第12話
デラにはレナード様に合わせる顔がないと伝えた筈なのに……どうしてレナード様がいらっしゃってるの⁈
「ヴィオラ」
いつもの、甘い声色で名前を呼ばれて思わず返事をしそうになる。
ダメダメ。折角私の為に
ヴィオラは、掛布に包まり遣り過ごす事を決め込んだ。このままこうしていれば、きっとレナードもその内諦めて帰るだろう。
だが、ヴィオラの思いとは裏腹にレナードの足音が近づいてくる。そこでヴィオラはハッとした。
これは、もしすると怒られるっ⁈
それもそうだろう。何しろ王太子殿下からのお心遣いを無下にしたも同じだ。相当腹を立てているに違いない。
牢に入れられるか、国外追放……いや、最悪首を落とされるとか……。
一気に身体中に汗をかく感覚を覚える。
だが予想に反しレナードが、くすりと笑う声が聞こえてきた。
「ヴィオラ、僕が会いに来てるのに顔を見せてくれないの?」
次にレナードがベッドに座った振動を感じた。そして、優しくレナードの手の感触が掛布越しに伝わってくる。
ど、どうしよう……。
「寂しいな」
へ……寂しい?
「可愛い、ヴィオラの顔が見たい」
顔が見たい?可愛い?……これは、聞き間違えか何かだろうか。
「僕に、聞かせて……君の愛らしい声を」
そうレナードの声が聞こえてきたと思ったら今度は、掛布ごとレナードに抱き締められた。
レナードの溶けそな程甘い声と、レナードの温かい温もりを感じる。
レナード様の顔を見たい……。
ヴィオラは無意識に掛布から顔だけを出した。
「⁈」
すると顔をだした瞬間、息が止まるほど驚愕をした。その理由は鼻先が触れそうな程の距離にレナード顔があったからだ。
「やっと、顔を見せてくれたね」
ちゅっ。
音を立て、口付けをされた。額に。
瞬間ヴィオラの顔はこれ以上ないという程に顔を真っ赤となる。
「レナード、さまっ……」
恥ずかしさにヴィオラは固まり、どうしたら良いのか分からず固まってしまったが。
「ヴィオラ……おいで」
甘美に自分を呼ぶ言葉に、吸い込まれるように手を伸ばした。レナードはヴィオラのその手を掴むと、少し乱暴に引き寄せ自身の胸の中に収めてしまった。
「ヴィオラ、もう君に会えないかと思ったよ」
「ごめんなさっ……」
スッポリと収まったヴィオラの小さな身体には、レナードの鼓動が伝わってくる。……とても、温かい。そして、レナードのいい匂いがした。
「ごめんなさいっ……レナード様から頂いた、ドレスを……私、ダメにしてっ」
レナードの温もりを感じ、安心した所為かヴィオラの瞳からは涙がはらはらと流れ出してきた。泣いてはダメだと頭では分かっているが、涙を止める事が出来ない。
ぽんっ。
だが次の瞬間レナードの大きな手に頭を撫でられた。
「へ……」
「ドレスなんて、どうでもいい……君の為なら幾らでも用意させる。それより、君に会えなくなる方が僕は辛いし……」
そんな事、僕は赦さない……そう耳元で囁かれた。
ヴィオラはビクッと身体を震わせた。それは、これまでの甘美なモノとはまるで違う、寧ろ真逆な程冷たく響いた。
「レナード、さま……?」
ヴィオラはレナードの顔を、恐る恐る覗き見る。
「どうしたの?ヴィオラ」
だがそこには、いつも通りの優しく笑みを浮かべるレナードがいた。どうやら、先程のは自分の勘違いだった様だ。そう思いヴィオラも笑みを浮かべた。
「いえ、何でもありません」
「あぁ、そうだ。急がないとね」
そう言うとレナードは、デラに馬車で待つ従者に新しいドレスを持ってくる様に伝えて欲しいと言った。
その後数刻して、レナードの従者がドレスを数着持ってきた。
「実は、あのドレスを新調した時にコレらも一緒に誂えたんだ。何れ、君に贈るつもりだったんだが……役に立って良かったよ」
アンナリーナに引き裂かれたドレスも、とても美しい物だったが、新たに受け取ったドレス達も実に精錬された輝きを放っている。
「きれい……ですが、こんなに沢山受け取る事は」
「これら全ては、君の為に作らせた物だ。君に受け取って貰えなかったら……僕は悲しいな」
「レナード様……」
レナードはヴィオラをいつもの如く、自身の膝の上に乗せると、壁に掛けられた幾つものドレスを2人で眺めた。
なんとも言えない甘ったるい空気を醸し出す2人を、デラは遠目で見守っていた。これでまた、振り出しだ。ドレスがある以上明日の舞踏会には参加せざるを得ないだろう。
折角王太子をヴィオラから引き離す、いい機会だったのに……。
デラは内心ため息を吐く。……頭が痛い。
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