混乱の挙句、私の口から出た言葉は謎の宣戦布告だった。
いや、なんで????
どういうこと!???
私の行動を長年追ってきた私ことラウラ・メーリアンの研究によると、これは生存本能によるものだと思われる。
恐らく、今まで好きなんて言われたことのなかった私の好意に対して脆弱な心は、推しに好きと言われるという超異次元な出来事に驚きすぎて命の危機を感じ、戦闘態勢に入ってしまったのだ!
前世も含めた私の人生において、初めてのファイティングポーズである。
言うなれば頑張って威嚇するアリクイのような感じ……!
いかにも弱い!
「勝負ですね……分かりました。私もラウラ様に負けないように好き語録を強めていきます……!」
「残念ですが、舌戦で僕に勝てるものはいません。無謀な勝負を挑んだと後悔させて上げます」
何故か二人はノリノリだった。
いや本当に何故!?
でも、好きなものを全力で言い合うというのはオタクが良くするプレゼン行為で、これは大変に楽しかったりする。
この世界にもその文化が花開いた瞬間なのかもしれなかった。
これからはお互いに好きを言い合って競い合っていくという新時代の謎のスポ根みたいな空気!
嫌いじゃないかも!?
「あと『真実の魔法』軽減に向けて、更なる人材を増やそうと思っています」
「こ、これ以上ドキドキしたら私、パーンってなっちゃいますよ!? パーンって!!」
「人間はパーンってならないので安心してください」
私の叫びは涼しげな顔でヘンリーに流される。
いや、なるんだよ心が!
そして脳が!
「まあ、明日は貴女のお兄様、ジョセフが文献を調べて帰ってくるでしょうから、それ次第で行動方針を固めましょう」
「お兄様は期待するなと言っていましたが、実際どうなんでしょう?」
「望みは薄いですかね……『真実の魔法』はそもそも解く必要性がありませんから」
言われてみれば敵への尋問に使う魔法なのだから、わざわざそれを解く方法を開発する必要がない。
そんなことをしているくらいなら、もっと別の魔法を研究するということかな……。
「あっ、あの! その件についてなんですが!」
ジェーンがおずおずと手を上げる。
プルプル震える彼女の指先の振動は私の心をも振るわせる。
「私の地元で『真実の魔法』の話を聞いたことがあるんです」
「えっ? ジェーンの地元で!?」
それは少し驚きな話だった。
ジェーンの地元は大変な田舎で、この学院からは勿論のこと、都からもかなりの距離が離れている。
噂は千里を走るとはいえ、そんなピンポイントに伝わるものだろうか。
「子供への脅し文句に、悪いことすると『真実の魔法』をかけられちゃうぞって言うのがあるんです。これって、何か関係ありませんかね……?」
「ガチの脅しになりかねないよそれ!?」
『真実の魔法』がおばけとかナマハゲみたいな扱いになっている!?
話が伝わっていくにつれて噂が歪んでいったのだろうか?
まあまああり得そうな気もする。
「ジェーンの地元ですか? 結構遠い場所でしたよね……うーん、少し奇妙ではありますが、噂というのは何処へでも飛びますからね。単に都を行き来する者が話したのかもしれませんし」
「そ、そうですよね。すいません、よく母が話していたもので」
ジェーンは申し訳なさそうに話を取り下げるけれど、私はむしろ気にかかっていた。
ジェーンのお母さんはゲームのキャラとしても登場するのだけど、いつも元気な超美人さんでとても子供がいるようには見えない若々しい姿をしている。
これは私の勝手な推測なのだけど、まず主人公の母親の話というのは結構重要になることが多い。
主人公の過去とも絡めることが出来るからだ。
その上、顔が良いのだからこれは間違いない!
顔の良いキャラの言うことは大体重要だ!
「ジェーンのお母さんに私会ってみたい!」
「えっ!? は、母にですか?」
「うん、もしかしたら『真実の魔法』について分かるかもだし!」
それに……普通に会いたい!
推しのお母さんでしかも快活な美人!
オタク心が思わず疼いてしまい、図々しくも会いたいなんて言ってしまった。
けれど、意外にもヘンリーは好感触な様子で。
「今は冬休みですし、旅行には丁度良いですね。流石にすぐにとは行きませんが、計画の中に入れるのは良いと思います」
「へ、ヘンリー様まで!」
「ふふふ、僕もジェーンの地元というのは気になりますから」
ジェーンをからかうように笑うヘンリーと、からかわれて頬を膨らませるジェーンの光景を前に、私は大興奮した!
鼻の穴が当社比130%で膨らむ!
私の煩悩にまみれた発言がまさかのヘンリールートへのフラグになったかな!?
たまには役に立つじゃないかラウラ・メーリアン!
見直したよ!
「され、今日の話し合いはこれくらいにしておきましょうか。これからも生徒会室に集まって『真実の魔法』対策会議を開きましょう」
「生徒会室をそんな風に使って大丈夫かな……?」
「生徒のための場所ですから」
そう笑顔で返されるとぐうの音のも出ない。
それに今は暫く人もいないので丁度良いのも事実だった。
「そもそも、これから人も増える予定なのですから、生徒会室くらいの広さは必要です」
ヘンリーの中では人員を増やすことはもう決定事項のようだった。
ジェーンもそうだけど意志が強い人たちなので一度決めると絶対にやり遂げるパワーが彼、彼女らにはある。
そういうところが本当に素敵だ。
私も見習わないと……!
「今日からここが、ラウラ様甘やかし隊の本部というわけですね」
「そんな隊はないよ!?」
割と天然気質なジェーンが謎の集団を生み出してしまった。
合法的に私を殺そうと、キュン死させようとしている……!?
そして、私の言葉とは裏腹にジェーンの言う『ラウラ様甘やかし隊』はこの後正式名称になってしまう。
アニメの制作委員会でもなかなかそんな酷い名前ないよ!?
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