その12 ドS王子
「ただいま戻りました」
ジェーンと楽しく、そして恥ずかしく歓談を続けていたところ、学院長……つまりはナナっさんに会いに行っていたヘンリーが戻ってきた。
大変にご苦労様なヘンリーを待ち受けていたのは、ジェーンの魅力によってすっかり骨抜きになり、トロトロにとろけてしまった私と、そんな私を見て何故か笑顔でいるジェーンの姿だった。
大変に謎な光景である。
シュールすぎない!?
さしもの生徒会副会長様でも、我々の現状にはやや驚いていた。
何があったんだってなるよね。
萌えがあったんです。
「おやおや、すっかり仲良くなったようで安心しましたよ。僕はまだ外を歩いていた方が良かったですかね?」
「いえいえいえいえいえいえ! 生徒会室なんですから遠慮しないでください!」
笑顔で更にこちらに気を使おうとするヘンリーを私は必死に止める。
それは気使いというより、こちらを少しからかうような響きがあったけれど。
「ふふふっ、ヘンリー様、私、しばらくラウラ様と行動を共にしたいと思います」
「なんと、それは良かった。僕も紹介した甲斐があったというものです」
ジェーンが弾けるような笑顔でそう言うと、ヘンリーも優しげな笑顔で返す。
尊みありすぎる光景に私は思わず拝んだ。
なむなむ……。
そして、嗚呼、外堀が埋められていく。
もはやジェーンと共に過ごすことは完全に決定事項となってしまったようだ。
美少女と一緒に過ごせること自体は嬉しいことなのだけど、果たして私の心臓が持つのかどうか、
ドキドキしすぎて止まっちゃうかもしれない。
この世界には
「これで『真実の魔法』軽減に向けて一歩前進ですね。勿論、僕もできる限り行動を共にしますのでご安心ください」
「あ、安定した心にはならないかもです……!」
いつもいつでも騒がしい私の心に、果たして安心という二文字が訪れるのかは一生の謎だった。
安らかな心にはなるかもしれない……心停止によって!
★
ヘンリーは柔らかな動きで椅子に無音で腰掛けると、ゆったりとした口調で私たち二人の顔をしっかりと見つつ、話を始めた。
「さて、学院長に色々聞いて来ましたので、お二人にも話しておくべきでしょう。ローザについてです」
「……ローザは大丈夫なんでしょうか?」
ジェーンは硬い声色でヘンリーに尋ねた。
友人の一大事に、また緊張が強まってしまったようだ。
私にとってもジェーンは大切な人なので、ジェーンと同じくついつい緊張してしまう。
実際の関係としては宿敵以上友達以下って感じだけど!
話したことあの舞踏会での一度しかないしね!
「学院長は昨日、ラウラさんの様子を見て処罰を決めようとしていたそうです」
「急に会いに来たのはやはり深い意味が有ったんですね!」
「いえ、そこはノリだと」
「確かにノリノリでしたけど!?」
あの日のナナっさんほどノリという言葉が似合う人もいないくらいには確かにノリに乗っていたとは思う。
超楽しそうだったしね。
私も楽しかった……死にかけたけど。
まあ、ナナっさんのことなので趣味と実益を兼ねて、いきなり現れることにしたのかもしれない。
ナナっさんはそういうところがある。
「まあ、結果はもうご存知でしょうが、ラウラさんは見ての通りローザを全力で庇っているわけで、その思いを無碍にするわけにもいかないから、罰は軽くしようと言っていました」
「本当ですか!」
「よ、良かったぁ」
ジェーンと二人、手を取りつつ私たちはローザの無事を喜んだ。
本当に良かった……!
ナナっさんは大人としての怖い面もあるので、本当に厳しい罰になる可能性も実は結構あった。
軽い罰の内容は謎だけれど、ひとまずは一息つける……。
ど、どんな罰になるかドキドキだけれど、
「ラウラ様、本当にありがとうございます。ローザのことを救ってくださって」
「ううん、私がローザを好きなだけだから! これからもジェーンのそばにいて欲しいし!」
そう、ローザは絶対にジェーンと共に幸せになるべき存在!
私という異物が混入したことで、その未来が崩れてしまうのでは申し訳がなさすぎる。
「そういえばローザのことも好きなんですか?」
「私はこの世界の全てが大抵好きなの!」
「スケールが大きすぎます……」
勿論、この世界だろうと虫とか両生類なんかは苦手だけどね!
でもカエルとかなら王子様になりそうだし世界補正でギリギリありかもしれない……。
私は結構なんでもありなようだった。
雑食系オタクと呼んでください。
「あの学院長が言うことなので、軽いと言いつつ相当に恐ろしい罰な可能性はありますけどね」
「はっ! ……じゅ、十分考えられる話です」
ヘンリーの発言にジェーンが息を呑む。
「そこまで信用ない!?」
ナナっさんの信用の無さに全私が泣いた。
紫の燕尾服が怪しすぎるのかなー?
怪しすぎるなー!
「そういえばラウラさん」
「は、はい! なんですか?」
一人で勝手に納得していると、急にヘンリーに話を振られる。
それはかなりヤバい話題だった。
「学院長のことをナナっさんと呼んでいるそうで」
「ひゃあっ!? そ、それは、あっ、はい! 呼んでます! ごめんなさい! だ、だって可愛いから!」
学院長を相手に超不敬な呼び方をしていることを副生徒会長様にバレてしまった!
しかも今となってはかなりノリノリで呼び続けている。
だってナナっさんがナナっさん呼びを喜ぶから……。
「あ、あの学院長をあだ名で呼ぶだなんて……凄いですラウラ様! 心の底から尊敬します!」
「いや、気さくな人だから!」
ナナっさんに苦手意識を持つジェーンは私のことを大尊敬していた。
め、目を輝かせている!
ただ不敬な呼び方してるだけなのに!
「でも、私がそんな呼び方をしたら一生からかわれそうです」
「それはある!」
ジェーンの懸念は的を得ていた。
ナナっさんはそういうことをする!
悲しいことに好きな人相手には小学生みたいな不器用な愛になってしまうのがナナっさんというキャラだった。
見た目だけじゃなく心までやや子供っぽいのがまた可愛いんだけどなぁ。
その上、時々見せる老獪な部分はめちゃくちゃかっこいいので、かっこかわいいくて本当に良きショタジジイだ。
なんで攻略できないの!
ジェーンが凄い苦手だから?
うん、そうだね……。
「あまり学院長を調子に乗せるのはおすすめしませんが、あだ名はなかなか痛快で面白いじゃないですか。僕にも何かないんですか?」
「ぶっへぇっ!?」
笑顔でとんでもな無茶振りを投げかけてくるヘンリーに思わず吹き出す。
ヘンリーにあだ名なんてないから!
あえて言うならドS王子だけどそれあだ名って言えるかなぁ!?
「えっ!? へ、ヘンリーに!? じゃなくて! ヘンリー様にあだ名を!?」
「そうそう、たまに呼び捨てになりますよね。別にヘンリーで大丈夫ですよ」
「さ、流石に年上相手には……!」
ガンガン攻めてくるヘンリーに私はたじたじだ。
年上云々の話になると、ナナっさんだって目上だろうという話になるのだけど、ナナっさんはもう二回りどころか百回りくらい年齢に差があるので、逆にそこまでいくとなんか気にならない!
一応、さん付けだし!?
「僕もラウラとお呼びしますので、どうぞ気軽にヘンリーとお呼びください。ねっ、ラウラ?」
「はうぅっ!?」
ヘンリーのそのボイスは極甘だった。
まるでタピオカミルクティー!
そのカロリーはラーメン一杯分に匹敵するほどで、そんな熱量の声で求められては私の心もデブデブのデブな贅肉ハートになってしまう。
哀れな子豚はただ王子に従うしかなかった。
「じゃ、じゃあ、ヘンリー、よろしくお願いしますね……」
「もっと気軽に、はいもう一度」
「へ、ヘンリー! このままだと私の顔色、赤から青になって倒れちゃうから勘弁して! もう青息吐息だから!」
「ふふふっ、いい感じですよ」
必死に頑張る私を見て優しげに微笑むヘンリーはドSオブドSだった。
我ながら悲しいことに、からかわれることを快感に感じ始めている自分もいる。
悔しい! でも顔の良い男には勝てない……!
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