あいこの初挑戦、苗を植えよう!
2人は『さくらほっぺ』とバジルの苗を購入し、ホームセンターサカタを後にした。
バジルの苗はあいこがなすびから教わった知識を活かして選んだものだ。
「ねえなすびちゃん、どうしてバジルなの?」
「それは後で説明するね」
「はーい」
あとで教わることを楽しみにしながら、あいこは話題を変えた。
「それにしても、あやめちゃんは美人さんだったね」
「そうね」
確かに綺麗な人だったなあと、あやめの容姿を思い出す。ミントの苗を持つ姿も様になっていたし、器がプラスチックのポットでなかったらなおさら優雅だっただろうに。
「あっ違うよ! もちろんなすびちゃんも美人さんだよ!」
「いや、そんなこと」
「そんなことあるよ! だってなすびちゃんのことを密かに美人だってA組の男子たちが言ってるんだよ」
その情報は初耳だった。正直な感想は嬉しいというよりは困る、という感じだった。
「いいなあ、わたしもキレイって言われたいよ、ねえ聞いてよ! わたしってね、小動物的な扱いを受けてるんだよ! 怒っちゃうよ! ワンワン!」
「自分からなりにいってるよねそれ?」
「ワンワン!」
両手の指を、爪を立てるように曲げて鳴き声を出すあいこ。
「そういうことをやってるから小動物扱いされるんじゃあ……」
「でもね、これやってるとみんなかわいいって言ってくれるよ」
小動物扱いはしばらくまぬがれなさそうだと思い、なすびは笑った。
「あっ笑ったな! ワンワン!」
「こらこら、苗落としちゃうってば」
「えへへ」
「うふふ」
このやりとりがおかしくて、なすびの顔にも自然と笑みがこぼれる。
こうしているうちに学校に到着し、共同スペースから必要な道具を取り出して裏庭スペースに移動した。
「さて、作業を始める前に、戸間さんにプレゼントがあるの」
あいこは『なになに?』と目を輝かせる。なすびは鞄から、折りたたまれた布を取り出し、あいこの目の前でそれを広げてみせた。トマトの柄の入った黄色のエプロンだ。
「これって……」
「エプロンよ、欲しいって言ってたでしょう?」
なすびの言葉に、あいこはみるみる表情を明るくさせていった。そして、『ありがとう!』と言ってエプロンごとなすびに抱き着いた。
(よかった、喜んでくれて)
なすびは胸をなでおろす。あいこが『着てもいい?』と聞いたので『いいわよ』と言ってエプロンを渡す。
早速あいこはそれを身に着けた。サイズが合っているのを見てなすびは安心した。
「それじゃあ、活動始めましょう」
「うん!」
「今回は苗の植え付けだけど、その前にさっきの質問に答えないとね」
「バジルのこと? あれなんだけどね、理由がわかったよ!」
「そうなの?」
「うん、トマトとバジルはイタリアンではおなじみの組み合わせだよね、だからそれで一緒に育てようということだね」
「それもあるけど、それ以上に大事な理由があるの」
「ん?」
「さっき裂果の話をしたでしょう?」
「水をあげすぎると皮が裂けちゃうんだよね」
「そう、だからバジルを一緒に植えることで余分な水分をもらってくれるの、こうやって育てたい野菜とは別に植えることでその野菜にいい影響を与える植物を『コンパニオンプランツ』って言うの」
「バジルがトマトのことを守ってくれるんだね」
「そう、他にもセンチュウという虫から茄子を守るためにマリーゴールドをそばに植えたりするんだけど、そういう細かいことは追々説明するわ」
「うん!」
「それでは植えていきましょう」
なすびはトマトの苗とバジルの苗を持ち上げる。
「まずは、この2つのポットにジョウロで水をあげるの、そうすれば中が濡れてポットから取り出しやすくなるの」
「うん、やってみる」
あいこはハス口を外したジョウロでポットの中に水を注ぐと、その水は苗へと浸み込み、下の穴からその水が一部漏れだした。
「それぐらいで大丈夫よ」
2人でトマトとバジルの苗を誤って踏まないように脇に除ける。
「次に、この
なすびは鉢底石の入った袋を持ち上げる。
「先生、なんで石を底に敷くの?」
「排水性と通気性を高めるためよ、そうしないと根っこが腐ったりバイ菌が増殖したりしちゃうの」
「根っこも空気吸わないと生きていけないってことだね」
「そういうこと」
「悪いことをしちゃった人もシャバの空気を吸いたいもんね」
「それはまた別の話だと思うけどね」
「ところで石はそのまま入れるの?」
「ううん、袋の中を見てみて」
「袋の中?」
袋を留めているクリップを外して中を確認すると、そこにはネット袋に小分けされている鉢底石があった。
「なんでネットに入ってるの?」
「それはね、栽培が終わって片づけるときに回収しやすいようにするためよ」
「そっか、考えてるんだね」
なすびは『本やネットの知恵よ』と照れ隠しのためにそう言った。
「じゃあこれをそのまま入れればいいんだね」
あいこは袋の中からネットを1つ取り出し、プランターの底に置く。なすびはその様子を上から覗き込み、『うん、石の量もちょうどいいみたいだから中身の調整はいらなそうね』と言った。
「次に入れるのは野菜培養土。すでに肥料分も含まれているから肥料なしでもこのまま使えるの」
「いよし」
あいこは野菜培養土の袋を留めているクリップを外し、開いた口から培養土を注ぎ込む。
「プランターの8割ほどで止めてね」
「うん」
なすびの言う通りに8割埋まったところで注ぐのをやめ、土を手で平坦に
「次に、トマトとバジルの苗を植える場所を掘ってスペースを作って」
「うん」
あいこは移植ごてで穴を作り、掘った分の土は袋の中にリリースした。
「こんな感じかな?」
「試してみましょうか」
なすびはトマトのポットを持ってきてあいこが開けた穴の上に乗せる。
「うん、高さもちょうどいいしこのままでいきましょう」
「なるほど、それなら簡単に確かめられるね」
あいこはバジルの穴にバジルのポットを入れる。すると、少し高い位置にあったのでもう少し掘り起こして調整した。
「これであとは植えるだけね、もうそろそろ水がポットに浸み込んでるはずだから」
なすびはトマトのポットを右手で持ち、左手の人差し指と中指で茎の根元を挟んで裏返し、ポットを取り外す。
すると、土に満遍なく張られた根が姿を現した。
あいこもその動きに
「それで、植える前に根の部分を手で揉むの、そうすれば中がほぐれて根のつきがよくなるわ」
あいこはバジルの苗を『もみもみ』と言いながら優しく揉む。
「なすびちゃん、揉むで思い出したんだけどさ、あやめちゃんの胸、大きかったよね」
「まあ、そうね」
それで思い出すのはどうかと思うが、確かに彼女はとてつもない巨乳だった。カップはどれほどなのだろうか、同じ女子としては気になるところだ。
「いいなあ、わたしなんてぺったんこだよ、せめてなすびちゃんぐらいはほしいよお」
「で、でもさ、あんまり大きいと動き回るときに痛かったりとか、かわいい下着が見つかりにくかったりとか、そういうこともあって大変よ」
「うーん、ならこのままでいっか!」
(いいんだ……)
満足げに笑うあいこに見えないように、引きつった顔をそらして隠した。
2つの苗を植えた後、土寄せをして株を安定させ、最後に水をやった。
水をやるときは根元、葉にかける必要はないことを教えてあいこにやらせた。
「これで苗の植え付けの終わりよ」
「バンザーイ!」
「お疲れさま」
「イエーイ!」
あいこは両手をなすびに向かってまっすぐに伸ばす。
(ハイタッチかな?)
なすびはタッチと呼ぶにはあまりにもソフトな力加減でハイタッチをした。それでもあいこはご満悦だった。
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